その後@ [ 96/99 ]




ミーティングが終わり、ダッシュで永遠たちの元へ走ったら、そこに友人たちの姿は無く、かわいいかわいい友人の姉が一人でスマホを見ながら座っていた。


「あれっ!?永遠と浅見は!?」

「先帰ったぁ。」


ぶすっとした顔をして、ちょっと不機嫌そうに言われるが、これは多分友人たちの粋な計らいなんだろう。無意識にTシャツの首元を引っ張り、すんすん自分のにおいを確認してしまった。汗臭さは……うん、多分大丈夫。


「待っててくれてありがとう。」

「光星くんに頼まれたからしゃあなしな。」

「うん。嬉しい。」


ありがとう浅見、『光星くん』って呼ばれてるのちょっとムカつくけど許すわ。多分永遠が家で『光星、光星』って言いまくってるんやろうな。俺のことももっと家で褒めてくれ。


「なに食べる?」

「香月くんはなに食べたいん?」


俺の意見聞いてくれるん?優しいな。
嫌々待っていたやろうに、永菜の優しさにますます好きになってしまいそう。


「ん〜…、行列のできてる店で食べたい。」

「なんやそれ!めっちゃ待たなあかんやん!」

「そうやで?めっちゃ待ちたいねん。」


真面目な顔をして言えば、俺が言いたい本当の意味を分かってくれたのか困惑するように顔を背けられてしまった。

せっかく友人たちが俺にチャンスを作ってくれたのに、飯食ってさっさと帰るなんてことはしたくないから、長く一緒にいるための口実だ。


「……お腹減ってへんの?」

「お腹も減ってるけどそれより永菜ともっと喋りたい。」

「あ……、それよりあそこにいる子、香月くんと喋りたいんちゃう?こっち見たはるで。」

「ん?」


……あぁ、練習試合の時に知り合った他校のマネの子。永菜のこと俺の彼女か?って疑って見てるんかな。

ま、彼女ちゃうけど彼女になる予定の子です。


「ちょっと!?あんたなに手ぇ繋いでんねん!」

「あんたって言わんといて。」

「離しなさい!誤解されるで!?」

「そのつもりで繋いだに決まってるやん。」


永菜の手を引いて歩き出そうとすると、永菜はブンブン手を振り払おうとしてきた。


「おい!こら、やめろ!10秒以内に離さへんかったら二度と口きかん!」

「……嫌です。ごめんなさい。」


全力で嫌がられながらそう言われてしまったため、渋々手を離した。もう口調がまんま永遠やん。“女の子っぽいところ”ぜんぜん見せてくれへんし。てかこれ弟と同じ扱いされてへん?いや、俺より永遠と喋ってる時の方がもっと優しかったぞ。残念ながら俺への好感度は底辺のようだ。


それからと言うもの、2メートルくらい距離を取られている。ちょっと遠ない?もうちょっとこっち来てよ。

スッ、と近付いたらサッ、と距離を取られ、もっかい手ぇ繋いだろかと思ったけどまた絶対怒られるだろうからやめておいた。


「俺ってそんなにあかん?もし永遠と友達じゃなかったとしたら俺は彼氏として有り?無し?」

「無し。」

「なんで!?」

「私の知ってるサッカー部の子、女の子と遊びまくってたけど香月くんも同じ匂いする。」

「……永遠とおんなじこと言うてるやん。」


さては共通の知り合いのこと言ってるな?
俺の周りにはそんな遊びまくってる奴おらんけどな。その知り合い、絶対弱小サッカー部やろ。

そもそも俺には遊ぶ時間があまりない。だから今日みたいな日はめちゃくちゃ貴重だ。次いつ会えるか分からないから、今日はなんとしてでもラインを聞いて帰りたい。


「俺基本練習してるから遊んでる暇無いで?」

「そうなん?」

「うん。ほら、今日も試合やったやん。」

「あぁ。確かに。」

「せやから今日のこの時間はめっちゃ貴重やねんで。」

「…ふぅん。」


永菜が頷いているあいだにススッ…とまた近付いてみたら、もう離れなかったから俺との距離は隙間20センチくらいになった。


永遠よりも頭の位置が低い。
顔を見たいけど不自然に覗き込まないと見えなくて、早く向かい合って食事したい。でも、食事を終えたらさっさと帰ってしまいそうだから、できればゆっくり歩きたい。


「結局これどこ向かってるん?」

「え?知らん。どこ向かってるん?」


聞かれたから聞き返したらジト目をジーッと向けられてしまった。うわぁ…めんどくさがられてそう。『早く帰りたい』っていう心の声が聞こえてくる。


「分かった。じゃあそこの定食屋でいいよ。」


嫌々一緒に居られるよりは、もう短時間でもいいから一緒に居たいと思われる努力をしようと切り替えるために、近くにあった定食屋を指さした。

あまり綺麗とは言えない昔から親しまれてそうな雰囲気の店だから女の子はあんまり行きたがらないかもしれない。

返事を聞くためにチラッと永菜を見下ろすと、俺を見上げて「そこでいいん?」と聞き返してきた。


「うん。永菜が嫌じゃなかったら。」

「私はどこでもいいよ。ほなそこ行こか。」


永菜ちゃんサバサバしてるなぁ。
浅見のあのイケメンの兄ちゃんの前とかではどんな態度なんやろ。そういやバイト中ににこにこ笑って喋ってたかもなぁ…。


ガラッと手動で店の扉を開け、中に入ると、昼時で丁度良い時間なのに店内は空席が目立っており、サラリーマンっぽい男性客とのんびり新聞を見ながら飯を食ってるじいさんしか居なかった。


適当に空いてる席に腰を下ろすと、永菜も俺の正面に座る。あ、やっと顔見れた。…って思って永菜の顔を見ていると、店主の奥さんって雰囲気の女性店員が水を持ってきてくれた。


「お決まりになられましたらお呼びくださいね〜」

「あっは〜い、分かりました。」


店員さんに話しかけられた瞬間に、にこっと笑って受け答えする。俺を見る時の顔とはえらい違い。


「ちょっと香月くん?なにしてんのはよメニュー見ぃや。」

「永菜見てた。」

「もうええから!」


…あ、恥ずかしそうにそっぽ向いた。

ちょっと満足した俺は、あんまり見過ぎてもまた怒られるだろうから、大人しく壁に貼られていたメニュー一覧に目を向けた。


「なにしよかなぁ。とんかつ定食ええなぁ。永菜はなにするん?」

「エビフライ定食!」

「ふぅん、かわいいなぁ。」


なんで『エビフライ定食』って言う時そんな笑顔なん?俺と喋ってる時は仏頂面やのに。でもまあ、好みのメニューがあったみたいで良かった良かった。


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