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「光星〜!ごめんお待たせ〜!」

「ううん、俺も今来たとこ。」

「…なんか二人デートの待ち合わせみたいやな。」


今日は光星と付き合って初めての休日、侑里のサッカーの応援に行く約束をしている日だった。休日に光星に会えることが嬉しくて俺はウキウキで待ち合わせ場所に行けば、今日もかっこいい光星がすでにそこで待ってくれている。

手を振りながら歩み寄った俺に、一緒に侑里の応援に来てくれた姉がボソッと突っ込んでいた。


「光星くんは今日もかっこいいなぁ。」


姉の前でもいつも通りの言葉を口にする俺に、光星の顔面は真っ赤だ。


「も〜永遠相変わらず光星くんのこと好きやなぁ。転校してから家でずっと言うてるやん。」

「うん。だってかっこいいねんもん。」

「なんか最近素直やな。前は私が余計なこと言うたらすぐ怒ってきてたのに。」

「もういいねん。かっこいいもんはかっこいい。好きなもんは好きや。」


俺の言葉を姉は多分、本気では捉えていなさそうだけど、「光星くんめっちゃ照れてもうてるやん」って笑っていた。


数十分かけてサッカー競技場に到着すると、まだ初戦なので大人数ではないもののチラホラ見に来てる人がいる。試合前に侑里に一言くらい声をかけられるだろうかとその姿を探していたら、侑里らしき長身の選手が女の子二人と話しているような光景を目にしてしまった。


「…うわぁ、ちょっと永遠見てぇ、あの人女の子と話してはるで。」


ボソッと姉にしては低い声で俺にそう言ってくる姉の発言に、光星が苦笑いを浮かべている。姉は暗に侑里のことを『チャラい』と言いたいのだろう。


「おーい侑里!姉ちゃん来たで!」


俺は侑里が女の子との会話の途中かもしれなかったけど、口を挟むように侑里に近付きながら大声で声をかけたら、侑里はハッとした顔で周囲を見渡し、こっちを見ると駆け寄ってきた。


「あ〜!嬉しい〜!!永菜ちゃん来てくれてるぅ!!」

「私が来んでも他に応援してくれる子おるやん。」

「えぇ?俺が応援しに来てほしいって頼んでるの永菜ちゃんだけやねんけど。」

「ふぅん。」

「侑里あの子ら誰?」

「他校のマネ。なんか知らんけどうちの学校の試合見に来てんて。」


…いや、あんたを見に来たんやろ。

姉の前だからかすっとぼけたようなことを言っている侑里に、姉は眉間に皺を寄せながら話を聞いている。

今日姉がここに来てくれたのは俺と光星からしつこく頼んでいたからだが、侑里の恋は前途多難だ。


予定時刻に試合は始まり、侑里の雰囲気はガラッと変わった。真剣な表情でピッチに立ち、普段の侑里とは別人のようだ。


球技大会の時のバスケの試合も凄かったけど、さすが侑里の専門種目なだけあって凄さのレベルが違っている。


侑里の足で操られるようにボールが転がり、的確なパスを送る。そのパスが、チームメイトをゴールへと向かわせ、点を取る。

点を取ったのは侑里ではなかったものの、侑里の巧さは際立っているように思う。けれどその後、自分で攻めに行ったと思ったら、綺麗なミドルシュートを打った。

ボールはゴールキーパーの手に掠ることもなく、ネットへと一直線だった。


「やっばぁ、侑里うますぎる。」

「うん、やべえな。今俺ちょっと鳥肌立ったわ。」


侑里を称賛する俺と光星の横で、姉は真顔でサッカーコートを眺めている。


「姉ちゃん今のちゃんと見てた?侑里めちゃくちゃかっこいいな。」

「かっこいいって言うたら負けな気がする。」

「は?なんやそれ。言うたれよ。」


実は結構頑固な性格なのか、多分サッカーをする侑里の姿は『かっこいい』とは思ってそうだけど、姉は一言もその言葉を口にはしなかった。


結果は圧勝で終わり、試合が終わると侑里はすぐにこっちに走って向かってきた。


「永菜ちゃ〜ん、俺どやった!?」

「おつかれ、うまかったうまかった。」


パチパチと手を叩きながら、『かっこいい』とは言わないけど、『うまかった』とは言っている。はっきりしてる姉の中の線引きに、侑里は少し不満そうだ。


「俺らこの後ご飯行くけど侑里はどうするん?」

「ミーティング終わったら俺も行ける!!」

「ふぅん、ほな待ってるわ。」


侑里にはそう言っておきながら、俺はその後姉に頼み込んでみた。


「ってことで姉ちゃん侑里待ってあげてくれへん?俺光星と先帰るわ。」

「ええっ!?」


俺の唐突の言葉に、隣の光星がまた苦笑いする。


「たまにはいいやん、今日試合頑張ったご褒美に。」

「…お姉さん、お願いします。香月にもチャンスやってください…。」


珍しく光星まで、姉に向かって手を合わせてお願いする。すると俺の言葉とは違い光星の言葉にはすぐに「ん〜…」と悩み始めた。


「あいつすげえ良い奴なんです…。一緒に居るとすぐに分かってくると思います。」

「…え〜?…う〜ん、まあべつにいいけど…。今日だけな。」


やっぱり光星のお願いには弱いみたいで、姉はそう言って頷いてくれた。「おおっ」と俺は光星と顔を見合わせて、姉ちゃんをその場に残してサッカー球技場を後にする。

「次は侑里のターンやな。」って、二人で侑里の恋を応援した。


「このあとどうする?デートする?」


姉にはいきなり悪いことをしてしまったけど、二人きりになった瞬間にウキウキとテンションを上げ、俺は光星の腕に抱きついた。


「とりあえずご飯食べに行こっか。」

「うん!そのあとどうする?デートする?」

「ん〜、……永遠くんと二人になりたいな。」


不意打ちで俺の耳元で囁いてきた光星の言葉に、俺は咄嗟に顔が熱くなる。


「…俺も。同じこと思ってた。」

「チューして、ぎゅーもいっぱいしたい。」

「俺も…!!同じこと思ってた!!!」


言おうとしたことを先に言われ、大喜びでそう返すと、光星は「おお、やった〜」と言ってクスクス笑っている。


もしかしたら俺たちは、互いに、知らず知らずのうちに、同じことを考えながら、同じ時間を過ごしていたのかもしれない。

光星の気持ちがよく分からなかった頃も、光星だって俺の気持ちが分からず、俺がこうかもしれない、って考えている時、光星だって同じくこうかもしれないって考えていたのかも。


人それぞれ思うこと、考えることは違うはずなのに、不思議なことに光星とは、そんな運命のようなものを感じて、もう一生離したくないと思った。


……って、光星も、

俺と同じ事を思ってくれていたらいいな。


each other  おわり
 2022.04.14 公開−07/20 完結



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