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翌日、俺が登校してきた時にはすでに自分の席に着席している片桐くん。いつも前方の出入口から教室に入るけど、わざわざ後ろから入って片桐くんの方を眺めながら自分の席へ向かう俺、シンプルにキモすぎ。

まだ教室には少数のクラスメイトしか来ていなかったから、頬杖をつきながら前を向いて一人でぼんやりしている片桐くんにこれはもしや話しかけるチャンスなのかもしれない、と意気込んだ。


不自然にならないように片桐くんの席の横の通路を通ろうと歩み寄り、「おはよう」って顔を見ながら声をかけてみたら、3秒ほど遅れて片桐くんはハッとしながら俺を見上げた。


「…あっ、お、おはよう…。」


いきなり挨拶したからびっくりさせたかな。頬から手を離して、ぱちりと目を開けて頷いてくれる片桐くん。やっぱりかわいいたぬき顔。ついつい頬が緩みそうになり、慌てて顔を逸らして自分の席へ向かい、ガタッと椅子を引いて座った。

一言挨拶できただけでもとりあえずは上出来だ。


「あ、浅見くんおはよー、今日早いねー。」

「おはよ。……え、そうか?」


1年の時からずっと同じ特進クラスの俺の後ろの席のクラスメイト、浮田(うきた)に声をかけられた。

時刻を確認したら確かに自分がいつもより早い時刻に教室にいる事に気付く。…うわ、多分1本早い時刻の電車に乗ってるな。全然気付かなかった。

…それって絶対早く片桐くんに会いたいからだろ。無意識の自分の行動、ガチでキモすぎ…。


“一目惚れらしきもの”って思ってたけど、これはもう断言できる。確実に一目惚れだ。まだ性格も全然知らない片桐くんのことが気になって気になってしょうがない。会いたい、話したいってことは恋なんだろうか?そこらへんは少し曖昧だ。


「浅見くんいつも僕より来るの遅いよ?」

「あー…多分1本早い電車に乗れたっぽい。」

「そうなんだ。あっ転校生くんももう来てる、早いなぁ。えーっと名前なんだっけ?」

「…片桐くんだろ。」

「そうだった、片桐くんだ、片桐くん。」


いきなり浮田の口から片桐くんの話題が出ただけでドキッとしてしまった。意識してんのバレてねえよな。片桐くん意識してたら学校早く着いたなんて人に知られたら笑い物だ。


「わっ、話してるの聞かれたかな、目合っちゃった。」

「おはようって言っとけば?」

「え〜いいよ、僕人見知りだから。」


浮田に話してると見せかけて、椅子を横向きに座りさり気なく片桐くんの方を見たら、片桐くんはまっすぐこっちを向いていた。


あっぶね〜、あんまり後ろばっか見てたら不審がられるな。一瞬視線がかち合いそうになり、サッと目を逸らしてそのまま身体ごと前を向いた。

まじで早く席替えしたいな。とりあえず片桐くんより後ろの席希望で。そしたらチラチラ後ろを見る必要もない。あ、でもその前にプリント回収しに来て欲しい。

先生誰か『後ろの人プリント集めてきて』って言って。抜き打ちテストとか全然やってくれていいから。


…という俺の願いはそのまんま実現してしまい、1時間目の英語の授業で「1年で習った範囲ちゃんとできてるか小テストしま〜す。」とテスト用紙を配られた。


問題を解く時間は10分だけしか用意されていなかったため慌てて解いたが、別にそこまで難しくなかった。シャーペンを置いて、ふぅ…と息を吐く。メインはこの後だ。


「はい終わり〜。じゃあ後ろの人プリント集めてきて〜。」


先生の呼びかけに一番後ろの席の人たちが各々立ち上がり、プリントを回収している。そして俺のところにも、一番後ろの席からプリントを回収しながら歩いてきた片桐くんが、最後に俺に向かって手を差し出した。


顔を見上げながらプリントを渡したら、片桐くんまで俺の方を見ていたから目が合ってしまい、慌てて礼を言う気持ちを込めて会釈した。


やばい、俺挙動不審の変な奴みたいになってねえかな。自分の挙動が相手にはどう映るのか、自分じゃ分からないのがもどかしい。





「んで?好きってことでいいのか?」

「おい、教室でその話やめろ…」


休み時間になって俺のところに遊びに来た佐久間にいきなりその話題を持ち出されてしまった。


「英語進んだ?」

「ちょっとだけ。」


俺がやめろって言ったから、すぐに話題を変え俺のノートを借りようとしてくる佐久間に大人しくノートを差し出す。俺からノートを受け取った佐久間は、スマホでカシャッと写真を撮るとすぐにノートを返してきた。


「んで、喋った?」

「……ちょっとだけ。」


しれっとまたその話題を挟まれる。喋ったって言えるほど喋ってはいないけど、喋ったっちゃ喋った。


「京都から来たんだろ?関西弁だった?」

「え?…あー…いや、」


別に話し方は普通……っていうか、やっぱまだ全然喋れたうちに入んねえわ。だって昨日と今日の片桐くんを思い返してみても、思い出すのはあのかわいい顔だけで、少しも話し声を聞けていない。


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