6 変化する日常 [ 6/50 ]

月曜日の朝から、俺の目の前の席では付き合いたてのカップルがさっそくイチャついている。


「星菜ちゃん、星菜ちゃん!」

「なぁに?タケくんっ?」

「呼んでみただけぇ。」

「やだぁ〜照れるぅ〜!」

「お前らキモすぎなんだけど。」


そのやり取りがあまりにキモくてストレートな感想を口にすると、俺の横の席から堪えきれないような笑い声が聞こえてきた。


「ふふふっ…もしかして二人って付き合ってるの?」

「うぃ〜す!体育祭の日が記念日でーっす!」


美亜ちゃんからの問いかけに健弘がピースしながらノリノリで答えて、美亜ちゃんやトモから「おめでとう!」と祝福されている。


吉川の名前は前から知っていたものの、聞き慣れない名前を朝からずっと健弘がデレデレにやけた顔をして連呼しまくっているから気持ち悪くてしょうがない。


「星菜ちゃんテスト週間入ったら一緒に勉強しよ!」

「いいよ〜、どこでやる?」

「星菜ちゃんも真桜んちおいで!」

「は?なんでそうなるんだ。」


この場合二人きりで勉強するために誘ってるのかと思ったらまさかの真桜んち???まるで健弘の第二の家のような扱いだ。


「そこはタケくんちじゃなくて真桜くんちなんだ?」

「さすがにいきなり星菜ちゃんを俺んちに呼ぶのはリスク高すぎっしょ?」

「やだぁ〜、なんのリスク〜?」


自分からリスクとか言っておいて、吉川の問いかけに健弘は髪をいじりながらそっぽ向き、口を閉じた。


「いや黙り込むな黙り込むな。お前頭ん中でエロいことしか考えてないだろ。」

「はー?当たり前だと思いますけどー。そういうお前はどうなんだよ。」


ゲッ、余計なこと言うんじゃなかった。

健弘の切り返しに、まさか教室でできる話でもないので俺もそっと口を閉じ、手元にあったノートをペラペラと無意味に捲った。


もうじき学校はテスト週間に入るため、授業ではテスト範囲が書かれた紙を配られる。

テスト週間と言えば、毎回テスト勉強を理由に真桜の家に泊まってるけど、やっぱり今回も誘われるだろうか。

でもやたら真桜にベタベタな真桜のお姉さんが家に帰ってきてるし、残念だけどエッチなことは当分お預けかな。


……なんてことを考えていた自分にハッとして、俺も健弘のこと言えねえな。って苦笑した。


真桜とする性行為は気持ち良くて、可愛い真桜がたくさん見れて、幸福感でいっぱいだ。

いつも真桜からしたがるからするけど、たまには俺から誘ったらどんな反応するんだろ。きっと嬉しそうにするだろうから、たまには俺からも誘ってみたい。


「てか柚瑠、楓に会った?あいついつまで家居んだよ。」

「楓?…ああ、真桜のお姉さん?会った会った。旦那さんが1ヶ月近く出張行ってるみたいで暫くは居るみたいなこと言ってたな。」

「1ヶ月!?」


突然思い出したように真桜のお姉さんの話を振ってきた健弘は、俺の返事を聞いて嫌そうに顔を顰めた。

なんでお前がそんなに嫌そうなんだよ。

真桜もお姉さんからその話聞いてちょっと嫌そうな顔してたけど、健弘の方が随分嫌そうに見える。


「嫌なのか?」

「あいつ俺のこと虐めてくるから嫌。」

「えぇ?あのお姉さんが?普通に優しそうな感じに見えるけど。」

「最初だけだって。まあ真桜にはクソ優しいけど。慣れたらだんだん本性見せてくるぞ。」


本性って…。それは昔から馴染みのある健弘が相手だからとかではないのか?


まだ一度しか真桜のお姉さんに会ったことがない俺は、健弘の話に「ふぅん。」と相槌を打つくらいしか出来なかったが、健弘はよっぽど真桜のお姉さんのことが苦手なようで「楓が居たら真桜んち行きづれー!」と嘆いていた。


俺も真桜のお姉さんが家に居ると少し行き辛さはあるけど、真桜はいつも通りに俺を家に誘ってくる。


「柚瑠ー!今日はうち来る?」


休み時間に俺の席の真横にある窓から顔を出した真桜が、俺の頭に頬を乗せて、俺の肩を掴みながら聞いてきた。

ここが学校であるにも関わらず以前より触れ方が大胆になっている気がする。教室内にいる女子からチラチラと視線を向けられているけど、俺は気にせず真桜に触られたまま「あー…」と悩むような声を出した。


真桜のお姉さんに顔を合わせるかもしれないし、部活後だし、練習後の汗臭さ全開で家にお邪魔するのもなぁ。というような些細な悩みだったが、真桜は「楓ちゃんもまた柚瑠に来て欲しいって言ってた。」と話してくる。


「じゃあちょっとだけ寄ろうかな。」

「うん!」


可愛い。すげー嬉しそう。

俺の頭のてっぺんに真桜の顎が刺さっててちょっと痛いけど、可愛いからそのままにしていたら、教室で喋っている女子に『高野くん七宮くんのこと好きすぎ』なんて言われている。


それはまあ、実際その通りなんだけど、果たしてこの真桜の俺への態度が、傍から見てどういう感情として見られているのだろうか?というのが、今俺の最も気になるところだ。

向こうも『友情?恋情?』って気になってたりして。


『友情だよ。でも真桜のことは好きだよ。』


最近の俺は、もし何か聞かれても、もうサラッと軽くこんな感じで答えればそれでいいや、って思っている。


変化する日常 おわり


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