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後ろから俺と永遠くんの会話を聞いていたらしい浮田が、「片桐くんってあんな感じの人なんだね。」ってまたコソッと話してきた。
永遠くんが転校してきてまだ一週間、まだまだ“転校生”に対する興味はあるようだ。慣れたら結構よく話してくる。とかクラスメイトにいろいろ教えたい気持ちも無くはないけど、一人占めしたいと思う気持ちの方が多かった。
「光星〜、今日数学ある〜?」
「ある。」
「何時間目?教科書忘れた。貸して?」
「4時間目。絶対返しに来いよ。」
「おう、サンキュー。」
3時間目が始まる前に、佐久間がやって来た。またノート写しに来たのかと思いきや教科書を借りに来ただけらしい。
佐久間に教科書を渡している最中、永遠くんも俺の席へゆっくり歩み寄ってくる。俺と佐久間のやり取りを無言で見てきたかと思いきや、永遠くんは佐久間の方を見て「野球部?」っていきなり佐久間に話しかけたのだった。
突然のことで佐久間が珍しく驚いている。
「お、う、うん。」と狼狽えながら頷く佐久間は、ジロジロと永遠くんに目を向ける。しかし永遠くんは「仲良いなぁ。どういう繋がり?」と今度は俺を見下ろしながら聞いてきた。
「中等部でずっと同じクラスだったんだよな。」
「おう。しょっちゅう席近くなって仲良くなったな。」
「そうそう。」
「ふぅん、そうなんや。」
頷く永遠くんのことも佐久間はジッと見た後、「じゃあ終わったらすぐ返しにくるわ。」と教科書を揺らしながら佐久間は去っていった。
佐久間が教室を出て行った直後、ポケットに入れていたスマホが震えて確認すると佐久間からラインが届いている。
【 とわくん急に話しかけてくるの焦った 】
うん、俺も思った。
永遠くんが“自分から話しかけるタイプ”というのは俺の頭になかった。これがどういうことかというと、つまり、友達を作ろうと思えばすぐに作れてしまうということだ。
しかも慣れたらよく喋るし、人懐っこいし、永遠くんの周りに人が集まる光景はすぐに想像できる。
そうすると、一人占めしたいとか呑気に言ってられなくなる。
仲良くなれてきて喜んでいるのと同時に、そんな焦りも追加された瞬間だった。
「光星って中等部からここの学校なんや。」
「うん、エスカレーター式で上がってきた。」
「ふぅん。じゃあ女の子と喋る事とかってあんまりない?」
「え、…あー…コンビニの店員さんとか…?」
永遠くんがいきなりそんな質問してくるから、少し悩んでそんな返事をすると、永遠くんは「そうなんや〜」と相槌を打ちながらその顔には何故かにこにこと満面の笑みが浮かんでいた。
…何の笑み?もしかして中高まったく女子と喋ることなく男子だらけの中で育った俺、哀れに思われてる?
言っとくけど今まで全然恋愛してこなかった反動か、俺永遠くんの一挙一動にドキドキしたりキュンキュンしてしまってんだからな?
「永遠くんはどうだったんだよ。」
「俺?前の学校は共学校やで。」
「彼女いた?」
「ううん。」
うおおおお!!!まじか、良かったぁぁ!!!
永遠くんが女の子とイチャイチャしてる光景は想像したくなかったから喜ばしい話を聞けて良かった。
「中学とか前の高校では光星みたいなタイプがモテモテやったなぁ。やっぱ背ぇ高い人がモテるよなぁ。光星が共学校に通ってたら今頃ハーレムやで!」
永遠くんはパッと明るい笑みを浮かべながら俺の顔を見てそんなことを言ってくれた。
永遠くん俺のことすげー良さげに言ってくれるしまじで照れるんだけど。俺が思うに永遠くんは絶対モテるとかモテない以前に男女から可愛がられるタイプだと思うんだけどどうだろう。
永遠くんと知り合って一週間でもう頭よしよしして可愛がりたいと思う俺が居るんだから、絶対他にもそう思ってるやつがいてもおかしくない。
「でも永遠くんの場合可愛いから絶対みんなから可愛がられてたと思うなぁ。」
永遠くんが俺のこと良く言ってくれるから、言われっぱなしも恥ずかしくて俺も永遠くんの頭をよしよしと撫でながらそう言ったら、永遠くんはジーッと俺の目を見つめたまま口を閉じてしまった。
…え、ダメ?今のダメ?
やっぱ男にするのはまずかったか…?
変な空気が漂ってしまった時に限って休み時間終了のチャイムがなってしまい、「あ、チャイム鳴った。」と言って永遠くんはさっさと席に戻ってしまった。
えー、10秒で良いから時間巻き戻したい…。
永遠くんに引かれてたらどうしよう。
男に『可愛い』はもしかしたら褒め言葉にはなんねえのかも…って、その次の時間の授業中、俺は悶々と考え込んでしまうのだった。
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