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「俺なんか知らんうちに癇に障ること言うてんのかなぁ。」


永遠くんは昼休みに食堂でうどんを食べながら悩むようにそう口を開いた。それは恐らくトイレで言われたこと気にしているようで、永遠くんの表情はどよんと曇っている。


「俺はそんなことねえと思うけど…。感性は人それぞれだからなぁ。相手の受け止め方が卑屈なだけなんじゃねえの?」


佐久間もそうだし、さっきの奴らも多分勉強できる永遠くんが謙虚な返事をしてきたから、永遠くんが“普通”だとしたら自分はもっと下だと考えてしまったのではないだろうか。


「永遠くん実際頭良いしさ、あんま謙虚にならなくていいんじゃね?」

「えぇ?でも俺より賢いやつなんかいっぱいおるもん。頭良い言われて『そやろ〜?』とか返したらそれはそれで『あいつなんやねん』とか思うやつ絶対おるやろ。」

「…うーん、…そこはほら?家で勉強頑張ってるから〜とか上手く返してさ…。」

「…はぁ。そやな。…頑張るわ。」


すっかり意気消沈してしまった永遠くんは、つるつるっとうどんを啜った。


「…はぁ。うどんの濃さも全然ちゃうし。」

「…あぁ、うどんなぁ。」

「…ノリもちゃうし。」

「……ノリ…、」

「カールもやっぱ売ってへんし…。」

「……ん?カール?」

「………はぁ。関西帰りたい…。」


俺には分からない関西との違いを口にしながら、永遠くんは重いため息を吐いた。早くもホームシックにかかってしまった感じなんだろうか。俺は永遠くんが来てくれて嬉しい分、話を聞いていると俺まで悲しくなってきてしまった。


「カールって知ってる?お菓子やねんけど。」

「あー…昔なんかそんなお菓子あったな。」

「昔ちゃうねん。あれ関西では現役やねん。」

「…ほう?」


ホームシックの永遠くんは、しょんぼりしながらそんなお菓子の話を始める。


「俺めっちゃ好きやったのにこっち売ってへんし…。売ってへんって分かった瞬間めちゃくちゃ食べたなってきたし…。」

「…うん。」

「姉ちゃんにネットで箱買い頼んだわ。」

「……そんなにか。」

「…ふぅ、ごちそうさん。」


水をグビッと一口飲んだ永遠くんは、手を合わせて昼ご飯を食べ終えた。

俺もすでに食べ終えていたから、二人で返却口へ食器を返し、食堂を出る。

渡り廊下を歩きながら、突然永遠くんは俺の首に背後から両腕を回してきた。


「あ〜光星元気ちょ〜だい。」


そう言いながら俺の背中に抱きついてきた永遠くんに、俺は内心パニックだ。そりゃ俺だって永遠くんにハグとかしてみたいと思ってたけど、突然永遠くんの方から来られるのは動揺する。


チラッと振り向くと、すぐ近くに永遠くんの唇があるのが見え、慌てて前を向く。


とりあえず永遠くんの頭に手を伸ばして、よしよしと撫でたら、永遠くんは俺の肩に頭を預けてきた。


けれどすぐに人が前から歩いてきて、永遠くんはサッと俺から距離を取る。


「俺光星の彼女になりたいわ。」

「…えっ。」


…いや、うん。さすがに冗談だろ。…うん。

惑わされねえぞ、きっとこれは、関西でよくある“ノリ”っていうやつなんだろ?なぁ?

ノーコメントで永遠くんの目をまじまじと見つめたら、永遠くんは俺を見ながらにこっと笑った。


「光星絶対良い彼氏になるやん。」


その言葉までは冗談には聞こえなくて、俺は恥ずかしさと照れで頭が熱くなってしまい、暫く何も言えなかった。


「あ、光星くん耳赤なってる〜。照れ屋で可愛いなぁ。ちゅうしたろか?」

「ちょっ、永遠くん!?からかうな!!!」


渡り廊下から教室がある校舎に入り、また人がいなくなったところで、俺の肩に腕を回して永遠くんが耳元で喋ってくるから、そんな“冗談”に耐性の無い俺は、永遠くんを振り払い、走って逃げた。


階段を上り、永遠くんとの距離ができたところで振り返ったら、にこにこした顔で永遠くんが俺を見上げている。


「ごめん、もうやらんからこっち戻って来て。」


そう言って手招きされ、また渋々永遠くんの横に並ぶ。


しかしその次の瞬間、永遠くんの唇がぶちゅっと俺の頬に触れた。


「うぇッ…!?!?」


どう考えても頬にキスをされ、頬を押さえて固まっていたら、永遠くんはケラケラと笑いながら階段を上がっていく。


くっそぉ、あのたぬき俺の心情も知らないで…!!!

いつか絶対やり返してやろうと心に決めて、俺はゆっくりと階段を上り、永遠くんの後を追った。


5時間目の授業の内容は、まったく頭に入らなかった。


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