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旅行バッグまではいかないものの、大きめの鞄にゲームのソフトやコントローラーを入れて、俺は明日からのゴールデンウィークで光星の家に遊びに行く準備をしていた。


「えーなぁー、私も遊びに行きたい。」

「遊びに行ったらいいやん。」

「まだそこまで仲良い友達できてへんねん。」

「あっそうや、光星男3兄弟の真ん中らしいで。お兄さん何歳なんやろなぁ。」

「えっ!?“かっこいいやつ”のお兄さん!?」


姉に光星の兄弟の話をした瞬間、姉はパッと期待するような笑みを見せてきた。紹介してもらえるとでも思ったのだろうか。自分から話はしたものの俺にそんな気はまったくなく、「楽しみやなぁ〜ゲーム一緒にできる友達できてよかった〜。」とるんるんで姉との会話を終わらせた。

予定が無く暇そうな姉は、「私も連れてけー!!!」と叫んでいてうるさかった。



翌日、昼前にいつものように光星とコンビニで待ち合わせをしてから、チャリで光星の家に向かった。光星は以前、家からコンビニまで20分くらいって言ってたけど、実際にチャリを漕いでいるとそれ以上かかっているような気がする。それか、光星が俺に合わせてゆっくり漕いでくれてるのかも。

綺麗な家が建ち並ぶ住宅街を通り、一軒の家の前に来ると光星はチャリを止める。

おっきい家に、立派な庭。かっこいい車が止まっているのを見た瞬間、俺は思った。…光星はお坊ちゃんやったか…と。

いや、お坊ちゃんと言うのは少し語弊があるが、育ちが良さそうだと思った。

「おっきい家やな…」って家を見上げながら言うと、光星は「そう?」と笑っている。『そう?ちゃうであんた、俺の家なんか賃貸住宅やで!』って言おうとしたけど、まあわざわざ言わなくていいか。と口を閉じた。


その後光星は自分で家の鍵を開け、家の中に入っていく。『母さん、永遠くん来たから。』と報告してくれている声が聞こえてきて、玄関には綺麗なお母さんがわざわざ顔を出してくださった。


「あっ、永遠くん?こんにちは〜!ゆっくりしていってね。」


この親にしてこの子あり…!

にこりと優しい笑みを向けて挨拶をしてくれた光星のお母さんに、俺はそんな言葉が頭に浮かんで、緊張してちょっとギクシャクしながら「はじめまして、片桐です…お邪魔します…」と頭を下げた。


「今日父親以外みんな家居るわ。」


家の中の廊下を歩き、チラッとリビングらしき部屋を覗いた光星は、振り向いて俺にそう声をかけてくる。

不躾ながら部屋の中にいるらしい光星の家族のことが気になり、光星の後ろから俺もチラッと覗き込んでみると、ソファーに座っている人が振り向いていて目が合ってしまった。


「あっ、こんにちは!」


慌てて挨拶をしたら、その人はぺこりと軽く頭を下げてくれる。中学生くらいの男の子だったから光星の弟だろう。


「あ、そっち弟の流星(りゅうせい)。」

「流星くん?中学生?」

「うちの学校の中等部だよ。」

「おお!そうなんや!」

「来年は高等部に上がってくるから後輩になるな。」


光星がそう話しかけると、コクリと頷く流星くん。光星とはあまり似てないものの、顔立ちが良くモテそうだ。だが俺たちの学校は男子校……この弟くんも光星と同じで、失礼ながらめちゃくちゃピュアそうな感じがした。


「とりあえず俺の部屋行く?」

「うん!…ぅわっ!」


光星からの提案に頷き、入ったばかりの部屋をまたすぐに出ようとしていたら、部屋の入り口で長身の男の人と鉢合わせになり、ぶつかりそうになってしまった。


「あっすみません…!!」


慌てて謝罪の言葉を口にするが、その人の顔を見上げてびっくり。


「かっっこよ…、えっ、…光星のお兄さん?」


あまりのインパクトに光星の腕を掴んで揺さぶりながら問いかけると、「あ、うん。」と頷き、ちょっと素っ気ない態度でお兄さんに「友達」と一言だけ告げて、光星はお兄さんの横を通り過ぎていった。


お兄さんも流星くん同様、俺にぺこりと頭を下げてくれて、部屋の中に入っていく。お兄さんも流星くんも光星より静かそうな人だ。


「やっばぁ…、お兄さんかっこよすぎてびっくりした。何歳?」

「…今年ハタチ。」

「ってことは俺の姉ちゃんのひとつ上か!名前は?もしかしてお兄さんも名前に星ついてる!?」


…って、俺は光星の部屋に案内してもらってから興味津々でお兄さんのことを聞いていたら、光星がちょっとつまらなさそうにムッとした顔で俺のことを見てきた。


「…ん?どうしたん?お兄さんと仲悪い?」

「…そんな褒めるか??と思っただけ。」


そしてフンと俺からそっぽ向いて、「お茶取ってくるから座ってて」と部屋を出ていってしまった。


……え、そんなにお兄さん褒められるの嫌だった?仲悪いから?それか対抗意識持ってるとか?別に拗ねなくても光星は俺の中では見た目も中身もかっこよくて、永遠的かっこいいランキング優勝してるのに。


自己顕示欲が低そうな光星にしては珍しい反応だったなぁ…と、俺は光星の態度を不思議に思うのだった。


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