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永遠くんがトイレに行くと言って教室を出て行った休み時間、その僅か数分の間に起こった騒ぎを同じクラスで一部始終を知っていたやつからこっそり聞き出し、その日の昼休みに俺は佐久間を呼び出した。

ちなみに永遠くんは『先生から今日中に職員室来いって言われたから行ってくる』と告げて教室をさっさと出て行ってしまった。


「お前永遠くんと言い合いしたらしいな。永遠くんに何言ったんだよ。」


佐久間は俺の前でムスッと不機嫌そうな態度を取っており、何も話そうとしない佐久間との間には沈黙の時間が流れた。


「…俺がノート貸さなくなったから永遠くんに八つ当たりしたか?」


考えられることを口にした瞬間、佐久間はカッと怒ったように俺を鋭い目を向けてくる。


「八つ当たりじゃねえだろ!どう考えてもあいつが来た所為で俺らの関係狂っただろ!!」

「俺らの関係って?ノート貸し借りする関係?」

「なにお前、嫌だったの?でもお前今までそんなこと一言も言わなかっただろ!?」

「うん、別に嫌とか何も思ってなかった。それが日常になってたし。でもそれが“当たり前”になってんのがそもそもダメだったなって最近になって思った。」


そこまで話すと、佐久間は何も言わなくなった。

こいつ俺のことどう思ってんだろ。ノート借りられなくなったらもう用無しとか?そんな奴ではないと俺は思いたい。


「俺お前にとって都合の良いノート貸してくれるだけの友達だった?」

「はっ?なんだそれ、あいつにそう言われたのか?」

「言われてねえよ。でもそう言われてもおかしくないくらい俺とお前のやり取りはノートの貸し借りだけの関係だったんじゃねえのかって今になって思った。」

「……べつに、そんなつもりで光星と仲良くしてるわけでは無かった。」


ふてくされるようにボソボソとそう口にする佐久間に少しホッとする。それがもし本心じゃなくても、言ってくれないよりは言葉にしてくれる方がまだ安心できる。


「てかお前が昔から普通に見せてくれるからこんな感じになったんだろ!!」

「あぁ、そうだな。俺が間違ってた。」

「実際あいつになんか言われたんだろ?何言われたんだよ。」

「いや、ほんとに何も言われてねえよ。」

「嘘だろ。お前絶対あいつのこと庇ってんだろ。かわいいとか言ってんの正気か?あれ鬼の仮面被ってんぞ。絶対仲良くしない方がいい。」


前にもそんなことを言われたけど、佐久間はまた俺に似たようなことを言ってきた。はいそうですか、と頷ける話ではなく、返事に悩む。

べつに永遠くんを庇ってたつもりはまったく無かったけど、佐久間からすればそう感じても仕方ないのかもと感じて、なんとか納得してもらいたくて言葉を探す。


「確かに、お前にノート貸してることに対して苦言されたよ。でも俺の好意でしてることだから、ってそれ以上は言われなかった。」

「ほら、やっぱ言われてんじゃん。あいつさえ来なけりゃ今まで通りだったのに。」

「でも俺がお前にノート貸さなくなったのは俺の意志だよ。お前がスポクラ内で俺のノート回したから俺がお前に不信感持ったんだよ。俺はお前にノートを貸してるのに、お前から礼が返ってこなかったどころか、他の人の手で返ってくるって、おかしいと思わねえ?永遠くんは『おかしい』って言ってくれたよ。」


くどくどと言いたいことを言い切ったら、佐久間は顔を顰めて今まで以上に不機嫌そうな顔になり、「あーもうめんどくせえ!!じゃあもう勝手にお前はあいつと仲良くしてろよ!!」と怒鳴りつけられてしまった。


俺は俺の気持ちを佐久間に分かってほしかっただけなのに、投げ出すような態度を取られて悲しくなる。

謝罪を求めているわけではなかったけど、本音はちょっとくらい『悪かった』って思って欲しかった。

せめて『クラスの奴にも見せて良い?』とか何か一言でも言ってもらえていたら、なんとも思わなかったかもしれないのに。


結局は、俺と佐久間の関係なんてそこまでの関係だったのかもしれない。


「分かった。じゃあもういいや。今までありがとう。」


今まで仲良くしていたと思っていた友人との呆気ない決裂に胸が痛い。

でも今になって考えてみたら、俺たちの間にノートの貸し借りが無かったら、俺と佐久間は仲良くもなっていなかったのかもしれない。


荒んだ心を癒やして欲しくて、俺は無性に永遠くんのことを抱きしめたくなった。


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