1 [ 24/50 ]

中間テストが終わり程なくしてから、来月にある研修旅行の事前学習が始まった。行く先は沖縄で、沖縄の歴史や文化についてを学び、班ごとに体験学習でやりたいことを話し合う時間なども設けられた。


「マリンスポーツ、海釣り、シーサー作り、エイサー体験…、どうする?」


班のメンバー6人で机をくっつけて話し合っていたため、なんとなく俺は正面に座る美亜ちゃんの方を見るのは気が引けて、隣に座る吉川を見ながら問いかけた。


「ん〜、マリンスポーツは嫌かも〜。」

「だってよ。お前は?」


吉川は多分“スポーツ”って単語を聞いただけで嫌がってそうだけど、健弘ともう一人の男子の班メンバー鈴木(すずき)はどう思っているんだろうと俺の隣に座る鈴木の方を向くと、「ん〜、俺は海釣りやってみたいかな。」と興味を示している。


俺はマリンスポーツが一番興味あったけど、マリンスポーツ以外だったら俺も海釣りがいいな。


「うん、俺も。トモと美亜ちゃんは?」

「私も海釣りは有りかな!」

「うん、私も!あと私はシーサー作りが気になる!」

「じゃあ海釣りとシーサー作りにする?」


午前と午後で二種類体験できるらしいから、二つ目は美亜ちゃんが気になっているシーサー作りで良いかとまた吉川の方を向く。


「吉川それで良いか?」

「いいよ〜ん。あたし魚触れないけど。」

「浅瀬に入って遊ぶだけでも十分楽しいっしょ。」

「浅瀬に入れるの!?それ楽しみ!!」


健弘の一言のおかげで吉川はわくわくした表情を見せ、それにつられるようにトモも美亜ちゃんも「楽しみだね!」と笑っている。


俺たちの班は早くも和やかな空気で項目が決まり、雑談しながら暫しの暇な時間を過ごしている間にこっそり真桜に【 海釣りとシーサー作りになった 】とラインを送った。

決まったらすぐに教えてくれ、と言われていたからだ。





「海釣りとシーサー作りだって。」

「ん?柚瑠の班?」

「うん。」


ホームルーム中、俺の後ろの席に座るタカの方をチラッと振り向いてこっそりそう話しかけた。


同じのを選んだからといって一緒にできるとは限らないと分かってはいるけど、少しくらいは期待して同じのを選びたかった。

クラスが違うから研修旅行中に一緒に過ごせる時間もそう多くはないだろうから、せめて柚瑠の姿を見れる時間を少しでも多く増やしたかった。


初日は沖縄の歴史を学ぶために、ガマとひめゆりの塔に行くらしい。先程配られたばかりの研修旅行のしおりを眺めながら、俺は柚瑠にはいつ会えるだろう、とそんなことばかりを考える。きっとガマもひめゆりの塔もクラス行動だから柚瑠には全然会えなさそうだ。


二日目が班行動の体験学習で、三日目にようやく美ら海水族館と国際通りを好きな人と自由行動できる。


俺の頭の中は、早くも三日目が楽しみな気持ちでいっぱいになった。


担任は研修旅行の一連の予定を説明したあと、班ごとにやりたい体験学習を決めるよう促してきた。


俺の隣の席では、さっそく同じ班の白石と女子が「エイサーちょっとやってみたくない?」なんて楽しそうに話している。


俺はまたタカの方を振り向くと、タカは「俺マリンスポーツやってみたい。」と言っている。残念ながら俺の班の人たちは海釣りとシーサー作り以外に興味を持っている。

せめて俺もひとつくらい意見を言おうと「俺海釣りが良い。」と隣の席の女子にも聞こえる声で言うと、白石や同じ班の女子二人がうんうんと頷いてくれた。


「じゃあ海釣りにする?」

「いいよいいよ!海釣りにしよ!」

「俺マリンスポーツ!!!」

「俺も!!!」


海釣りに決まってくれそうな空気の中、タカともう一人の同じ班の男子がそう声を上げた。


「え〜マリンスポーツ寒くない?」

「それなら海釣りも寒いだろ!!」

「エイサーにしようよ!!」

「うん!私もエイサー踊ってみたい!」

「エイサーはねえわ!!動画見ながら家で踊ってろよ!!俺カヤックやりたい、カヤック!!」

「だから寒いって!!!」

「寒くねえよ!沖縄だぞ!?」


だんだん俺たちの班は、エイサーがやりたい女子と、マリンスポーツをやりたい男子で言い合いを始めてしまった。


俺も自分が踊るの嫌だからエイサーは嫌だ。でも別にマリンスポーツをやりたいとも思わない。

つまり俺は柚瑠の班が選んだ海釣りとシーサー作りにしか興味が無いわけで、ひとつを海釣りにしてくれるならもうひとつは我慢して成り行きに任せようと彼らの言い合いを黙って傍観していると、言い合いの途中で白石から「高野くんはどっちが良い!?」と選択を迫られてしまった。


班のみんなから視線を向けられ、タカからは「マリンスポーツだよな!?」と促される。


「…え、…俺、シーサー作り…。」


そこで俺がもう一つの希望を言ってしまうと、暫しの沈黙のあと女子たちが揃って笑顔で「いいねぇ!!!」と言ってくれた。


「シーサー作り賛成!!!」

「私も!!!」

「おいずるいぞ!お前ら高野の言いなりかよ!!」

「そうだぞ!一個くらい俺らの意見聞けよ!!」

「高野くんの言いなりって言うかマリンスポーツは寒いから嫌なんだってば。んで、そっちはエイサー嫌なんでしょ?間を取ってシーサーで良くない?」


白石が不満そうな顔をしているタカにそう言ってくれるから、俺も一緒になってうんうんと頷くと、タカに「これだからイケメンは!!!」と頬を引っ張られた。


「へへ…いひゃいいひゃい。」


なんかちょっとだけタカたちには申し訳ねえけど、二つとも柚瑠の班と同じ項目に決まり、俺はタカに頬をグイグイ引っ張られながらもへらへらと顔がにやけてしょうがなかった。


[*prev] [next#]


- ナノ -