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「永遠おかえり〜新しい学校どうやった?」

「疲れた。」

「可愛い子おった?」

「は?男子校やねんけど?」


家に帰ると今年から大学生になる姉がすでに家に帰っていた。俺も姉も父親の仕事の転勤が理由で生まれて初めての引っ越しを経験し、まだ段ボールなどが床に放置されている部屋でお茶を飲みながら会話する。


「あははっ、そやったそやった。」

「絶対今のわざとやろ。」

「ごめんごめん。だってたまに女の子と間違えるくらい可愛い男の子おらん?」

「知らん。俺のクラスにはおらんかった。」


適当に姉に返事をしながらスマホを見ると、前の学校の友達からも姉に聞かれたことと同じような内容のメッセージが届いている。

仲が良かった元クラスメイトの女の子に新しい学校が中高一貫の男子校だって話をしたら、【 かっこいい人いた?生徒会役員とかやってそうな 】というちょっと答え辛い質問をされた。

“生徒会役員とかやってそうな?”

特進クラスだからみんな真面目そうだったけど。


でも一人、やたら目がいくかっこいい人はいた。その人を思い返しながら、メッセージの返信文を打つ。

転校してきて早々、教室で自己紹介させられている最中に、一番前の端の席からキリッとした目でまっすぐこっちを見てこられて、突き刺さるような視線にちょっとドキッとさせられてしまった。

あんまり見てしまったら怪しまれるから見ないようにしていたけど、横目で見ただけでも顔立ちの良さが一人だけ際立っている。

毛染め禁止だから染めてはいないはずだけど、後ろから見た髪の毛は日の光に当たって茶色のようだった。ツーブロックでスッキリ爽やかに切りそろえられていて、顔もかっこよければ髪型までもが顔に似合ったかっこよさだ。

共学校なら間違いなくモテモテだっただろうな。1日こっそり後ろから観察してみたけど、友達はあんまり居る感じでは無かったな。


名前が少し気になって座席表で名前を確認しようと思ったけど、座席表はその人の席の目の前の掲示板に貼られている。わざわざ本人の目の前まで行って名前を確認するのも気が引けてしまい、放課後にクラスメイトが帰るのを待って誰もいなくなってから座席表を見に行こうとしたら、まさかのその人だけがまだ教室に残っていて動揺してしまった。


『忘れ物か?』


顔もかっこよければ、声まで落ち着いた良い声で話しかけられてまたドキッとしてしまった。

まさかあなたの名前を座席表で確認したいがために戻ってきました。なんて、勿論言えるわけがなく言うはずもない。慌てて何か反応しなければ、と口を開いたが、その人は別に俺の行動などどうでも良さそうに『じゃあな』と言って爽やかに去っていった。

やっぱりかっこいい人だ。落ち着きあって、正に理想の男って感じ。これは偏見だけど特進クラスには居なさそうなタイプ。だからこそ、余計にそれもかっこよく思える。


一人になった教室でようやく座席表を見ることができ、すぐに名前を確認した。


出席番号1番 “浅見 光星”

ひかる、ほし…


おお、すごい。名前までかっこいい。


クラスメイト一人の名前を確認しているだけなのに、その後の俺は無意味に数十秒間じーっと、座席表を眺め続けていたのだった。





翌朝、あまり寝付きは良くなかったのに早く目覚め、転校2日目というのもあって余裕を持って学校に行こうと早めに家を出た。

通勤ラッシュの満員電車に早くも心が折れそうだ。何時の電車がマシなんだろう、できればチャリ通に切り替えたいな。


げんなりしながら学校に到着したら、教室にはまだ誰も居なかった。今日の時間なら家を出るの早過ぎだろうから明日は少し遅くしてみよう。


席に座っていたら今更眠くなってきた。一人うとうとしていたら徐々にクラスメイトが登校してきて、目が合うと軽く挨拶してくれる。

声をかけられているのに気付かなかったら感じ悪いだろうから、と寝ないように頬杖をついて前を向いていたら、「おはよう」と昨日聞いたばかりのあの落ち着いた低い声が頭上から聞こえてきた。


…うわやば、この声絶対浅見光星……


すぐに反応できず、不自然な間を開けてからハッと見上げてしまった。


「…あっ、お、おはよう…。」


うわっめっちゃ吃ってしまった…!しかもなんかイントネーションもちょっとおかしなったし…!なに俺同じ男相手にこんなドギマギしてんねん!


浅見光星のあのキリッとした目に見られたら変にドキドキしてしまう。多分、アイドルと同じ類いだ。目の前に俳優とか居たら緊張してしまうような、うん。多分そんな感じ。


俺が挨拶を返したら浅見光星はすぐに俺の横を通り過ぎ、自分の席に座った。


我ながら同性の同級生相手におかしいとは思いつつ、それからというもの浅見光星からなかなか目が離せなかった。


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