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「まーじで女子高野の言いなり。高野がマリンスポーツが良いっつってたらあれ絶対マリンスポーツできただろ。」


放課後になり、部活の休憩中タカが不満そうに体験学習の話を口にする。普段わりと温厚な性格のタカが珍しくイラついているなぁと苦笑しながら、俺は謝罪の言葉を口にした。


「ハハ…、なんかごめん。」


俺の班がマリンスポーツだったら真桜もそうしてたかも。って考えたらなんだか俺までちょっと申し訳ない気持ちになる。しかしタカからは「いや、違う。女子にイラついてるだけ。」と返ってくる。

確かに真桜がマリンスポーツが良いって言ったらその通りにしそうな女子たちの様子が簡単に想像できてしまい、タカがイラつく気持ちもちょっと分かる。


「俺もマリンスポーツやりたかったんだけどな。吉川が嫌がってたわ。」

「まじか。じゃあまた大人になったら沖縄行ってカヤックやろうぜ。」

「それいいな。」

「高野は抜きでな。」

「おい、真桜いじめんな。」


話の最後にはもう笑いながらそんな冗談を言っていて、タカの機嫌は治っていた。


男バス部員たちとも研修旅行についての会話が増え、「旅行までに彼女ほしい。」なんて願いを口にしているやつもいる。すでに彼女がいるやつは「がんばれよ〜」と緩く応援しており、高みの見物状態だ。


俺は真桜が俺との自由行動を楽しみにしてくれているから、俺まで楽しみになってきた。


「柚瑠三日目誰と回んの?やっぱ高野?」

「おう、そのつもり。」


良平にも研修旅行のことを聞かれ、正直に頷けば「やっぱりな。」と言われてしまった。


「なんだよ、ダメか?」

「違うって。俺のクラスの女子が自由時間に真桜くん誘いたいって話してたから高野どうするんだろうと思って。その子高野の同中でガチで高野のこと好きそうだし。」

「あー…なんかその子知ってるかも。」


健弘とか樹とか大輝とよく話していて、真桜にはいつも絡みたそうにしている。高一の頃は結構連んでるところを見たことあるし、中学の時は仲良しグループだったのかもしれない。

かと言って、真桜からはその子への親しみがあまり感じられないから一方的に好意を寄せられているのだろう。


「高野に断られたらいつでも俺らの方来て良いからな〜。」


良平には俺が以前『真桜と一緒に居ると癒される』なんてことを言ったばっかりに、真桜は俺のお気に入りだというようなイメージでも持たれたようで、ニヤニヤとからかわれるようにそう言われた。


「ははっ、じゃあ断られたら頼むわ。」


そんなことは無いだろうけど。って分かっていながらも良平の言葉に笑って頷く。

お気に入りなのは間違いではないし、良平にそう認識されていることは俺にとって都合が良い。


真桜はいくら誰かから好意を寄せられていても真桜自身が周りにまったく関心を持たないから、俺には何の不安も心配も無かった。

けれどその代わり、別のところで問題があったことを、俺は全然知らずにいた。





「タケ彼女できてからあたしらのこと避けてんの?」

「てか彼女できる前からも全然遊んでくれなくなったよね?あたしらのこと友達と思ってくれてないの?」


昼休みに中学からの女友達二人に呼び出されたと思ったらいきなり不満を口にされ、俺は「え…。」とたじろいでしまった。


友達と思ってない、そんなわけではない。…けど、女だから男の友達とはまた違った扱いをしている。その自覚があったからこそ、すぐに否定できなかった。


「前まで違ったじゃん、みんなで一緒に遊んでたのにさぁ。」

「あたしらとタケたちの間にいつのまにか距離できてない?」

「タケが遊んでくれないから真桜くんとも最近全然遊べなくなっちゃったし…。」


距離ができたと言われればその通りだ。その一番の原因は真桜が柚瑠を好きになって、言えないことが増えたからだろうけど、真桜にだって好きな人の一人や二人できて当然だし、これは俺にも言えることだけど好きな人がいるのに女友達と仲良くしすぎるのは問題だと俺は思ってる。


でもそんな原因はさておき、まるで俺が悪いみたいに俺を責めてくる女友達だけど、こいつらの言い方だと俺は真桜に近付くためだけの存在に思えてくるのは気のせいだろうか?

純粋な気持ちで俺のこと友達と思ってくれてないのはどっちだろう?

…って、俺がそんな思いを口にする隙もなく、先に二人に話を続けられた。


「てかタケの彼女さぁ、真桜くんにも樹と大輝にも男みんなに良い顔してるよね。あと七宮くんとも仲良いし。ぶっちゃけあんま良い印象持てないんだけど。」

「タケがあたしらと連まなくなったのもあの子と親しくしだしてからだし、イメージ悪いわ〜。女子からの評判もあんまり良くないし。」


…はっ?いきなり俺の彼女ディスりすんの?

…びっくりするわ。ひどくねえか?


その時ふと、俺は数日前にも身近に起こった小さな言い合いを思い出した。

あの時の当事者は柚瑠で、バスケ部の友人に真桜がディスられたことにより隣の教室から聞こえてきた、柚瑠の怒鳴り声を。柚瑠の怒った表情を。

状況が、なんだか少し今と似ている。

柚瑠もさぞ悔しい思いをしたのだろう。

…でも俺にはあんな風に咄嗟に反論できない。

いきなり俺の好きな人のことをディスられて、戸惑いの方が先にきてしまった。そんなこと言うなよ、って悲しくなった。


柚瑠みたいに俺は反発することができなくて、悔しくなって拳を握った。


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