9 外堀埋めを阻止 [ 32/50 ]

【 おい、今愛莉が柚瑠を廊下にコソコソ呼び出してったぞ 】


タケからそんなラインが届いたのは、午後にあった体育の授業が終わったあとの休み時間だ。


そのラインに気付いたのは体育が終わって着替えて更衣室を出た時だったから、急いで階段を上って2年の教室の階に向かった。


ああ、どうしよう、朝からずっと考えてたけど、なんて言えばいいんだろう。

…って頭で考えながら、6組の教室を通過して4組の方に向かえば、4組と3組の間の廊下で愛莉ちゃんと柚瑠が向かい合って立っている光景を目にする。


「ハァ…、ハァ…、ハァ…っ」


急いで駆け寄り、咄嗟に柚瑠の首に腕を回してグイッと後ろに引っ張った。


「うわっ!びっくりしたぁ、…真桜?」


トン、と俺の胸元に柚瑠の後頭部がぶつかり、柚瑠が俺を見上げてくる。

俺の行動に柚瑠はさぞかし驚いただろうが、俺も自分でも少し『やってしまったかも』とは思う。


柚瑠の手にはスマホがあることに気付いて、「なにやってんの」と問いかけると、「え?…あー…」と返答に悩む柚瑠。


愛莉ちゃんはいきなり俺が現れたからびっくりして固まった表情で俺を見上げてきた。


「…ライン交換?」

「あ、…うん。」

「やめて。」


柚瑠の首に回していたその手で柚瑠の手からスマホを奪い取ると、愛莉ちゃんが「え?」と不思議そうな声を出した。


「愛莉ちゃんなんで柚瑠と仲良くなろうとしてんの?」

「え、…だって、…真桜くんと仲良いから…。」


愛莉ちゃんは俺の問いかけに恥ずかしそうに顔を赤くして、口をもごつかせながら答えて、下を向いた。


「仲良くなってどうすんの?…協力とかしてもらうの?…絶対やめてね、迷惑だから。」


ちょっとキツめのことを言ってしまったら、愛莉ちゃんは泣きそうな顔をして唇を噛んだ。


「…え…っ、でもあたしっ…研修旅行の自由時間、真桜くんを誘いたくてっ!普通に誘っても断られると思ったから…!」

「柚瑠に頼んだって同じだよ。俺柚瑠と二人で回る約束してるし普通に俺から断るよ。」

「みんなで回るとかは…?無理なの…?」

「みんなって誰?なんでみんなで回らなきゃなんねえの?俺柚瑠と二人で回りたいのに。」


ここではっきり言っとかないとダメだと思ったから正直なことを言ったら、静かに会話を聞いていた柚瑠の顔が引き攣った。


「…そっ、….そんなに言われると思わなかったな…、いつもタケたちとみんなで連んでた仲だったのに…。」


泣きそうになってるような小さな声でそう言う愛莉ちゃんには申し訳ないけど、俺から見た愛莉ちゃんは、“タケたちが仲良くしてたから”、自然に一緒に居るような仲ってだけだった。

