13 柚瑠と楓の恋話A [ 22/50 ]

お姉さんに関係を知られたあとの真桜は、いつも以上に静かで大人しい。

夜コンビニに出かけて、真桜の部屋で晩御飯食べて、また勉強して、お姉さんとはあれから顔を合わせることもなくそれぞれ苦手な教科の勉強を真面目に励んでいる。


今回のテスト範囲がなかなかに厄介なため俺もあまり真桜やお姉さんにばかり気を取られているわけにもいかず、2時間ほど英語の勉強に集中し、休憩がてらトイレに行こうとした時にはすでに22時を過ぎていた。


真桜の部屋を出て階段を降りていると、丁度お姉さんが2階に上がってこようとしているところだったのか、階段の下にお姉さんが居る。


「あっ!」と俺に気付き声を上げたお姉さんが、無言で手招きをしてくる。コソコソと内緒話でもするように俺を玄関の方に呼び寄せ、玄関にある段差に腰を下ろした。


「真桜くんは?勉強してる?」

「ずっと真面目にやってますよ。」

「じゃあちょっとだけ内緒で恋話聞かせてよ!」

「えぇ、バレたらまた怒られますよ?」

「ちょっとだけちょっとだけ!」


ちょっとだけ、って言うから一体何を聞きたがるのかと思ったら、初っ端から「男同士に戸惑いとか抵抗無かったの?」となかなかに重めの質問をされてしまった。


「それは戸惑いだらけでしたよ。高一の半年間くらいはずっと真桜との関係に悩んだりしましたし。」

「そうだよね、やっぱり悩むよね。七宮くんいっぱい悩んでくれたんだね。ありがとね。」


…別にお姉さんからお礼を言われることではないけど。お姉さんはほんとに真桜のことを思ってて、自分のことのように真桜の恋を応援してくれていたのが伝わってくる。


「俺も真桜とずっと仲良くしてたかったっすから。恋愛関係に足を踏み入れることをそれはもう恐れましたけどね。」


今だからこそ笑いながら話せるけど、当時は本当にいっぱい悩んだ。それはお姉さんも重々理解してくれてるように「そうだよね〜。」と優しく相槌を打ってくれる。


「お姉さんはさすがBL漫画読んでるだけあって理解ありますね。」


茶化すつもりはないけどなんとなく気恥ずかしくてそんなことを言ってみたら、お姉さんからは思いのほか真面目な態度でBLとはまったく関係のない返事が返ってきた。


「ん〜、昔から真桜くん大人しくて恋愛話とか全然聞いたことなくてさ、好きな子いないのかな〜とかずっと気になってて、でも高校生になった真桜くんが七宮くんに恋してたから単純に実ってほしいな〜って思っただけだよ。」

「でもほら、その相手が男だったらやっぱりちょっとは『えっ』てなりますよね?」

「そりゃ〜確かにどっちが攻めなのかな?とかはちょっと考えちゃったりしたけど、…あっでも別に私は弟で変な想像とかしてないからね!?」

「……え、…いやっ、そういうこと言ってるんじゃなくて…。」

「えっ?なに?どういうこと?」


……あれ、なんか、会話が噛み合わないな。

攻めどうこう言い出したけど俺がしたかったのはそんな話では無く、弟の恋愛相手が同じ男でお姉さん自身が抵抗無かったのかってことだ。

まあ…でももうスルーでいいかな。そもそも俺の方がこの人より男同士という点を気にしすぎているような気もしてきた。


「お姉さんが理解ある人で安心したって言いたかったんすよ。学校でも周りに真桜との関係知られるのはやっぱ怖いですし、当然隠してますから。」

「あ〜BLが嫌いな人なんかも居るくらいだもんね。自分が嫌だとしてもせめて表に出さず胸に留めておく程度にして欲しいなって思うよ。」

「あ〜…はは…。そうっすね。」


知人にBL毛嫌いしてくる人でもいたのかな。なんかお姉さんムッとした顔してるし、だんだん俺と真桜の話っていうより、お姉さん自身の話を聞いてるような気になってきた。


「どんなジャンルでもさ、うんと悩んだり苦しんだり葛藤の末に報われる恋って本当に尊いなぁって思う。でもBLはスタートからもう葛藤だらけだよね。」

「え、あー…そうなんですかね…。葛藤することは確かに多いと思いますけど。」

「でしょ?だからBLはほんとに尊いよ。BL嫌いな人はそもそも中身をちゃんと見てくれないから一生分かってくれないんだろうな…。

…あっでももしそんな二人の恋を悪く言う奴がいたら私がまたJKの恰好して高校乗り込んでそいつらはっ倒してあげるからね。」


…あ、今度はBLの話からいきなり俺たちの話に戻ったな。ややこしいなぁ、俺と真桜の話も一応BLになるのか。


……ふふっ、ダメだ。お姉さん一人でベラベラ語り始めるし、この人の話聞いてたらなんかだんだん笑えてきた。真桜がもし誰かに傷付けられようものならまじでJKの恰好してうちの学校に乗り込んできて暴れそうだな。


「ふっ、くくくっ…頼もしいですね…。」

「えっなんで笑うの!?」

「お姉さんBL嫌いの知人でも居たんですか?」


親身になってくれてるって言うより、お姉さんがまるで自分の事のように話すから、ついそんなことを聞けば、お姉さんの顔がまたムッとした顔になった。


「BL嫌いっていうか、私がBL漫画を読んでたことをやたらおちょくってくる男友達がいたんだよ。キモイとか言ってくるからてめえの顔よりマシだっつったら顔真っ赤にしてすぐ黙ったけどね。」

「…わぁ。それ結構傷付いたでしょうね、その人。余計なこと言わなきゃ良いのに。」

「そうだよ、私だって思っててもずっと言わなかったのに。」

「ぶはっ!!思ってはいたんすね。」


『キモイ』と言われた事に対する咄嗟の返しかと思いきや、まさかの本音で言い返していたことに堪え切れずに吹き出してしまった。

口を手で押さえて笑いを抑える。


「顔って言うよりはそいつがロリコン嗜好だったからそれがちょっとキモかったってのをね。」

「あー…なるほど。それは言わないだけで思ってる人の方が多いかもしれません。俺妹まだちっさいんでもし自分の妹が性的な目で見られたりとかしたらすごい嫌っす。」

「あっそうなんだ!!それは絶対嫌だよね!!

…だからさー、絶対受け入れられないことっていうのは誰にでもあるだろうし、BLを受け入れられない人も勿論居るんだろうけど、七宮くんが真桜くんの気持ちを受け入れてくれる人でほんとに良かった!!」


話が随分逸れたかと思いきや、お姉さんはまたBLと重ねつつ俺と真桜の話に戻して、にっこりと嬉しそうに笑って俺にそう言った。


「ん〜…、俺が受け入れたっていうのは、なんかちょっと違う気がしますけどね。」

「そう?でも真桜くんの片想いからでしょ?」

「始まりは確かに真桜からですけど、普通に恋愛した結果ですかね、俺たちが付き合ったのは。俺が受け入れたーとかではなく、普通に俺も真桜のこと好きになっただけなんで。」

『ゴンッ』「いてっ!」

「「……ん???」」


俺がお姉さんに素直な自分の気持ちを話していた時、階段の方から何かをぶつけた音と真桜の声が聞こえてきて、俺とお姉さんはそこで同時に振り向いた。


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