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「樹〜!大輝〜!ちょっと聞いてよ!!!」
中学からの友人、愛莉(あいり)が休み時間に突然、自分の席でスマホゲームをしていた俺らの元にやって来て、泣きついてきた。
「おうおう、どしたどした。」
スマホに目を向けたまま返事をするのは大輝で、愛莉はそこでチラッとタケの方を見る。
「彼女できてからタケが変わった。」
「は?どこが?」
「性格悪くなった。」
愛莉はそう言って、むすっとした顔をしている。
「そうか?」
「別に普通だけど?」
変わったところを敢えて言うなら惚気がちょっとうざいこととか?けどまあ、『放課後彼女と買い物行ってくる。』とか報告してくる程度で可愛いもんだ。
真桜もタケも俺らと遊ぶのは随分減ったけど、彼女できたらしょうがねえよな。って話してて、早く俺らも彼女作ろうぜって言いながら密かに俺は大輝と競っている。
「研修旅行の自由時間に真桜くんと回りたいって話したんだけど、タケにすごい素っ気ない態度取られて全然協力してくれない。」
「真桜は無理だって〜、もうそろそろ諦めろよ。」
「だってずっと好きなんだもん!!彼女いないうちは絶対諦めないし!!」
……いるんだよなぁ、彼女…。ではないけど。彼氏。相手が男とは言え、柚瑠を前にした時のあの真桜のデレデレした顔を見て分かんねえもんなのかね?
…いや、わかんねえか。俺らだって全然疑ってすらなかったもんな。
「樹たちは自由時間どうすんの!?真桜くん誘ってみんなで回ろうよ!!」
「…あー、真桜多分バスケ部とかと回るんじゃね?」
絶対柚瑠と回るだろうけど、そこには触れずにバスケ部というざっくりとした言い方をすれば、愛莉は不満そうに唇を尖らせた。
タケに協力してもらえなかったから俺らのところに来たんだろうけど、残念ながら俺らにも無理だ。
「ね〜ね〜、今度七宮の私服買いに行かない?」
そして不機嫌そうな愛莉の耳に、さらに愛莉を不機嫌にさせるような声が聞こえてきた。
吉川さんのそんな話し声が聞こえてきて、愛莉はキッ、と吉川さんをキツく睨みつける。
「あいつなんなの?」
以前から吉川さんのことを『男みんなに媚び売ってる。』と言っていて、そんな人が“タケの彼女”だということも気に食わないようだ。
媚を売っているのかはちょっと分かんねえけど、愛莉が吉川さんを嫌ってる一番の理由は吉川さんが真桜とも仲が良いからだろうけど。
「なんで俺の私服なんだよ。健弘の買いに行けよ。」
「だって七宮ジャージばっかだし臭そうじゃん。研修旅行はおしゃれしなよ。」
「うるせえわ!ジャージで行ってやるわ!!」
吉川さんの発言に、柚瑠は唾が飛びそうな勢いで言い返している。あれを男に媚び売ってる態度…とはとても思えねえし、俺は二人のやり取りにちょっと笑ってしまいそうになったんだが。
タケも普通に笑って話を聞いてるし、媚を売ってるとかじゃなくてあれはただ単に仲が良いだけだ。
「愛莉さぁ、そんなに吉川さんのこと嫌ってるからタケに素っ気ない態度取られたんじゃねえの?」
ずっと吉川さんのことを睨みつけていた愛莉に俺がそう言えば、愛莉は「でもなんであんな子とタケが付き合ったのかが意味わかんない。」と言ってきた。
「あたしらの方がずっとタケと仲良かったのに。」
「なにお前、タケと付き合いたかったのかよ?」
「そうじゃないけど、なんかあたしらのタケ取られた感半端ない。」
はあ?なんだその独占欲。
ちょっとめんどくさい。
そう思っていた時、バチッと大輝と目が合った。俺と目が合って、大輝が「フッ」と鼻で笑う。
「言っとくけど俺らにも彼女できたらもうお前に構ってやれなくなるからな?」
先手を打つように俺がそう言うと、大輝も「俺も俺も。」と頷く。お互い彼女作る気満々だ。ぜってー俺の方が先にできてやる。
「なにそれ、冷たくない?友達じゃないの?」
「友達は友達でも彼女できたら普通にそっち優先になるって。それが不満ならお前も早く彼氏作れば良いだろ?」
そこまで言うと、愛莉は何も言わなくなった。
「だからお前もさ、いつまでもタケタケ言ってねえでそんなに真桜と付き合いたかったらそろそろ自力で真桜に絡みに行けよ。」
「そうそう。タケ優しいから今までずっとお前に協力してくれてたけどさ、残念ながらもうその優しさは彼女にしか向かねえんだよ。」
俺に続けて大輝も諭すようにそう口にすると、愛莉は「…なにそれ、みんな冷たすぎ。」と言い残して去って行った。
「冷たいか?」
「さあ?わかんね。とりあえず俺もまじで彼女欲しくなってきた。」
「それな。」
研修旅行の日が近付いてくるにつれ、俺と大輝は二人でそんな話ばかりするのだった。
研修旅行前の胸騒ぎ おわり
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