薄情だけど俺はこの子のことを、“友達”だとかそんなふうに思ったことはあまりなかった。


愛莉ちゃんのその言葉には何も返せずにいると、愛莉ちゃんは俯きながら俺に背を向け、教室に入っていく。


悲しそうな後ろ姿を見ていると、キツいことを言い過ぎたかな…。って、自分の言動に後から少しモヤついてしまった。

けれど柚瑠がそんな俺の方へ振り向いて、俺の頭に手を伸ばし髪をくしゃっと撫でながら、「真桜ちゃんと言ってくれてありがとな。」って言ってくれた。

もっと他に良い言い方はあったかもしれないけど、柚瑠がそう言ってくれるなら思ってることちゃんと言ってよかったと思う。


「ごめんな、俺あの子にライン教えそうになってたわ。」


その場の空気を変えるように柚瑠はちょっと笑ってそう言ってきた。

その柚瑠の発言に、ずっと持ったままだった柚瑠のスマホを胸元で抱きしめて嫌がる素振りを見せると、柚瑠はクスッと笑って「教えてないから返して。」って手を出してくる。


そんな俺と柚瑠の横を通って行く通行人にじろっ視線を向けられたと思ったらそれはバスケ部の柚瑠の友人で、「何やってんの?」と声をかけられてしまった。


「あ…いや。べつに?」


柚瑠はクールにそう返事して、サッと俺の手からスマホを引き抜いて、教室に入っていった。

廊下で変なやり取りをしててバスケ部の人に怪しまれちゃったかもしれない。

でも、柚瑠には悪いけど、そんなこと俺には全然気にならなかった。もっともっと怪しまれて、もうバレちゃっても俺は全然構わない。





「真桜愛莉に柚瑠と仲良くすんのやめてって言ったらしいな。あと、友達に協力してもらうの迷惑、とか?」


放課後、タケと樹と大樹に誘われてファーストフード店に行けば、さっそくついさっきあったばかりの話を樹に持ち出されてちょっと驚いてしまった。


「なんでもうそんなこと知ってんの?」

「愛莉からラインきた。」

「放課後も誘われたけど愚痴付き合わされそうだったし断ったわ。」


樹に続き、大輝もポテトをつまみながら笑って話している。そんな会話を黙って聞いていたタケが、「真桜よくはっきり言えたな。」と俺に目を向けてきた。


「いっつも好きアピールされても真桜がスルーしがちだったから諦め悪かったんだぞ?あいつ。」

「え?俺スルーしてねえよ。」

「いやしてたって。なあ?」

「うん。スルーっつーか真桜の反応薄すぎんだよ。まだ諦めなければいける!って感じだったからな。ずっと。」

「俺は悪いけどもう見限った。今頃俺の愚痴も言われてると思う。」

「いいんじゃね?俺らに協力してもらえなくなったから今度柚瑠んとこ行ったんだろ?それで真桜にきっぱり振られたんだから結果良ければ全て良し!」


飲み食いしながら大輝たちはそんな話をしていて、俺はずっときっぱり断ってるつもりだったんだけどなぁ…と自分のどこがダメだったのかを考えさせられた。


「つーかあいつ一番ダメなとこいったなー。柚瑠愛莉に協力お願いされてたらどうしてただろ?」

「柚瑠はきっぱり断ると思うぞ。自分でなんとかしてって突き返してるだろうな。あいつはそういうやつだ。」


タケが柚瑠のことをそんなふうに話し、ククッと笑っている。そして俺の肩にポン、と手を乗せ、「な。」と同意を求めてきた。


「うん。柚瑠かっこいい。」


柚瑠のことを褒めながら、チューとストローでミルクティーを吸っていたら、「なぁ…ちょっと変なこと聞いて良いか…?」と大輝が控えめに質問してきた。


「ん?」

「……真桜って抱かれてんの?」

「ガハッ!!!…ゴホッ!ゲホッ!!!」


突然すぎる下ネタに驚いてミルクティーをおぼんの上にボタボタと吐き出してしまった。最悪だ。

赤くなった顔で大輝を睨みつけると、「す、すまんすまん…」と紙ナプキンを俺のおぼんの上に置いてくる。


「いや〜だってさ〜そのへんどうなのかって普通に気になんだろ〜。」

「てかお前らってえっちすんの?」

「…しない。」


嘘をついたら、俺の隣でタケはひっそりクククと笑っていた。


「え〜、したくね?」

「…したい。」

「ぶははっ!そこは正直だな!!」

「じゃあ抱きたい?抱かれたい?」

「…抱きたい。」


トントン続けられる質問に答えたら、「お〜、そっちか〜。」と口にする大輝に続いて樹が「柚瑠は真桜のお願い普通に聞き入れてくれそうだよな。」と何気ないように話しながらポテトをつまんでいた。


その通りすぎて何も言えず、俺は無言で立ち上がっておぼんの上の汚い紙ナプキンをゴミ箱に捨てに行った。


戻った時には今度はタケへの質問攻めが始まっていてホッとする。


男しかいないから、その後の会話は樹も大輝もタケもみんな、下ネタばっかりだった。


外堀を埋める・外堀埋めを阻止 おわり


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