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「真桜くん今彼女はー?」


近場の飲食店に行くために楓ちゃんと歩いていると、会う度に聞かれる質問をされて、俺は迷わず首を横に振った。


「えーいないんだー。せっかく居たら紹介してもらおうと思って帰ってきたのにー。」

「…居ても紹介なんかしねーし。」

「あれ?てことはもしかして居る!?ちょっと!ちょっとちょっとぉ!ほんとはどうなの!?いるんでしょ!?教えてー!?」

「楓ちゃんうるせーしやっぱ帰る。」

「あっごめんね?ごめんね?許してちょんまげ?」


ずっとこんな話題を振られるのは嫌になり、来た道を引き返そうとしたところで腕を掴まれ引き止められる。


「真桜くん何食べたい?フードコートでいい?それともお寿司でも行く?焼き肉でもいいよ?」

「フードコートでいい。」

「私の推し貯金から真桜くんにご飯ごちそうしてあげるね!真桜くんは姉ちゃんの推しでもあるからね!」

「分かったからもう腕離して。」

「あっ!ちょっ!ガチャガチャがあるよ!やるべ!シークレット当てんべ!!物欲センサービンビン出てっから真桜くん代わりに回してくれっか!?」

「…はぁ。」


楓ちゃんにグイグイとガチャガチャの方に引っ張っていかれ、俺は暫く昼ご飯のお預けを食らいながらガチャガチャを回し続けた。


ガチャガチャを数回回してお目当てのものが出てくれたおかげで、楓ちゃんの機嫌は良すぎなくらい良くて、ずっとさっきからベラベラとアニメの推しについて語っている。


『推しを眺めながら食うと飯3杯はいける』と言いながら先程入手したガチャガチャのフィギュアをお盆の上に飾りながら天丼を食べているくせに、メインの海老天を食べる前にすでに苦しそうにしていてとんだ嘘つき野郎だ。


無理矢理口の中に海老天を押し込み完食した楓ちゃんは、食後苦しそうに腹をさすりながら帰路についた。



隣でずっと騒がしい楓ちゃんが居たから、まったく時間を気にせずラインも見ていなかった。


自宅までの道のりを満腹で苦しそうにしている楓ちゃんを連れて歩いていると、突然横断歩道で道路を挟んだ向かい側から「真桜!」と名前を呼ばれているその声に気付く。

聞き間違えるわけもない、俺の大好きな柚瑠の声だ。

視線を動かし、その姿を探すと、部活帰りのようで練習着を着てチャリに跨っている柚瑠とタカを見つけた。


「ん?真桜くんの友達?」

「うん。楓ちゃん先帰ってて。」

「え〜なんで〜?一緒に帰ろうよぉ。」


せっかく柚瑠が向こうにいるのだから、なんとか柚瑠の元に行きたいのに、楓ちゃんにぎゅっと腕を掴まれて身動きが取り辛くなってしまった。


そして、再び柚瑠の方に目を向けると、何故か柚瑠はムッとし顔をして俺のことを見ている。


…え、

……あっ!ちがうちがう!!!!!


俺は咄嗟に思い付いた“柚瑠がしてそうな勘違い”を否定するために、柚瑠を見ながら手を振った。

柚瑠はムッとした顔のまま、首を傾げる。


「姉!!!あ・ね!!!」

「あぁ!」


楓ちゃんを指差しながら叫ぶと、向こう側の歩道から柚瑠とタカの笑い声が聞こえてきた。どうやら誤解は解けたようだ。


その後柚瑠とタカは、信号を渡って俺の元にやって来た。


「真桜ライン送ったのに。」


そう声をかけてきた柚瑠の視線が次にふと楓ちゃんの方に向き、楓ちゃんと目が合うと、柚瑠はぺこりと楓ちゃんにお辞儀する。


「こんにちは、真桜の友達の七宮です。」


柚瑠のその声を聞きながら、俺はぼんやり『友達、かぁ。』…と、少しもどかしい気持ちになった。

…まあ、俺が柚瑠でも同じことを言うんだけど。
大好きな人のことを、家族に堂々と紹介できなくてもどかしい。


「こんにちは〜!」

「柚瑠うちくる?」

「え?あー…でも、」


柚瑠は楓ちゃんに気を遣っているのか、返事に困るように口を噤んだ。

けれど俺は、柚瑠と一緒に居たくて「来て」と誘うと、柚瑠は渋々頷いてくれる。

タカは途中で別れて家に帰っていき、チャリから降りた柚瑠の隣を並んで歩く。

柚瑠と楓ちゃんが互いに自己紹介をするように会話しているうちに、早くも家に到着した。


タケ相手には暴君な性格を見せる楓ちゃんも、初対面の柚瑠相手にはさすがにおしとやかに話していて、俺は少しホッとした。


柚瑠に触りたいのに、楓ちゃんが邪魔で全然手を出せない。久しぶりに帰ってきた姉のことを邪魔だなんて、酷いこと思ってるのは分かってるけど柚瑠にキスしたくてうずうずする。


うずうずうず、うずうずうず…


「真桜くんさっきのアニメ見よー?」

「うんいいよ、見といて。」


楓ちゃんがアニメを見るためにリビングのテレビをつけた瞬間、俺は柚瑠を手招きして自分の部屋に移動した。


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