8 外堀を埋めるB [ 31/50 ]
最近になってタカに絡むようになった女の子、愛莉ちゃんは、前々から健弘たちと仲が良くて、真桜によく絡みたがっていた子だ。
最近になってタカと仲良くなろうとしてるのは、恐らく健弘が協力してくれなくなったからだろう。数日前、健弘にいろいろ話を聞いて、『あいつらと仲良くすんのはもう無理かも。』と言っていたくらいだから、あの子は健弘との関わりすらも無くなったのかもしれない。
タカに絡む流れで俺にも会釈してきて、俺たちと本気で仲良くなろうとしているその行動力を直接真桜に向けたら良いのに。と俺は彼女のことを哀れに思ってしまう。
でも直接真桜に向けたとしてもすぐ真桜に振られるのが目に見えてるから、外堀から埋める…なんてことをしようとしてるんだろうな。
最初はタカに話しかけるついでのように俺にも会釈してきたけど、数日後には「七宮くんおはよう!」ってもう名前を呼ばれて挨拶される。
友達になったわけでもなんでもないのでその挨拶には会釈だけで返すと、「あっごめん、馴れ馴れしかったかな…。」と控えめな態度で謝られた。
「え…、あーいやいや。」
俺が愛想悪かったからか。と手を振りながら否定すると、彼女はホッとしたように息を吐いた。
「いきなり話しかけてごめんね?良かったらライン交換しない?あたし七宮くんと仲良くなりたくて。」
『いきなり話しかけてごめんね』の次にもうライン交換?随分早足で距離を縮めてこようとするなぁ。
朝練後の廊下で行っていたやり取りだったから、「あー時間無いしまた今度でいい?」と話をさっさと切り上げに入った。
「うん!また聞きに行くね〜。」
彼女はそう言いながら俺に手を振って、3組の教室に入っていった。…うわ、返事ミスったかな。ライン交換なんかする気ないんだけど。
「おい、なんで俺にはライン聞かねえんだよ。」
彼女の姿が見えなくなったあと、俺の隣では何故かタカがキレている。お前真桜のことが好きなあの子にわざわざライン聞かれたいのかよ。
「俺ならマッハでQRコード表示させてやったのに。」
「無理だろ、まだおにぎり持ってんのに。」
「俺おにぎりでQRコード作れるタイプの人間だから。」
「はい???」
バカなこと言ってるタカに笑っていたら、4組の教室の窓からひょっこり真桜が顔を見せた。
笑いながらひらりと真桜に手を振り、教室に入ると「朝から楽しそうだな。」と健弘に声をかけられる。
「タカおにぎりでQRコード作れるタイプの人間なんだって。」
「は???」
タカが言ったことをそっくりそのまま言えば、真桜の冷めた目がタカに突き刺さった。そして俺と入れ違いに教室を出て行き、タカと6組の教室へ歩いて行く真桜。
おい、俺お前と親しくなりたい子からライン聞かれてるんだけど?…って文句を言ってしまいたくなる気持ちを抱きながら、窓から少し顔を出して真桜の背中が見えなくなるまで眺めた。
*
「なあ、愛莉ちゃんって子柚瑠にライン聞いてたぞ。」
タカから聞かされた話に、咄嗟に抱いた不快感が顔に出ていたようで、すぐに「目的はお前なんだけどな。」と言葉を付け足された。
「柚瑠教えた?」
「いや、時間無いしまた今度って躱してた。時間あったら教えてたかもな。」
「柚瑠とラインして何話すんだ?」
「そりゃ〜お前あれだろ。研修旅行真桜くんと回りたいから協力して〜とかだろ。」
「無理。」
「って直接言っても高野に断られること分かってるから今外堀埋めてるんだって多分。」
…なんで?
中学の時からなんか好かれてたけど、いまだに俺のことが好きという気持ちはちょっと理解できない。何回も『ごめん』って言ったことあるし、とっくに諦めてると思ってた。
俺にはまったくその気が無いのに、俺の周りの人に協力とか求めようとするのは迷惑すぎる。柚瑠にそれを頼むなんて以ての外だ。
タケたちと仲良い子だったからあんまり無下に扱えなかったけど、そうも言っていられない。
「柚瑠に絡まれるのやめて欲しいならまじで早めに対処した方が良い。」
「…うん、そうだな。」
タカの助言はその通りで、俺は素直に頷いた。
…でも、今までに何回も『ごめん』って言ったことのある子に一体なんて言えばいい?なんて言えば諦める?
全然言葉が思い浮かばなくて、それからずっとぐるぐるとそのことばかり考えていた。
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