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俺が何も言えずに黙り込んで居ると、「タケ聞いてんの?」って怒った口調で言われた。怒りたいのはこっちなんだけど。


「…うん、聞いてるけど…。」


イライラしたような態度で俺を見てくるから、俺はなんか、惨めな気持ちになってきた。


…こいつら、俺のこと舐めてんのかな。


考えてみればやっぱり、俺はこいつらにとってただの真桜に近付くためだけの道具に過ぎないのかもしれない。

俺が髪型とか変えてもコメントの一つもくれねえし、俺の予定を聞いてきたとしても気になってるのはいつも真桜の予定だし、そもそも俺の気になる子とかに興味持ってくれたことある?

親しくしてた時にはまったく興味無かったくせに、俺に彼女ができたら不満そうにして、俺の彼女のこと悪く言うんだな。


そういうのって、友達って言えるのか?

俺は中学からの付き合いだったこいつらとの関係に、初めて疑問を抱いた。


「…じゃあ、お前ら俺にどうしてほしいんだ?」


また真桜を誘って遊びに顔を出せば満足するか?真桜を連れてお前らに絡みに行けばいいのか?

こいつらの希望は分かっていながらも、俺は二人にそう問いかけると、すぐに返ってきた言葉には呆れて声も出なかった。


「研修旅行の自由時間、真桜くんと回りたいから協力してよ。できればタケも一緒の方が良いんだけど。」


「はぁ…。」とため息が出るだけで、もう何も言う気が起こらない。

俺の返事を待ってるだろうこいつらだったが、その前に背後から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


「タケく〜ん?おそ〜い。」

「あ、ごめん。」


『呼ばれたからちょっと行ってくる。』と言って廊下に出てきたけど、なかなか戻ってこなくて待ってられなくなったのか?わざわざ俺のところに彼女が来てくれたのがちょっと嬉しい。


けれど、彼女が姿を見せた途端に、俺の目の前にいた二人がすぐに彼女にキツい視線を向ける。その視線に恐らく彼女は気付きながら、俺の手に指を絡めてきた。


「なんの話してんの?」

「ん?…ん〜、…頼み事?」

「え〜?なんの頼み事?それタケくんじゃなきゃダメなこと?」


手を握って、少し不満げにそう言ってくれる俺の彼女。そうだよな、彼女だったら彼氏が他の女から頼まれごとされてたら嫌だよな。って、俺は星菜の気持ちを想像してみると、なんか優越感のような、くすぐったくなる気持ちを抱けた。


「ん〜、どうだろ。別に俺じゃなくてもいいんじゃね?」


俺が素っ気なくそう吐き捨てた瞬間に、星菜に向けられていたキツイ視線が俺に向けられる。


けれど何か言われる前に、俺は星菜の手を引っ張ってその場から立ち去った。


ちょっと清々したような、でも虚しいような、スッキリしない気持ちが残った。





【 タケくん元気ない 】


授業が始まるのを待っていた時間に、吉川が振り向いてきて俺の今広げたばかりのノートの隅にこそっとそんな文字を書いてきた。

その文字を見てチラッと健弘の方を見ると、健弘は頬杖をつきながら何もせず下を向いている。


「なんで?」


小声で吉川に聞き返すと、吉川はまたサラサラと文字を書く。


【 女友達が原因だと思う 】


吉川はそう書いたあと、ムッと不満そうに唇を尖らせた。

女友達…って言ったら、真桜とも同中の子らのことかな。いつも器用に人付き合いしている健弘が珍しいな。


【 何考えてんのかあんまり話してくれない 】


さらに文字を書き足した吉川は、その後わざとらしく拗ねた顔をするように頬をふくらまし、むっすりした顔でゴシゴシと消しゴムでその文字を消し始めた。


…う〜ん、俺もわかんねえなぁ。健弘の悩みとか、何か抱えてんのかとか。いつも明るいし、賢くて頼もしい奴だけど、そう言えば健弘は自分の気持ちをあんまり表に出さない奴かもしれない。

この前もいきなり吉川のこと好きだとか告白し始めるし、腹の中で何考えてんのかちょっとわかりにくい。


いつも真桜絡みでお世話になってる健弘だけど、たまには“健弘の話”も聞いてみたいなぁとその時思った。



「健弘、一回俺ら二人で話さん?」



体育の授業が終わった後に健弘と二人になった時を狙って、いきなり俺が健弘にそう話しかけたから、健弘は「へ?」と不思議そうに俺を見る。


「なんだよいきなり。なんかあった?」

「いや、なんかあったのそっちだろ。」


だからお前はいつも人のことばっか気にして、自分はどうなんだよ?って言いたくなった。

案の定健弘は、俺の発言に無表情で口を閉じる。


「吉川が気にしてたぞ?なんか悩んでるっぽいのが顔に出てるんだよ。悩みとか誰かに言ってるか?」

「…いや、悩みっつーほどのことは無かったはずなんだけど。なんでだろ、最近ちょっとモヤモヤしたことあったからそれが顔に出てたんかな。」

「モヤモヤしたことって?」


無理矢理聞くつもりはないけど、話してくれるなら俺も力になってやりたい。


暫くジッと健弘の目を見続けていたら、健弘は静かに「ん〜…。」と考え込むように下を向く。


更衣室を出て、校舎に向かって歩きながらようやく健弘が口を開いたかと思ったら、「なにを言えば良いかわからん。」と言うから、ちょっとずっこけそうになった。


「はぁ?健弘って口下手でしたっけ?」


俺の知ってる健弘はそんなことない奴だと思ってたけど。って笑いながら話すと、健弘もクスッと笑った。


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