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「光星サンキュー。」

「おう。」


授業が終わるとすぐに教科書を返しに来てくれた佐久間。その佐久間の目線が、チラッとさりげなく後方の永遠くんの方に向いている。


「まだ勉強してるな。」

「ん?」

「とわくん。」


佐久間の視線の先を追うように俺もチラッと後ろを見ると、永遠くんは授業が終わってもまだシャーペンを待つ手をひたすら動かしていた。


「ああやって見るとやっぱ普通に特進の人って感じだな。俺の友達にはいないタイプ。」

「え、俺は?」

「光星は言われなきゃ特進には見えねえよ。」

「…えぇ、なんかそれって微妙だな。」

「まあ俺なんか見たまんまスポクラだけどな!授業中寝てて先生に顔に跡ついてるって注意されたわ。」

「注意されんのそこなんだ。てかスポクラって授業中ほぼ寝てるらしいな。」

「寝てるか腹鳴ってるかだな。」

「いや寝ながら腹鳴ってるんだろ。」

「ははっ、まあな。」


永遠くんから話題はスポクラの話に移り笑っていたら、勉強を終わらせた永遠くんがひょこっと俺の隣にやって来た。登場の仕方さえもかわいい。


「あ、とわくん。」


さっきは突然話しかけられてびっくりしてたけど、今度は自分から声をかけた佐久間に、永遠くんは「そう!」と名前を呼ばれて嬉しかったのかパッと明るい笑みを見せた。


「とわくん転入試験難しかった〜?」


うわっ、コミュ力おばけの佐久間がさっそく永遠くんにそんな質問をし始める。


「ん〜、別に普通やった。」


しかしキョトンとした顔でサラッとそう答える永遠くんに佐久間の眉間には皺が寄った。

佐久間にとっては“難しい”と思っている試験を普通と言われてしまい、明らかに気を悪くしている態度だ。

しかし永遠くんはただ質問に答えただけなので、お前その顔やめろ、と佐久間の丸坊主をペシンと叩いたらすげー良い音が響いた。


「ふふっ、めっちゃ良い音。」


そう言って笑い声を漏らした永遠くんに、佐久間は頭を撫でながらちょっと俺を睨み付けてきた。


「でも転入試験って難しいんじゃねえの?それで特進入ってくるってやばくね?」


気を取り直して再びズケズケと質問する佐久間に永遠くんは首を傾げた。


「ん〜…学校によると思う。ここの学校の試験がそこまで難しくなかったんかも。」


またもやサラッとそう答える永遠くんに、また佐久間の眉間には皺が寄った。お前自分から聞いといてその顔すんのやめろよ。

佐久間の永遠くんへの態度にはなんか微妙に棘を感じるんだが…。


「…とわくんの前の学校なんてとこ?」


もう不機嫌そうな態度を隠しもしてないような低い声で次にそんな質問をした佐久間に、永遠くんは普通に学校名を答えてくれる。


「へぇ、知らねー」と無愛想に吐き捨てる佐久間に、さすがの永遠くんも苦笑を浮かべてしまった。

このバカ野球部、自分が頭悪いから絶対頭良い永遠くんを目の敵にしている。

微妙な空気が漂い始めたところで休み時間終了のチャイムが鳴ってくれて、佐久間は「そんじゃ行くわ〜」とちょっと感じ悪い態度で去っていった。


もし二人が普通に会話するようになったら仲良くなっていくのだろうか……とかちょっと考えたけど、それ以前にこの二人は、なんとなくそりが合わなさそうな感じがした。


「…永遠くんごめんなんか。あいつバカだから試験問題簡単とか言われるとすぐ不機嫌になるようなやつなんだよ。」

「あーそうなんや。」


永遠くんが悪かった点はひとつもなく、佐久間が去ったあとにそう弁解したら、永遠くんはふっと軽く鼻で笑ってからいつもより声のトーンを落として相槌を打ちながら自分の席に戻っていった。


…やべえ、…あれ絶対永遠くんも気を悪くしてるわ。


永遠くんまでもが、俺が見たこともないような不機嫌そうなオーラを漂わせしまっていた。


その後、永遠くんの前では永遠くんの前の学校のことを『知らねー』とか言ってたくせに、佐久間から【 とわくんの前の学校かなり偏差値高い進学校だった 】というラインが届いた。


お前わざわざ調べたのかよ…。

負けん気が強い佐久間は人の頭の良さを自分と比べるとめちゃくちゃ悔しいんだろうなぁ…と思いながら、俺はそっとスマホをしまった。


佐久間は野球を頑張ってんだから、野球やってる強い奴だけを敵視すれば良いのに。そもそも永遠くんは勉強ろくにやってねえ佐久間が比べる相手では無い。


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