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今日は昨日みたいに1本早い電車に乗らないようにいつも通りの時刻の電車に乗ったけど、片桐くんはまだ学校に来ていなかった。

まだ転校したきて間もないから時間もまちまちなんだろうな。

あからさま過ぎるのを恐れて今日は前の扉から入ったけど、片桐くんがまだ来てないのならどっちみち後ろから入る意味は無い。


不自然だから明日からもちゃんと前から入ろう。とかわりとどうでもいいことを心がけながら鞄を机のフックに引っ掛け、椅子に座ろうとしていたら、背後からまだ聞き慣れないクラスメイトの挨拶する声が聞こえてくる。


「お、おはよう…。」


振り向いて、思わず固まってしまった。

俺の席の横の通路を通り過ぎようとしている片桐くんが、聞き間違いじゃなければ挨拶してくれたように思う。


「あっおはよう!」


え、嬉しい〜。昨日俺から挨拶したから?挨拶してくれた奴にはちゃんと返してくれる感じか?


さっさと俺の横を通り過ぎてしまう片桐くんに慌てて挨拶を返したら、片桐くんは軽く振り向いて、口元を緩ませて少し微笑みを見せてくれた。


うわ、かっわいい笑顔きた…。笑うとあんな感じなんだ。当たり前にかわいい、頭撫でたいな。

片桐くんって多分まだ転校してきたばっかだから緊張残ってると思う。絶対仲良くなったら人懐っこいタイプだと思う。違うかなぁ…?





「光星の好みってよく分かんねえなぁ。片桐くんのこと可愛いとか言ってんのお前くらいだろ。」


昼休みに、食堂でガツガツご飯を食べている佐久間にそんなことを言われてしまった。ざわざわと騒がしい食堂だから片桐くんの話をされても止めはしねえけど、そんなバカにするような言い方はやめろ。惹かれてしまったものはもうどうしようもない。


「んなこと言うなよ、俺たぬきのキャラクターのグッズコンビニで見かけて買っちゃったくらいだし。」

「はっ?お前それは意味分かんねえわ!!」


家の鍵に付けたたぬきのキャラクターのアクリルキーホルダーを佐久間に見せつけたら爆笑された。そこまで笑うか?って鍵を片付けながら佐久間を睨みつける。


「てか俺と飯食ってて良いのかよ。片桐くん誘えよ。」

「いきなり誘うの不自然じゃね?」

「いきなりってお前、転校してきたばっかの奴なんかいきなり誘うのが普通だろ。誘うなら一週間以内だな。早く誘わねえと食べるメンバー決まってくるだろ。」

「……確かに。」


昨日体育の前話した時に誘ってみれば良かったなぁ。もったいねえことをした。


「あっおい、居るぞ。あいつだろ、てか一人じゃねえか!!お前早く行ってこいよ!!」


でも昨日のことを後悔していた俺だったけど、突然佐久間が口に飯を入れながらハッとした顔をして顎で一方向を指してくるから、振り向いたらそこには一人で麺類らしきものを啜っている片桐くんの姿があった。


「うわ、ほんとだ…。え、今から?」

「あたりめーだろ!今行かなきゃいつ行くんだよ!!……今でしょ!!」

「…はいはい。じゃあ行ってくるわ。」


昔流行ったCMのネタを動作付きでやってきた佐久間に呆れた目を向けながら、おぼんを持って立ち上がる。まあ確かに、片桐くんが一人ならこれはどう考えても行くしかない。


片桐くんの方へ歩み寄っていた最中、途中で顔を上げてもぐもぐ口を動かしている片桐くんに気付かれてしまった。

咄嗟に笑みを浮かべて『座って良い?』って口を動かしたら、片桐くんは首を傾げて意味が分かってなさそうな顔をしながらもうんうんとやんわり頷いてくれている。かわいい。

もぐもぐと口を動かしている顔は、言わずもがなかわいいけど。


片桐くんの元へ辿り着き、テーブルにおぼんを置く前にもう一度「座っていい?」って聞けば、口の中のものをゴクンと飲み込んだ後、手で口を押さえ、もう片方の手を椅子に向けながら「どうぞどうぞ。」って言ってくれた。


「片桐くん一人で食ってたんだ。誘えば良かった。」

「…え、…あーっ…、ははっ。」


俺の言葉に、片桐くんは返事に困ったような愛想笑いをする。…うわ、もしやこれは失敗か?一人で食いたいタイプ?それなら申し訳ないことをした。


「もしかして飯は一人で食いたいタイプ?」


気になってしょうがねえからストレートに問いかけたら、片桐くんは「いやいや、全然。」と首を振る。

それなら良かった。とりあえずは一安心だが、まだ片桐くんの態度は緊張している感じがする。まあまだそんなに早く慣れないか。俺は早く自然体の片桐くんが見てみたいんだけどな。


「さっき浅見くん誘おうかと思ったんやけど…。やめた。」

「……え!?」


会話に少し間が空いて、ズズッと一口麺を啜った片桐くんがもぐもぐ口を動かしゴクンと飲み込んだあとに、驚くことを言ってきた。


俺を誘おうと思ってやめた!?なんでだよ!誘ってくれよ!!!


「友達いたし。」

「…えー、あいつは他に友達居るから…、」


気にせず俺を誘って欲しい。

って言いたいけど言って引かれても困る。

続きは言わずに一口ご飯を食べていたら、にこっと笑った片桐くんが「じゃあ明日から誘うわ。」って言ってくれた。


あー…もうダメだ、片桐くんがかわいすぎる…。


俺は片桐くんの可愛さに悶えそうになってしまい、それを本人に悟られないようにご飯を口いっぱいに詰め込みながらうんうんと頷いた。


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