9 楓のブチ切れ@ [ 18/50 ]
「あ、今日柚瑠泊まるから邪魔すんなよ。」
金曜日の午後3時過ぎ、学校から帰宅してきた真桜くんがリビングでアニメを見ていた私のところに顔を出し、そう言ってからスタスタと自分の部屋に向かってしまった。
「えっ泊まる!?なんで!?なにすんの!?」
私はドドドドと真桜くんを追いかけて問い詰めると、真桜くんは鬱陶しそうに振り向き、「勉強すんの!勉強!」と答える。
ああ、勉強ね。テスト期間だもんね。
…って、いやそんなわけあるかーい!テスト勉強するために普通泊まりに来るかーい!?それ絶対勉強せんやないかーい!!!!!
私は心の中でそんなツッコミを入れるが、口には出さぬよう我慢する。
私もかつて学生だった頃、何でかテスト期間に限って友達の家に泊まりに行ったことがあるがまったく勉強せずに夜通し友達と語りながら1000ピースパズルをしていた思い出がある。
そして私は思ったのだ。
勉強は、一人でする方が捗る、と。
そんなことは真桜くんだって分かっているだろう。実際、真桜くんは七宮くんが帰った後は部屋で静かに勉強している。
そう。つまり私は何が言いたいのかと言うと、テスト勉強は“一緒に居るための口実”なのよ!!!
「真桜くん良かったね、応援してるよ。キスくらい奪っちゃいな!姉ちゃんが許可する!」
グッとグーサインをしながらウインクをして真桜くんの恋の応援をするが、真桜くんは冷めた顔をして「はぁ。」とため息を吐きながらバタンと部屋の扉を閉めてしまった。
なっ…!反抗期か!?なんでそんな嫌そうな顔して姉ちゃんを見るの!?姉ちゃんは弟の冷たい態度にショックを受け、ぐすん…と泣きながら1階に降りてきた。
再びリビングでアニメを見ていると、4時過ぎに『ピーンポーン』とインターホンの音が鳴った。
あっ!七宮くんだ!!!!!
起き上がり小法師のように見事な起き上がり方をした私はダダダと玄関まで走り、鍵を開けに行く。
ガチャ、と扉を開けた先には、ロンTとジャージパンツ姿の七宮くんが。お風呂に入ってきたのか、微かにふわりとシャンプーの匂いがした。
ドキッ…!これはもし私が真桜くんだったらドキッ!ものだろう。私は真桜くんの気持ちになったつもりで胸を押さえた。
「あ、お姉さんこんにちは。あの、真桜から聞いてます?」
「うん、聞いてるよ〜!上がって上がって!」
「なんかすんません、いっつもお邪魔してて。」
七宮くんは礼儀正しく謝りながら靴を脱ぐ。
「ううん全然気にしないで〜!上のお兄の学生の時なんかうちが溜まり場になってたくらいだから。」
ヤンキーみたいな奴らがゾロゾロと家に来てたくらいだから、七宮くんなんて可愛いもんだよ?…って喋ろうとしていたら真桜くんが「あ!ごめん、柚瑠来たの全然気付かなかった!」と2階から降りてきたから、私と七宮くんの会話はそこで終了した。
そして2人はさっさと仲良く2階に上がってしまった。ちぇっ。
*
「お風呂入ってきた?」
「あ、うん。入ってきた。」
「良い匂いする。」
柚瑠を部屋の中に招き入れ、すぐにぎゅっと抱きしめて、柚瑠の髪に鼻を近付け、スン、と息を吸った。
楓ちゃんは1階で大人しくアニメを見ているだろうから、その隙にべたべたと柚瑠の身体に触れまくる。
シャツの下から手を入れ、柚瑠の腰に触れると、柚瑠に手首を掴まれ、小声で「おい」と止められてしまった。
「お姉さんいきなり現れそうで心臓に悪いんだけど。」
「大丈夫だよ、来たら足音聞こえてくるから。」
「でもあの人忍び足で来そう。」
そう言って、柚瑠は楓ちゃんの存在を気にしまくっているからえっちなんて到底できそうにない。久しぶりにしたいのになぁ…。
柚瑠は机の前に座り、鞄の中からもう勉強道具を取り出し始めてしまった。俺はとにかく柚瑠に触りたくて、柚瑠のすぐ側に腰を下ろす。
腰に両腕を回し、せめてキスがしたくて柚瑠の唇に口を近付けると、柚瑠はクスッと笑って、柚瑠の方からチュッとキスしてくれた。
あ〜えっちしたい…。
「ん〜っ」と柚瑠の胸元に顔を押し付け、腰に抱きついたまま柚瑠の身体を揺さぶると、柚瑠は「なんだよ〜」と笑いながら俺の頭をぽんぽんと撫でてくれる。
「俺今日は夜まで数学と英語やるから。それ片付いたら、……ちょっと遊ぼうか。」
柚瑠となかなかえっちできなくて残念がっていたら、柚瑠はこそっと俺の耳元でそう囁いてきたから、俺は期待を膨らませながら頷いた。
せめて触り合いっこぐらいはしたいな…。
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