4 真桜と楓とBL漫画 [ 4/50 ]

※ 柚瑠の夏【健弘の恋愛A】P2〜と関連しています
 未読の方はご注意ください




「え?…ん!?……えぇなんで!?ちょー!!!真桜くーん!!!!おーい!!!!!真桜くん!真桜くん来て!!!」


何故か俺の部屋から、楓ちゃんの大声が聞こえきた。

楓ちゃんが家に帰ってきて初日の、夕飯を食べた後の夜9時頃のことだった。


いつのまにかリビングからいなくなってて静かになったと思ったら大声で俺を呼ぶ声が聞こえてくるから、お母さんがそんな楓ちゃんに呆れたように笑っている。


「楓が来て一気に家の中が騒がしくなったね。」

「うん。うるさすぎ。」

「真桜くん早くッ!ちょっと来て!!!」


もーなんなんだよ。と騒がしい楓ちゃんの声に仕方なくダイニングテーブルの椅子から立ち上がり2階の俺の部屋に行くと、楓ちゃんは俺の部屋にある本棚に並んだ漫画を物色しているところだった。


そこまではなんとも思わなかったけど、ふと楓ちゃんの手が伸びた方向に目が行き、俺はハッとする。


あっやばいッ…!すっかり忘れてしまっていたけど、そこにある漫画は…!!!


「ちょっとこれ!!なんで真桜くんがこれ持ってるの!?私引越しの時全部売ったと思ってたのに!!!」

「…え、……あぁ。」


…え?


「まさか読んだの〜??真桜くんそれはちょっとダメだよぉ!!」


あれ…?それ…俺が買った漫画なんだけど…。

表紙に一目惚れして俺が初めて買ったBL漫画。

柚瑠が健全な漫画と一緒に並べとけっていうから、言われた通りに並べてたのに、普通に楓ちゃんに見つかってて、楓ちゃんは俺が買ったBL漫画を全部本棚から抜いて胸に抱えている。

どうやら楓ちゃんもBL漫画を読む人のようだ。
まさか姉弟で同じ漫画を買っていたということなのだろうか。


都合良くおかしなことを言っている楓ちゃんの話に適当に合わせておこうと何も言わずにその場で突っ立っていると、「真桜くん、BLはほんと〜にダメよ?沼よ?沼。底無し沼。」なんて真剣な顔をしてよく分からないことを言ってきた。


「てか私この漫画ついこの前電子書籍で買ったやつだと思うんだけどなぁ…。」


うん。だからそれは俺が買ったやつだよ。


漫画の表紙を見て、中のページをぺらぺらと捲り、不思議そうな顔をする楓ちゃんが、今度はチラッと俺を見上げてきた。


そして楓ちゃんは、半信半疑に俺に問いかけた。


「……ひょっとして真桜くんが買った?」


うん。だからそうだってば。

…でもこれ普通に頷いたらまずい?適当に友達が読んでたやつ、とか言ってはぐらかす?男がBL漫画読んでるなんて、俺が男が好きなやつ、みたいな目で見られる…?いやでも実際そうだけど…、いやでも楓ちゃんだって同じの読んでるなら案外普通に頷いても平気…?


