22 [ 23/99 ]




「俺もう佐久間にノート見せんのやめるわ。」


校舎を出て、駐輪場に向かっていたら光星の気が変わったのか俺にそう話してきた。


「俺永遠くん来るまでは佐久間と飯食ったりノート貸したりして普通に友達として過ごしてきたつもりだったけど、今になってようやく使いっぱしりにされてるような感じに気付いてきて、永遠くんが言うギブアンドテイクが大事って言うのは多分、そういうことなんだろうなって納得できるし、このままだったら俺あいつに不信感持ちそうだし…。」


良かった。また俺が口挟んで文句言ったから光星に気を遣わせてしまったかと思った。でも光星自身がそう思ってノート貸さないって言うならほんとに良かった。

俺はまだこの学校に来て日が浅くて、光星とあの男の仲の良さとかもあんまり知らないくらいだけど、ノート貸して教科書貸してって、光星に会いに来たと思ったら用事はそればっかりで、光星のことを都合の良い道具みたいに見てる感じがして嫌だった。


「うん、それで良いと思う。自分のノート勝手に人に回されんのなんか普通に考えて嫌やし、それ理由にして次から断ったら良いと思う。」

「うん。そうだな、そうするわ。」


光星が俺の提案に頷いたところで俺たちは駐輪場にたどり着き、チャリに乗って学校を出た。


「光星はどこで友達と遊んだりするん?」

「んー、誘われたところに着いてく感じだからあんまり決まってねえなぁ。」

「ふぅん。光星くん控えめやなぁ。どっか行きたいとこないん?俺をそこに連れてって。」

「えぇっ」


光星を寄り道に誘ったのは俺だけど、俺はまだまだこの土地のことを知らなさすぎる。これから行く場所を光星に丸投げするような言い方をしたら光星は困ったように首を傾げた。


「…お腹減ってるんだっけ?」

「うん。」

「じゃあ、甘い物食べたい?辛い物?」

「ん〜どっちでもいい。」

「う〜ん…。」


どうやら光星の行きたいところは特に無いようで、俺の意見をこまめに聞きながらめちゃくちゃ悩んでくれている。

優しすぎるのか、欲がない性格なのか、自分より人の優先ばかりして生きてそうだ。


「じゃあたこ焼き食べたい。どっか美味しいたこ焼き屋さん無い?」

「たこ焼き?ん〜っ…関西出身の人にそれ聞かれんのプレッシャーだなぁ。」

「えぇっごめん、俺別にそんなたこ焼きにうるさくないから大丈夫やで?冷食のたこ焼きも好きやもん。」

「んー、じゃあ近くの商業施設にたこ焼き屋入ってたと思うからそこ行く?」

「お〜ええなぁ。そうしよそうしよ。」


俺はべつに光星と寄り道できたら場所はどこでも良かったみたいで、ウキウキしながら先を走ってくれている光星の後を追った。


平日のこの時間は俺たちのような学校帰りの学生や子連れの主婦、年配のご夫婦がよく歩いている。


さっそく光星は飲食店が並ぶフロアへ連れてってくれたけど、たこ焼き屋に到着した瞬間に値段に目がいき固まってしまった。


「……うわ、高いなぁ。どうしよかな。」


でもせっかく光星が連れてきてくれたし…。って、チラッと光星を見上げると、「ん?」と首を傾げて俺を見下ろしてくる光星。


「高い?やめとく?半分こでもするか?」

「はぁ……光星くんはほんまにイケメンやな。結婚したいわ。」

「えッ……」

「ごめんな、たこ焼きが良いとか自分から言うたのに。フードコートのマクドにしとくわ…。」

「う、うん…べつに俺はどこでも……。」


優しい光星を振り回してしまっている気がして申し訳ない気持ちになるけど、たこ焼きはまたの機会にしようと店の前から立ち去った。



「俺チャリ通にしたやんかぁ?」

「うん。したな。」

「その分お小遣い1000円アップしてもらってん。」

「おお、良かったじゃん。」

「でもすぐに食費で消えてくなぁ…!」


フードコートのマクドのレジで注文を終えてお金を払い、チャリーンと消えていく財布の中身につい泣き真似をしながらそんな話をすると、光星はクスクスと笑い出した。

かっこいい見た目で光星が爽やかに笑っているから、近くに居た制服を着た女子学生がコソコソと光星を見ながら喋っている。あれは光星をベタ褒めしているに違いない。

あかん。光星くんは俺のやから女子の目に触れさせたらあかん。光星くんが女子に目を向けるのもあかん。


「光星あっち座ろ、端っこがいい。」

「おう、どこでもいいよ。」


注文した商品を受け取り、トレイを持って隅っこの席に直行した。ソファー席に着き、「ふぅ。」と息を吐く。


「光星くんは砂漠に埋もれた宝石やな。」

「はい???」


突然の俺の発言に、光星は半笑いで聞き返してきた。


「なに、砂漠ってどゆこと???」

「男子校の例え。」

「ぶはっ!なんだそれ。」

「あれやな、俺はそこで颯爽と現れたラクダみたいなもんで砂に埋もれた宝石を掘り起こして家持って帰んねん。」

「…う、うん…ごめん永遠くん、話の意味がまじでぜんっぜんわかんねーわ。」

「うんごめん、俺も今ちょっと自分で言うてて俺何言うてんねやろと思ったわ。聞き流して。」

「ふふ…、わ、わかった。」


ククク、と意味分かってないくせに光星は俺の顔を見ながら暫く笑っていた。


[*prev] [next#]

bookmarktop

- ナノ -