7 楓の奇行@ [ 7/50 ]

放課後になり、タケは吉川と仲良く帰って行った。多分どこか遊びに行くのだろう。放課後デートをできるのはちょっと羨ましいけど、俺は部活をしてる柚瑠が好きだから、部活が終わって柚瑠が俺の家に来てくれるのを大人しく待とうと思う。


「あ!真桜くんおかえり〜。ね〜見て見て、私まだ制服いけると思わない?」


家に帰宅すると、ニートの楓ちゃんが暇そうに自分の高校時代の制服を着て一人で遊んでいた。正確に言うと専業主婦だけど、主婦業でさえうちに帰ってきてからはまったくしてないからここではただのニートだ。


「ただいま。うん、いけてる。俺の学校そんな感じのやつばっかだよ。」


今の楓ちゃんの髪は茶髪で軽くパーマをかけたような高校生と言うには派手な髪型だけど、校則が緩い俺の通う高校にはゴロゴロそんな感じの人がいるから、思ったままの感想を口にする。

すると楓ちゃんは、パッと満面に笑みを浮かべてくるくるとスカートの腰部分を折り、スカートを短くし始めた。


「今から真桜くんの学校これで遊びに行ってみよっかな!」

「え?嘘だろ?絶対やめて。」

「七宮くんって今部活中だよね!?バスケしてるとこ見に行きたい!」

「無理無理。成人済みの姉が制服着てる姿すら人に見られるの恥ずかしいのに。」

「ギャルメイクで誰かわかんなくするから!」


楓ちゃんはそう言って、ダダダダと自分の部屋に走っていった。

そして数分後、俺の前には吉川みたいに目元を派手に化粧して、ラメが入ってるようなギラギラなグロスを塗ったギャルな楓ちゃんが現れる。


「どう!?JKに見える!?」

「…うん、まあ。」

「やったー!!じゃあこれで一緒に出掛けようよ!!あ!本屋行こ!?真桜くん気になってるBL漫画ないの!?姉ちゃんが買ってあげるよ!」


制服を着た成人済みの姉と一緒に出かけるのは嫌すぎるけど、その誘いは物凄く魅力的だ。

自分で買うのは恥ずかしいからできない。でもBL漫画はもっと読んでみたい。

これを断るのは、正直もったいなすぎる。


「じゃあ楓ちゃんのおすすめのやつ買って。」


俺がそう返事すると、楓ちゃんは騒がしすぎるくらいテンションを上げ、下駄箱の奥の方に眠っていたローファーを引っ張り出して、出掛ける準備をし始めた。


「やっば!真桜くんとJKごっこできるなんて嬉しい〜!同い年に見えるかなぁ!?」

「さぁ。」

「タケに感想聞きたい!あいつ今何してんの!?」

「タケ今多分デート中だよ。」

「まじ!?タケの彼女にも会いたい!!どこいるのかラインしてよ!」

「えー、デートの邪魔すんなってキレられそう。」

「いいよ!ラインして!」


いいのかよ。吉川からしても大迷惑だろ。

またタケの楓ちゃん嫌いが加速しそうだなぁ。と思いながらも、言われた通りにタケにラインするだけしといた。


テンションが高過ぎる制服姿の楓ちゃんと一緒に居るところをご近所さんに見られたら嫌だから、俺は楓ちゃんを置いてさっさとチャリに跨り近くのよく行く本屋に向かう。

楓ちゃんは後ろから「真桜待ってよ〜!」とうるさく名前を呼びながら追いかけてくる。

俺の姉には地元の友達に会ったら恥ずかしい、とか思う感情はないのだろうか。この姿の姉と一緒に居る俺の方が恥ずかしくなってくる。


しかし新しいBL漫画を読めるチャンスだから我慢するしかない。あわよくばちゃんとえっちもしてるやつが読みたい。


「真桜くんはどういうジャンルが興味ある?学生?社会人?歳の差?幼馴染?」

「同級生がいい。」

「あっ運動部受けとかかな!?」

「うるさい。声でかい。黙って。帰るよ。」

「待って待って待って!ごめん黙るね!?」


一度声のデカさを注意したら、その後楓ちゃんはわざとらしいくらいコソコソと小声でBL漫画を手に取りながらストーリーの紹介をし始めたのだった。


「これはまじいいよ!純愛!絵も綺麗だし、なんてったって受けが超可愛いの!!」

「そういう説明いらねえからストーリーとか評判教えて。」

「え〜、受けが可愛いっていうのが重要なのに…。」


受けが可愛いとかは求めてねえの。
俺は主人公の気持ちに感情移入したりして楽しみてえの。
可愛いのは柚瑠だけで足りてるの。

そう思っていても、楓ちゃんとはBL漫画の楽しみ方が違うようだ。攻めがかっこいいだの男前だのそんなことばっかり言っている。


「もういいってその説明は!とりあえずこれ!はい!候補!」


絵が綺麗そうな表紙の次に、ストーリーが気になったものを手に取り楓ちゃんに押し付けた。


「これも。あ、これも。」

「え!?多っ!!今ストーリー話したやつ全部じゃん!」

「だって気になるんだもん。」

「え〜!?もお〜。気になるならしょうがないなぁ!!姉ちゃんが全部買ってあげるよ!!」


楓ちゃんは漫画を胸に抱えながら、テンション高くフリフリとスカートを揺らすように尻を振った。


そんな恥ずかしい姿の楓ちゃんの背後から、「お前らなにやってんの?」とドン引きしたような声が聞こえてきた。これはタケの声だ。どうやら本屋に居るとラインしていたからわざわざ来てくれたようだ。


「あ!タケぇ!!見て見てー、JKに見える?」

「えぇ?…まあ、見えるっちゃ見えるけど。」


そう言うタケの顔は、明らかに『こいつバカなことやってんなぁ』と言いたげな表情だ。恥ずかしい、俺だってそう思う。


タケの返事に「よっしゃー」と野太い声を出して喜ぶ楓ちゃんだが、タケの後ろから吉川がチラッと顔を出し、「ハッ」とびっくりしたように口を塞いだ。


「も、もっ、もしかしてタケの彼女!?」

「あっはーい、はじめまして吉川でーす。」


吉川にしては愛想の良い態度でにこっと笑い、楓ちゃんにお辞儀する。


「わー!!はじめまして!!タケとは祖母と孫のような関係でぇ…、タケちゃんにもようやく彼女が…」

「は!?うざいって!!普通に真桜の姉って言えよ!」


タケはすでにブチ切れたような態度で楓ちゃんに言い返しているが、その隣で吉川は反応に困るように口を閉じて肩を震わせて笑っていた。


後からコソッと吉川に「真桜くんのお姉さん真桜くんと性格驚くほど似てないね。」と言われてしまった。


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