あれこれ考えすぎて返事に困り、結局無言を貫いた俺の元に、楓ちゃんはスススと近付いてきて俺の手首を引き、絨毯の上に俺の腰を降ろさせた。


「真桜くん白状しなさい!!!読んでるのはこれだけなの!?!?」

「…え、うん。」


突然、普段俺に優しい楓ちゃんが怒り口調で聞いてきたから、あっさりと頷いてしまった。しかもまだ頷いてなかったのにすでに俺が買ったものとして決めつけられている。


「真桜くん天才だよ!!!目利きがあるね!!数あるBL漫画の中からこれを選ぶなんて!!!これ超萌えるよね!!!」


…しかも今度はなんかすげー褒めてきた。
自分が読んでるのもあってか俺が読んでても引かれはしなかったようで少しホッとする。


「ねえねえなんでこの漫画買ったの!?他にももっと良いやつたくさんあるのに!!」

「……え、表紙が…。」


柚瑠に似てたから…なんて言えない。

しかし楓ちゃんは「あぁ、絵が気になったの?」なんて勝手に解釈してくれた。


「そういやこの表紙の子七宮くんに似てない?あの子こんな雰囲気だった気がす………、」



漫画を手にしながらべらべらと喋る楓ちゃんの、何気なく思った発言だったのだろう。


でもそれは、俺にとって一番言い当てられるとまずいことだった。まさかすぎた。こんなに簡単に、言い当てられてしまうなんて思わない。

いや、でもそれほどこの表紙の人物の雰囲気が柚瑠に似ていたということなのだろう。


ギクッ、として、ドキドキドキドキと心臓の動く速度が早まってきてしまった。まずい、完全に動揺している。

そして顔が熱くなってきて、ああもうダメだ。おしまいだ。


楓ちゃんは途中で喋るのをやめ、俺を見る目が完全に何かを悟ったようにジッとこっちを見つめている。


そして楓ちゃんは口に片手を当てて、何故か楓ちゃんまで真っ赤な顔をして一言口にした。


「まじ???」


その反応なに?最悪。こんなことってある?

これもう漫画の表紙の所為で俺の好きな人がバレたようなもんじゃねえの???でもすぐ態度に出てしまう俺がもっと悪い。


察しが良ければきっと今楓ちゃんの頭の中では、“表紙の男が柚瑠に似てたから真桜はこの漫画を買った、つまりその意味は…”ってなってるはずだ。


「こんなことってある?最悪なんだけど…。」


俺はもう何も言い訳などする気も起きなくなって、ボフッとベッドの上に飛び乗り顔を突っ伏した。


すると楓ちゃんは、「ハッ!」と突然大きく息を吸ったあと、いい歳して「ドゥルルルルルルルルル!!!!!」と奇声を上げながら俺のベッドに飛び乗ってくる。頭がおかしい。


「真桜がんばれ!姉ちゃん真桜が両想いになれた暁にはここに教会を建ててあげるよ!!!」


どうやら楓ちゃんは俺が柚瑠に片想い中だと思ったようだ。『パン!』と俺の尻を叩きながら大声でエールを送られる。


「…う、うん…。」


じゃあもう、そういうことでいいや…。って、俺はもう疲れて頷くことだけすると、「で?」と興味津々に楓ちゃんが俺から話を聞こうとする。


「勝算はありそうなの!?」

「…ん〜。」

「七宮くんのタイプとかは知ってるの!?」

「……ん〜。」

「七宮くんとちょっとでもなんかそういう空気にはなってないの!?」

「………ん〜。」

「ん〜ばっかじゃん!!ぼーっとしてちゃダメだよ!?ちゃんとこっちから意識させようとしないと男の子同士の恋は何も発展しないよ!?現実は漫画みたいに上手くはいかないよ!?不意打ちで顔近付けてみるとかしてみたら!?七宮くんバスケ部でしょ!?爽やかな感じだったしああいう系は意外と影でモテモテかもよ!?うかうかしてたら彼女なんかすぐできちゃうからね!?」

「…ん〜…ふふふ。楓ちゃん必死だな。」


影でっていうか、柚瑠は表でもモテモテだよ。
だって俺の柚瑠だもん。彼女なんてできないよー、だって俺と付き合ってるもん。

片想いの頃に聞いていたら耳が痛くなってただろうけど、今は何を聞いても余裕な態度で聞いていられる。


「当たり前でしょ!?真桜くんの恋叶えて欲しいんだよ!?まだ姉ちゃんに彼女紹介してくれたこととか1回も無かったでしょ!?」

「だって彼女いたことねえし。」

「彼氏でもいいから早くッ!!姉ちゃんが実家にいるうちに早く紹介してッ!!!七宮くんでいいから早くッ!!!」

「七宮くんでいい、じゃなくて七宮くん“が”いい、って言って。」

「七宮くん“が”いいから早くッ!!!」

「うん分かった。そのうち紹介できるといいな。」

「うん!!!がんばってね!!!」


楓ちゃん、せっかく応援してくれてるのに嘘ついてごめんな。もう俺の恋は叶ってるんだよ。

…って、ずっと枕に顔を押し付けてニヤニヤしながら、楓ちゃんの言葉に返事をしていた。


楓ちゃんに柚瑠を恋人だって紹介するのは恥ずかしいから、まじで紹介するかどうかは悩むけど、柚瑠が言ってもいいよ、って言ったら、楓ちゃんにちゃんと紹介してあげようかな。…って考えながら、俺はニヤニヤが治るまで枕に顔を押し付け続けた。


真桜と楓とBL漫画 おわり


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