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『ちゅーしていい?』って俺が聞いたあとから、永遠くんのテンションが気のせいでなければなんかちょっと低くなってしまった。

口数があからさまに減り、自転車を漕ぐ俺の後ろを黙ってついてきて、ラーメン屋に到着すると静かにズルズルとラーメンを啜っている。

俺が自分から変なこと言い出した上に不機嫌な態度まで出してしまったから気を悪くしてしまっただろうか。

あんなこと言わなきゃ良かったと今になって後悔する。完全にあの時の俺がバカだった。だってあの距離感なら普通にできてしまうと思ってしまったのだ。完全に早まった。いつもなら絶対こんなことしねえのに、永遠くんのいつもの“ノリ”が、俺の感覚を鈍らせた。


「ここのラーメン屋さん美味しいなぁ。」


でもラーメンを食べ終わった後は、少し機嫌が直ったのか笑顔で話しかけてくれてホッとする。


「うん、俺のおすすめ。」

「また食べに来よか。」

「いいよ、いつでも誘って。」


永遠くんが気に入ってくれたなら良かった。
永遠くんが知らないいろんなところにもっと連れて行ってあげたい。喜んでる顔が見たい。


「永遠くん、ゴールデンウィーク予定無かったらどっか遊びに行こ。」


普段自分から遊びに誘うことなんてなかったけど、もう次の週まで迫っている大型連休を思い出して、永遠くんに会えなくなるのが嫌で自分からそう声をかける。


「うん!遊ぼ遊ぼ!」


すると永遠くんは笑顔で返事をしてくれて、また俺はホッとした。さっきので俺のことを嫌になったわけでは無さそうで安心した。

永遠くんとぎくしゃくしたくねえから、変なことしないように、言わないように我慢しなければ。

距離感も、あんまり近くならないように。


「どこ行く?俺どこでもいいで!!家でゲームして遊ぶんもいいなぁ!!光星ってゲームする?」

「ゲームは弟に付き合わされてちょっとやるくらいだな。」

「光星弟居るんや!」

「うん、男3兄弟で俺真ん中。」

「おぉ…!」


永遠くんはゴールデンウィークの話からだんだんイキイキと楽しそうに話し始めてくれた。ゲームが好きなのかそんな会話になり、俺の兄弟の話で少し驚きを見せる。


「男兄弟ええなぁ!俺の姉ちゃんゲームしいひんからちょっと羨ましい!喧嘩とかするん?」

「いや、全然。兄も真面目だし弟も大人しい方だから。」

「そうなんや!なんか納得!光星も優しいし、みんな穏やかな人なんやろなぁ!」


おぉ…。永遠くんからの突然の俺への褒め言葉は心臓に悪い。つい照れそうになるのを見せたくなくて、話題を探して口を開いた。


「弟がゲーム結構持ってるけど遊びに来る?ソフトは何持ってんのか知らねえけど。」

「えっ行きたい!!俺もゲーム持っていく!!」


やっぱり永遠くんはゲームが好きなようで、俺の弟ともゲームしたいと話していた。

まったく無かったゴールデンウィークの予定が決まり、俺は来週が楽しみになった。



それから数日、淡々と日が過ぎる。

永遠くんは『スポーツクラスを敵に回してるかも』と言ってスポクラの教室前を通る時少し気にしてる感じだったけど特に何事もなく、逆に浮田とか特進のクラスメイトにはこっそりと『浅見くんノート貸さなくてよくなって良かったね』と言われてしまった。

その時俺は、周囲にそういう見られ方をしていたのか、と気付く。平気で毎回ノートを見せ、とんだお人好しに見られていたのかもしれない。自分がちょっと恥ずかしい。


永遠くんは俺の前ではよく喋り、明るい性格だけど、クラスメイトの前では大人しく、言葉を選びながら話しているようで、クラスメイトもそんな永遠くんとは普通に、そこそこ楽しそうに話すようになっていた。


永遠くんが無理をする姿を見るのは嫌だけど、でも少し無理をしてでも永遠くんが平和に、楽しいと思える学校生活を送れるなら、俺はそれが最善なんだろうなぁと思った。


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