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とても一人で昼食を食べる気になれず、佐久間と話を終わらせてそのまま教室に戻ってきたらそこには永遠くんが机に顔を伏せて座っていた。

先生との話は早く終わったのだろうか。トントンと肩を叩いたら、ゆっくりと永遠くんの顔が上がる。

泣くのを我慢しているようにギュッと唇を閉じて俺を見上げてくる永遠くんに庇護欲を掻き立てられ、たまらなくなって俺は永遠くんの頭を胸元へ引き寄せて髪を撫でた。


「永遠くん飯は?」

「…今要らん。」

「今食わなかったらいつ食うの。」

「…放課後まで我慢する。」

「また何か食って帰る?」


俺の問いかけに、永遠くんはコクリと頷いた。

もっと永遠くんをギュッとしてみたかったものの自重して身体を離したら、永遠くんがジッと俺を見上げてくる。


「…俺の話何か聞いた?」

「あー…佐久間と口喧嘩したんだって?」


具体的な内容までは分からずそれだけ言ったら、永遠くんは目線を下へ向け口を閉じる。


「どうせ先に佐久間からふっかけてきたんだろ?もうあんまり気にすんな。」

「でも俺もあいつを挑発した。」

「…挑発?永遠くんが?」

「人にノート借りな勉強できんのやったら俺が教えたろか?ってちょっとバカにした。」


眉間に皺をギュッと寄せ、泣き出しそうな顔で、声も少し震わせながらそんな話をしてくれるから、全然笑うシーンじゃないのに俺はふっと笑ってしまった。


永遠くんがそんな挑発をしていたなんてさすがに想定外で、俺は先程佐久間に『永久くんに八つ当たりしたか?』なんて言ったけど、あいつからしたら八つ当たりどころか喧嘩を買われて怒り狂っていたところに俺がそんなことを言ったから、そりゃ俺が永遠くんの味方だと思われても仕方ねえなって後になって思った。


「ごめんな、それ俺が永遠くんに言わせたようなもんだわ。俺が友達との付き合い方を間違ってたから。」


これはそもそも佐久間が悪いというわけでもなく、俺に原因があった。だから永遠くんが自分を責めて欲しくなくてまた慰めるように永遠くんの髪に手を伸ばし、わしゃわしゃと撫で回していたら、永遠くんはジッと大人しく下を向いている。


そして数秒間の沈黙の時間が流れた後、徐に永遠くんが口を開く。


「…俺が二人の仲壊した。…俺が転校してきたから。」

「…佐久間にそう言われたのか?」

「でもそうやとしても俺は悪いと思ってないし…。俺はこれからも光星と仲良くするし、あいつだって俺に壊されたと思うんやったらまた俺から奪い取るくらいの気持ちで光星と仲良くしたらいいねん。」


ずっと泣きそうに声を震わせて永遠くんが話すから、俺まで胸が締め付けられそうになる。

…永遠くん、残念なことに佐久間は別にそこまで俺と仲良くしようとは思ってくれなかったみたいだ。

所詮、その程度の友人関係に区切りが付けられて良かったんだと思う。


「永遠くんから俺を奪い取るのは無理だなー。もう俺すっかり永遠くんに惚れ込んじゃったし。」


どうせもう佐久間との関係は終わったんだから永遠くんが気に病む必要なんてまったく無く、自虐しそうになる話を敢えてそんな永遠くんがいつも言ってるような冗談に変えて話すと、永遠くんはチラッと俺を見上げてきた。

目が合って、俺はニッと笑って見せると、永遠くんは少し照れ臭そうに笑い返してくれる。


「光星俺のことむっちゃ好きやもんな。」

「うん、好き好き。永遠くんが転校してきた時からうわむっちゃ可愛い子来た!って思ってたからな。」

「ふふっ、なんやそれウケる。」


いつもの永遠くんの冗談に乗っかるように俺の“本心”を口にしたら、永遠くんは表情を明るくして笑ってくれた。


永遠くんの冗談は俺を振り回してきて厄介だと思ってたけど、俺も同じ調子で返せば案外容易いのかもしれない。


笑っている永遠くんを見ていると気持ちはだんだん晴れてきて、お腹も減ってきてしまった。


「あ〜…昼飯食べそびれたから俺授業中お腹鳴るかも。」

「聞き耳立てて聞いといてあげるわ。」


俺の言葉にそう返してくる永遠くんだけど、「永遠くんだって腹減ってるだろ。」って言い合ったりして、昼休みが終わる頃にはお互いにいつもの調子を取り戻していた。



放課後になると永遠くんは「やっと終わった〜」と笑顔で席を立ち、俺の側にやって来る。


「光星、俺ラーメン食べたい。」

「お、いいな。行くか。」


昼飯を食べ損ねた俺たちは、そんな会話をしながら教室を出た。


「俺もしかしたらスポーツクラス敵に回してるかもしれんし光星で隠れさせて。」


これは冗談でやっているのか本気なのか、永遠くんは俺の身体に後ろからしがみつきながら歩いてきた。


「え…、いや…、ちょっと、それ意味あんの?」

「光星がおったらあんま睨まれへんねん。」


えぇ…、睨まれるってなに?なんかそんな話を聞くのは嫌だなぁ。永遠くんにくっつかれてることに必死で平常心を保ちつつ、もやもやとした嫌な気持ちにもなる。


「もう喋るとボロが出るし学校では喋らん。」

「えぇ、今喋ってるけど…」

「光星の前ではいい。」

「なんだそれ、かわいいな。」


かわいいことを言ってくる永遠くんに耐えかねて、廊下のど真ん中にも関わらず永遠くんの頭を抱き寄せてぐしゃぐしゃと撫で回した。永遠くんはいつも大人しく頭を撫でさせてくれる。


永遠くんの額に触れ、グイッと手を頭のてっぺんまで上げたら前髪で隠れていた顔全体が丸見えになり、永遠くんの可愛いまんまるお目目が俺のことをジッと見つめてくる。


「……ちゅーしていい?」


普通にキスができてしまう距離感にもう俺は我慢ができず、そんなことを口にしたら永遠くんは変わらずジッと俺を見つめながら普通に頷いた。


「いいで。」


照れることもなく、かと言って嫌がることもない。淡々とした返事に俺の心が揺らぐ。

キスしたい、でもここでするのは何か違う。

悶々と悩みながらとりあえずサッと周りを見渡したら普通に人が居ることを思い出し、俺は永遠くんから手を離した。


「せーへんのかーい。」


永遠くんは俺が離れた後ペシッと俺の肩を叩いてお笑い芸人のようなツッコミを入れてきた。俺は本気だったけど、永遠くんからしたらどうせこの一連の流れはギャグのようなものだったのだろう。


「……また今度する。」


永遠くんが『良い』って言ったんだからする。

もしされたあとに嫌がっても悪いのは永遠くんだ。

自分でも分かるくらい俺はその時不機嫌になってしまい、永遠くんのツッコミに対しボソッとそんな返事をしたら、永遠くんからは無言でジッと見つめ続けられただけだった。

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