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朝は挨拶から始まり、昼ご飯を一緒に食べ、帰りの挨拶で終わる。俺からしてみればこれはかなり順調に仲良くなれている。


「片桐くん学校何で来てんの?電車?」

「あっうん、電車!でも満員電車が嫌でチャリ通にしたいなって思ってる。」

「そうなんだ。家近い?」

「ん〜、分からん。電車3駅。」

「あ〜じゃあ自転車でも良いかもな。」


昼飯を一緒に食うことで、聞きたかったことあれこれ聞けて最高だ。そして口元を緩ませてうんうんと相槌を打ってくれる片桐くんがまじでかわいい。


「でも俺引っ越す時に捨てたから今チャリないねん。」

「えぇ?そっから?」


チャリ通したいとか言っておきながら後から言ってきた話に思わず突っ込んでしまったら、片桐くんは「ふふっ」と笑った。いやもう、ほんとにかわいい癒される。


「自転車屋さんこのへんある?」

「んーと、あ〜、うんあるある。一緒に行く?」

「えっいいの!?」


うわっ、しれっと誘ってみたらすっげー食い付いてくれた。今の俺ナイスすぎだろ…!


「うんいいよ、片桐くんの都合良い時声掛けて。」

「じゃあ次の土曜か日曜は?」

「オッケー。あ、連絡先聞いて良い?」

「うん!」


あまりに自然過ぎる流れで連絡先まで聞けてしまい、興奮でスマホを持つ手がちょっとだけ震えた。

こんな感覚何年ぶりだ?さすがに自分が恋愛して無さすぎなことに気付いた。


俺のラインの友達一覧にひらがなで【 とわ 】が追加され、そのたったの二文字まで可愛く感じてしまい、俺の口元は暫くの間ゆるゆるだった。


「とわ、ってひらがなにするとなんか可愛いな。」

「えいえんくんとか言ってからかってくる奴居るから。」

「あーはは、なるほど。」


スマホを見ながら思ったことを正直に言えば、片桐くんは前の学校の友達の話をしてくれた。からかわれるタイプなんだ。前の学校ではどんな感じだったんだろう、でもきっと可愛がられてたんだろうな。


「俺もとわって呼んでいい?」

「うんいいよ。」


これまたスムーズに事が運び過ぎて自分の中で衝撃だ。…いや、でも考えてみれば同性の同級生相手なのにさすがに俺が彼を意識しすぎていただけなのかも。


「じゃあ俺光星って呼ぶわ。」


にこっと笑ってそう言ってくれた片桐くん、改め永遠くんに、俺はそろそろ喜びが爆発して表情筋がどうにかなりそうだった。


ライン交換して、名前も呼び合って、自転車屋行く約束もして、別に両想いになったわけでもないのに順調すぎて舞い上がってしまう。


昼飯を食べ終えた後は二人で教室に戻り、1日の授業を終えると「光星バイバイ」と俺に手を振って永遠くんは先に帰っていった。

欲を言うと一緒に帰りたかったけど、それはおいおいできたらいいな。


「え、浅見くん片桐くんと仲良くなったんだ?」

「あ、うん。なんか、そんな感じ。」


どうせ佐久間がノート見に来るだろうから、と鞄に片付けず手に持って待っていたら、後ろから浮田に話しかけられた。


「すごー。片桐くん話しかけても反応悪いからもういいやって言われてたよ?」

「え、まじ?緊張してんじゃねえの?あと関西弁なのも気にしてたしなぁ。」

「あーそう言えば片桐くんの関西弁聞いたことないなぁ。別に気にしなくていいのにね。」


「じゃあまた明日〜」と浮田はサクッと会話を終わらせて帰っていった。

浮田が言ってた通りなら、体育の着替えの時も昼休みも永遠くん一人だったから、今後クラスメイトが永遠くんに話しかけるのは減りそうだ。

嬉しいって言うのは良くねえけど、正直俺からしてみれば都合が良い。一人の方が話しかけやすいし。なんなら永遠くんの方から話しかけてほしい。今日の昼も誘ってくれたら喜んで飛びついたのにな。


「光星〜、ノート〜。」

「はい。」

「おお、準備いいな。」

「俺明日から永遠くんと昼食べるわ。」


ノートを写しに来た佐久間にそう宣言すると、佐久間は「へ〜、とわくん、ねぇ〜。」とニヤニヤしていた。

顔がうぜえけど、今日は佐久間の『今でしょ!』のおかげで進展できたから許す。


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