6 外堀を埋める@ [ 29/50 ]

「ふふふっ、まだ2時間目終わった後なのにいっぱい食べるね〜。」

「ん?」


なんだ?高野に用か?


休み時間に早弁していたら突然俺の元に女の子が現れた。確かこの子は、タケたちとよく連んでいた子だ。

『これは俺に気がある?』と期待したくなるような展開だが俺には分かる。女の子が俺に話しかけてくる時は100%高野に用がある時だということを。

髪色は高野を意識したような茶髪で、ピアスもちょっと高野が付けてるような感じのやつに似てる。真似してんのかな?


「高野なら4組に行きましたけど。」

「あ、目的真桜くんってバレてた感じ?」

「そりゃまあねぇ。俺ら面識ないですし。」


いやバレてたっつーか逆にバレないとでも思ってんのか?同じクラスでも無いこの子が知り合いでもない俺を訪ねてくるなんて高野目的に決まってんだろ。


「バスケ部のタカくんだよね?あたしは知ってたよ?」

「そうですか。」


高野と同クラで親しいやつをチェックしてたんですね?当然柚瑠のことも把握済みなんだろうなぁ。


「ねえねえ、タカくん研修旅行の自由時間真桜くんと回るの?」

「自由時間?俺はバスケ部のやつと回ると思うけど。」

「えー、じゃあ真桜くんは誰と回るか聞いてる?」

「高野…は、」


そりゃあ当然柚瑠とだけど。聞かなくてもほんとは分かってんじゃねえの?日頃からあれだけ二人が仲良くしてるところ見せられてたら。

…って疑うような目を向けつつ「4組の奴らとかじゃねえの?高野あそこらへんと仲良いし。」って柚瑠の名前は出さずに適当に答えたら、相手の方から「七宮くん?」と柚瑠の名を出してきた。

ほらな。分かってんならいちいち聞くなよ。

高野のことを聞かれて面倒なのが顔に出てしまってそうで、目を合わせずに弁当の蓋を閉じた。


「さあな〜。まだそんな話全然してねえしわかんねえよ。高野本人にどうすんのか直接聞いたらどうですか?」


多分外堀から埋めてってるんだろうけど、柚瑠じゃなくてわざわざ俺のところに聞きに来てるのがガチすぎて怖い。


「ん〜、でも多分七宮くんとだよね。タケは彼女と回るだろうし。」


だからわかってんなら聞くなって。って内心イラつき始めたところで、その子はチラッと俺の目を見つめてくる。


「あたし七宮くんとも仲良くなりたいんだけど、七宮くんちょっと話しかけづらいんだよね…。」


あーうん、分かった。これまじで外堀から埋めてきてるわ。先に柚瑠と仲良い俺と仲良くなってから、次に柚瑠に行く気だろ。


「なんかちょっと怖そうだし…。」

「え、柚瑠??全然怖くねえけど。」


そんなこと言う子は初めてだ。これも何かの作戦か?バスケ部の奴らは柚瑠は怒らせると怖いっつってるけど、怒らせなきゃ普通に優しい。


「話しかけたら普通に話してくれる?」

「え、うん、まあ。」

「…じゃあ、話しかけてみよっかな。」


そう言って、その子は俺と目を合わし、にこりと男受けしそうな笑みを向けてきた。

別に可愛いとか思ってない。高野目当てで近付いてくる子とかただただ煩わしいだけだからな!!!


短い休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、そこで高野が教室に戻ってきた。俺の席の前に居るその子に気付き、無言で高野の目がその子に向けられる。


「あっ真桜く〜ん!」


高野に気付いたその子は、すぐに弾んだ声で呼びかけながらヒラリと高野に手を振った。

しかしのんびり無反応でこっちに戻ってきた高野は、「うん。」とだけ頷いて席に座った。

『うん。』ってなんだ、『うん。』って!!もっとなんか返さねえのか!?……とも思ったが、いや待て、高野はこういう奴だった。

そして反応の薄い高野にその女の子も慣れているかのようにクスッと笑ってから、教室を出て行った。


微笑みかけても『うん。』しか返ってこない男のどこが良いんだよ。言っちゃ悪いが高野は顔が良いだけで中身はそんなに良い男、ってわけでもねえぞ?

高野が俺には素を見せてるから高野の悪いところとか結構思い浮かぶけど、周りからしてみればやっぱ中身より外見にばっか目がいくんだろうなぁ。


「なんか話してた?」


女の子の去って行く背中を眺めていたら、高野が振り向いてその子の背中を指差しながら声をかけてきた。


「うん、高野の話。」

「なんだった?」

「研修旅行の自由時間お前と回りたそうにしてた。」


聞かれたから答えたけど、その後高野は無言で頷くだけでそのまま静かに前を向いた。…ああ、いっつもこうやって、サラーッ、と受け流してるんだろうなぁ。


だがそうやって受け流してるだけでいいのかね?あの子そのうち多分柚瑠にも絡みに行くぞ?


「あの子さっき柚瑠にも話しかけてみようかなっつってたぞ。」


背後からコソッと高野にそう告げると、高野はその途端にシュッと素早く振り返った。柚瑠のことになると動きが速くなんのウケる。


「なんで?」


嫌そうな顔をして聞いてくるから、「外堀埋めにきてんだろ。」って答えたら、高野は眉間に深い皺を寄せてちょっと首を傾げながら、また無言で前を向いた。


嫌そうだな〜。

でももっと嫌なのはお前目的で絡まれる俺と柚瑠だからな。こいつにはそのへんちゃんとわかってて欲しい。





「あ!タカくんおはよ〜!」


翌日、朝練が終わった後、おにぎり片手に柚瑠と並んで教室に向かっていたら、廊下でまるで誰かを待ち伏せするように立っていた昨日の子がまた俺に声をかけてきた。

その瞬間、ギョッとした目で柚瑠が俺を見る。

何か言いたそうだけど、柚瑠の口の中には米粒が入っており、もぐもぐもぐもぐと高速で口を動かし始めた。


「あ…うん。」と無愛想ながらも挨拶に反応すると、その子の目が続いてチラッと柚瑠に向けられる。


さっそく何か話すのかと思いきや、柚瑠に向かってぺこりと会釈するだけで何も話さない。柚瑠もそんな女の子に戸惑いがちで会釈を返し、女の子の前を通り過ぎた。


「タカくんまたね〜。」と俺にはやたら親しみを感じさせる態度を取られ、なにを考えてんのか分からなくてちょっと怖い。


「…おい、なんだよあれ。」


あとから柚瑠がコソッと聞いてきた。

なんだよもクソもない。高野目当てで話しかけられる、いつものことさ。


「外堀埋められてる。」

「俺じゃなくてそっち行くんだ?」

「いや、俺の次にそっちくるぞ。」


たったそれだけの会話で、柚瑠は十分理解しているようだった。さすが、高野と一番親しい男は経験値が高い。


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