7 外堀を埋めるA [ 30/50 ]

中一の頃、タケと同じクラスになってたまたまタケと隣の席になってから、タケと仲良くなった。

そのうちタケと親しい男子たちとも連むようになり、話したこともない、かっこいいなぁと遠くから見てるだけだった真桜くんとの距離も急激に近くなった。

かっこよくて、タケに話しかけられてちょっと笑ったりする笑顔が可愛くて、目が離せなくて、すぐに好きになった。

タケたちとはすっかり仲良くなれたから、周りの女子よりあたしは明らかに有利なポジションに居られた。

でも、『好き』『付き合いたい』ってアプローチしてみてもいつも反応が薄かった真桜くん。“恋愛”は、少し苦手みたい。

いいもん、一緒に遊べるだけでも他の子たちより有利だし。…って思えていたのは高校に入学してから夏がくるまでの間だけで、それ以降だんだん真桜くんが遊びに誘っても来てくれなくなった。

そしてタケまであんまり遊んでくれなくなった。いっつも真桜くんの家でゲームをしていたらしい。あたしたちも混ぜてくれたらいいのに。


高校に入学してからは、タケに誘われて髪を染め、ピアスをつけ始めた真桜くん。中学時代の真桜くんを知ってる者からすればガラッと変わったイメージに驚いたけど、当たり前にかっこいい。あたしも彼を追いかけるように髪を染め、ピアスをつけた。


けれど、真面目で大人しそうだった雰囲気からいきなり見た目が遊び人っぽくなったから、チャラチャラした女がいっぱい寄ってきた。

その中の一人が、今のタケの彼女だ。
だからタケの彼女には、前々から悪いイメージしかない。

知ってる?真桜くんってほんとは女の子に絡まれるのとか、そういうの苦手なんだよ。ってその女に言ってやりたかった。

恋愛が苦手そうなのを理解してるつもりだったから、あたしは当時油断していた。高一の、文化祭が終わったあたりで、突然耳にした噂。


『高野真桜に彼女ができた。』


その時はすごくショックだったけど、そう長くは続かなかったみたいだからあたしは『やっぱりね。』って思った。やっぱり真桜くんは、恋愛が苦手だ。


同じクラスの七宮くんと話している時は、にこにこしてて可愛く笑っている真桜くん。仲が良さそうで微笑ましい。

でも、そんな二人の間にもいつのまにかあの女、吉川が入り込んできたから、その頃からもうあたしはタケの彼女のことは気に食わない存在だ。


真桜くんと吉川の関係を噂されてたり、かと思えば七宮くんとも怪しくて、密かに七宮くんの事が気になってる子はよくバスケ部の人に探りを入れてたりした。


それでいきなり吉川がタケと付き合い始めたから、もう影ではビッチ扱いされまくり。真桜くんと付き合えなかったからタケで妥協したんだろう、なんて言ってる人もいる。ただの勝手な憶測だけど、それくらい吉川の周りからのイメージは最悪だった。


あたしはああはなりたくない。

だから、真桜くんと仲が良い七宮くんに自分から近付くことは憚られた。


でも油断していたらまた真桜くんに彼女ができてしまうかもしれない。研修旅行までになんとか真桜くんと約束を取り付けて、一緒に旅行を楽しみたい。あわよくば良い雰囲気になって、真桜くんにちゃんと告白したい。

そのためには、やっぱりあたしもあいつみたいに、七宮くんとも親しくならなくちゃ。

七宮くんと親しくなれたら、自然にあたしと真桜くんの距離も吉川みたいに縮まってくれると思った。


けれど、七宮くんに絡みに行くのはそう簡単ではなかった。いつもよく一緒にいる真桜くんと吉川との間には周りが入っていけそうにない親密な空気が流れている。最近その空気の中にタケまで入っていってしまった感じ。

その吉川のポジションに、あたしは妬んだ。


なんとしてでも七宮くんとは親しくなろうと、あたしは真桜くんとも同じクラスで、且つ七宮くんとも親しいタカくんに目を付けた。


彼は休み時間に一人でお弁当を食べていたから話しかけやすかった。別にあたしが話しかけたといっても気にする女子もいなさそうだし、うんとタカくんと仲良くなってやろうと思った。


朝、廊下でバスケ部が来るのを待っていたら、タカくんと七宮くんは並んで歩いてきた。

いきなり話しかけるのは躊躇われて、会釈だけしたら返してくれた。

なんだ、簡単だなぁと思った。

もっと早くこうして、七宮くんと仲良くなっておけば良かった。





真桜と柚瑠の二人の関係を知らない愛莉は真桜と親密になるためにあれこれ考えるが、愛莉が考えていることなどとうに想定済みの柚瑠は、彼女になんとか真桜を諦めてもらう方法は無いだろうか?と頭を悩ませた。


自分と真桜の関係が周りに言えないから、身の回りにこんなことばかり起こってしまう。

真桜のことが本気で好きな子には申し訳ない気持ちにもなるし、真桜目的で近付いてこられるのにはうんざりもする。


『いっそのこと、もうほぼアウトなくらい俺たちが怪しい関係だと匂わせてみるか?』


そんな冗談もひっそり考えてみる柚瑠の頭の中では、日を増すごとに真桜への想いは増えてゆき、柚瑠本人も気付かないうちに、だんだん『バレる』ことに対する恐れも不思議と薄れている。

それは、自分たちの周りに頼りになる友人や応援してくれる人たちが居てくれるからで、彼らの存在が柚瑠に安心感を与えてくれているのだった。


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