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永遠くんが転校してきて数日経てばそこそこクラスには馴染んでおり、たまに近くの席のクラスメイトと一言二言話している永遠くんの声が聞こえる。けれどその話し方はかなり控え目で遠慮気味だ。
話し方次第で人のイメージっていうのはかなり変わってくるから、クラスメイトはまだ永遠くんのことを“大人しそう”とか“静かな人”とか思ってそう。
永遠くんがあれだけ素で話し、笑みを見せてくれるのは俺の前でだけだから、俺のことを振り回す永遠くんの言動を思い返しては、俺は優越感に浸っていた。
でもさすがに頬にキスしてくる冗談はやめてほしい。あれからというもの、俺は永遠くんの柔らかい唇の感触が忘れられなくて困っている。
「それじゃあ今日はそろそろ席替えしまーす。」
本日の授業が全て終了し、ホームルームの時間がくると、担任が手にお菓子が入っていたような缶を持って教室に入ってきた。
「順番に一枚引いたら後ろに回して。」
俺は担任に一番初めに缶を渡され、言われた通りに中に入っていた紙を一枚引いて後ろに回す。紙を引いている間、担任は黒板にクラスの人数分の座席の枠を書いた。
全員引き終わったのを確認すると、座席表に適当に数字を振り、「浅見から順番に紙持ってきて」と指示される。
担任に紙を渡したら、今の席とは真逆に近い廊下寄りの後ろの方の席に名前を書かれた。
おお、後ろの席だ。…と喜ぶのはまだ早く、問題は永遠くんがどこの席になるかだが、永遠くんは担任の元へ行くために俺の横を通る時、にこりと笑って俺にピースサインを見せてくる。もしかして隣の席?
期待しながら担任が【 片桐 】と書いたのは、真ん中の列の俺の斜め前の席だった。隣ではなかったものの永遠くんはにこにこと嬉しそうな笑みを向けて席に戻って行く。俺もそんな永遠くんの反応が嬉しくて、にやけてるのが丸分かりの口を慌てて手で隠した。
「お〜!光星と席めっちゃ席近い。」
新しい席に移動すると、永遠くんはそう言って振り向いてきた。
「これで休み時間いちいち席立たんで済むわ!」
にこにこしながら嬉しそうに永遠くんは俺に話しかけてくれているものの、今はまだホームルーム中だ。その声は教室でやけに目立ってしまい、永遠くんの隣の席と後ろの席のクラスメイトにこっそり視線を向けられている。
「片桐くんまだ終わってないよ〜前向きなさい。」
その後先生に注意されてしまい、永遠くんはくるりと身体の向きを変え前を向いた。
ホームルーム中の永遠くんは背筋をピンと伸ばし、肘をついた手に顎を乗せてまっすぐ前を見ており、話を聞く態度は意外にも真面目でメリハリがつけられている。
口が達者だと思ったら結構自分の発言を気にしてたり、明るくポジティブな性格かと思ったら、実は繊細そうだったりする。
まだまだ俺の知らないことだらけの片桐 永遠という人間に、俺は毎日興味が湧きまくりでしょうがない。
ホームルームが終わると先に帰る支度を済ませた永遠くんが席から立ち上がり、俺の隣に立った。
「光星帰りどっか寄って帰らへん?お腹減ってきた。」
お腹を撫でながら俺の肩に手を置いてくる永遠くんに俺は喜んで頷き、すぐに帰る支度を済ませて鞄のファスナーを閉じる。ていうか永遠くんボディタッチ多くね?永遠くんの言動はほんとに心臓に悪い。
触れられるだけでドキッしてるなんて知られたら絶対またからかわれるから、俺はポーカーフェイスを装うのに必死だった。
「あ!浅見くん浅見くん!」
「ん?」
教室を出ようとしていたら隣のスポクラの顔見知りがノート片手に俺の名前を呼んできた。
「これ、佐久間が貸してくれてさぁ、みんなで見させて貰いました!!!」
すっかり忘れていた佐久間に貸していたノートが思わぬ返し方をされて戻ってきた。
頭を下げられながら拝むようにノートを手に挟んで差し出され、「あ、うん。」ととりあえず頷きながら受け取るが『みんなで』という発言が引っかかる。
「…え、みんなでって?まさかクラス全員?」
「あーいや、4、5人?まじ助かりました!」
「…あ、そう。」
そいつはへこへこと頭を下げながら帰っていったが、この時俺と、隣にいた永遠くんの間には冷え切った空気が流れていた。
無言でノートを鞄の中に片付けていたら、永遠くんがポツリと一言、冷ややかな声を発する。
「おかしいやろ。」
永遠くんがそう言いたくなる気持ちは、俺自身がよく分かっていた。佐久間一人に貸したつもりが、貸してない人からノートが返ってきて、さらには4、5人が俺のノートを見たと言う。
見るなとは言わねえけど、それは常識的にどうなんだ?今まで当たり前にノートを貸してきたけれど、平気で人のノートを他の人に貸した佐久間に対してモヤモヤとした不快感が胸の中に募る。
「俺には理解できひん。」
教室を出て、廊下を歩き出そうとしたら、ムスッと不機嫌そうな顔をして永遠くんがそう一言口にする。
それは、平気でノートを貸す俺のことを言ってるのか、平気でノートを借りる佐久間たちのことを言ってるのか。
そこまでは分からなくて俺は苦笑を浮かべることしかできずにいたら、その次の瞬間、ガシッと永遠くんに両肩を掴まれ、ぐわんぐわんと激しく身体を揺さぶられた。
「光星のノートはそんな安いもんなんかぁぁぁ!!」
「うおうおう!!分かった、分かったから!!」
俺がもうノート貸さなかったら良いんだろ!?って、永遠くんを宥めようとしたら、永遠くんの手は案外すぐに俺の肩から離れていく。
「ギブアンドテイクが大事やろ。次から1貸し100円にしたらいいねん。」
「えっ、高。」
「高ない!!!安売りはあかん!!!」
何故か永遠くんが俺よりも怒っていて、その後暫く何を言ってもくわっと攻撃的な返事が永遠くんから返ってきて、申し訳ないけどちょっとおもしろかった。
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