6 男の嫉妬と友情C [ 15/50 ]
「なんでだよ??」
「お前が最近、俺らの誘い断ってばっかだから…。そんなにこっちよりあっちといる方が楽しいのか?」
「…え、それは…。」
ここへ来て良平に言われたのは、まさかの俺の付き合いの悪さの問題だった。それに対しては返事に困り、口籠ってしまった。
こっちが楽しくないってわけではないが、あっちのが俺と真桜の関係を知ってる奴ばっかだから“楽”という気持ちが強い。
こっちに居たらどうしても話題は姫ちゃんとか、女子の話を振られることが多いから無意識に避けがちになってしまう。
「ごめん、楽しくないわけではない…。」
なんとかそう返事するが、良平はあまり納得していなさそうな表情をしている。
「柚瑠あんま自分のこと喋んねえから、何考えてんのかよくわかんねえ時多いんだよ。もしかして俺のこと嫌い?」
「…は?…んなわけねえだろ。好きだって。…あ、変な意味じゃないぞ。」
『好き』というワードが口から出て、慌てて言葉を付け加えると、良平は「分かってるって。」と言いながらふっと笑った。
良平にここまで言われてようやく、俺はタカ以外の男バス部員と少々距離を作っていたことを自覚する。勿論それは、俺が隠し事をしているのが原因だけど。
「…お前ら恋愛話で冷やかすこととかよくあるから、正直そういうのを避けてたのはある。」
今度は俺が思ってることを正直に言うと、その自覚があったのか友人3人とも「あー…」と苦笑した。
「…あと、お前らの誘い断って真桜の方行ってしまうのは、あいつといると癒されるから。」
『真桜のことが好き』とか『付き合ってる』とかはちょっとまだ怖くて話せる勇気が無かったけど、そんなふんわりした気持ちを口に出してみると、今度は彼らから「…えぇ、」と戸惑いの声が漏れている。
「ってお前らにこんな話すると絶対冷やかしてくるだろうから言うんじゃなかった。」
「いや冷やかさねえって!!」
「まだ何も言ってねえし!!」
「ほんとか?」
「おう、ほんとほんと!」
少し信じ難い友人達の声を聞きながら、タカが隣で笑っている。
「てか冷やかすとか以前に高野に癒されるっつーのが理解できねーけど、どゆこと?」
「マイナスイオンでも出てんの?」
「はぁ?単純に真桜がかわいいからだよ。」
「ハッ、こいつ高野のことかわいいとか言ってんだから、そりゃチャラチャラしてるとか言われたらキレるよな。さっきの柚瑠まじびびったんだけど。」
「うん俺も。柚瑠普段優しい分キレるとクソこえーんだよ。」
「てかかわいいとか言ってるとガチで誤解生むぞ。高野だって柚瑠にだけ態度ちげーし。」
口々に俺のことを話している友人のそんな声を聞き、結構危ない発言してしまったな、ってそれだけで内心かなりドキドキしてしまい、こいつらに本当のことを話すなんて、俺にはまだまだ無理そうだ。
「どんな誤解だよ。お前ら変なこと周りに言いふらすなよ。」
「言わねえよ!もしかして俺ら柚瑠に全然信用されてなくね!?」
「だって人の噂話とかべらべら部活中喋ってんじゃん。」
せっかくだから、ここぞとばかりに俺は日頃思っていたことを口にすると、それも自覚があったのか、3人ともまた「あー…」と苦笑した。
「純が言ってたわー、姫井さんは柚瑠のそういう人の噂話とかに寄らない真面目なところに惚れたんだろう、って。」
「は?なんだそれ。それは純の勝手な想像だろ。」
人の噂話に寄らないから真面目なのではなく、俺は自分に話を振られるのを避けたかっただけだ。
「いや、でも割と合ってると思うぞ。姫井さん『他人に人の恋愛話を面白がって喋られるの嫌い』みたいなことも言ってたらしいし。」
俺の否定の言葉にタカがそう口を挟んでくる。
すると3人は「まじかー…」「なんか姫井さんに言われるとグサッとくるな…」「気を付けよー…」とテンションを落とした。
可愛い子の言葉に改心しようとするのは良いことだ。
「そういや健太とか姫井さんのことおちょくりまくっててまじで嫌われてるもんな。」
しみじみとそう口にする友人の発言に、俺は「ぶっ」と吹き出してしまった。
「あれはもう可愛い子に構いたいだけだろ。やってることが小学生のガキみたいなんだよなぁ。」
「分かる。あいつの場合姫井さんに自分からキレられに行ってるよな。」
「てかあいつ姫井さんに殴られて喜んでるだろ。」
いつのまにか話題は姫ちゃんから後輩である健太の笑い話へと移り、俺たちは勉強をするために集まっているものの、結局なかなか勉強を始めることができなかった。
「お前らさっきからずっと笑い声聞こえてんだけどちゃんと勉強やってんの〜?」
今から帰るのか健弘が鞄を肩にかけて教室を覗いてくる。その後ろから真桜も顔を出し、こっちの様子を窺ってきた。
「やべえな、全然やってねえわ。」
「てかやる気出ね〜!!!」
「おいおい運動部ちゃんと勉強しろよ。」
「そういうお前は勉強できんの?」
「タケは頭良いぞ。俺勉強よく教えてもらってるし。」
「まじかよ!」
「なんなら高野も普通に頭良いからな。」
「は!?まじで!?」
タカの言葉に健弘はドヤ顔で真桜の肩に肘を置き、チャラい髪をかき上げた。
「まあ勉強ちゃんとできてこそ、チャラチャラ遊んでいられるってわけよ。」
「うわ、ちょっと褒めてやったら調子乗り始めた。」
「なんだよお前、おもしれー奴だな。」
「俺もタケって呼んで良いか?」
「おう呼んで呼んで。」
目の前では陽気に話す健弘に惹きつけられるように、男バスの友人たちも健弘との親睦を深めている。そんな中、ススッと俺の元に歩み寄ってきた真桜。
特に何か喋ることもなく、俺が腰掛けている席の机に手を置いて静かに立っている。
そんな真桜に気付いた良平が、真桜に視線を向け、ポツリと口を開いた。
「まじで高野静かだなぁ。」
「癒されるだろ?」
「…ふっ、…まあマイナスイオンは出てたりしてな。」
良平は俺の発言を理解できなさそうにしながらも、理解しようとするように笑いながらそう言ってくれた。
良平の中で真桜のイメージが、良いものに変わっていれば嬉しいな。
結局その後もみんなで喋ってしまい、勉強は全然できなかったけど、有意義な時間を過ごせたと思う。
良平に『こっちよりあっちといる方が楽しいのか?』なんて言わせてしまったことに俺自身も少し胸が痛んだので、以後そう思わせてしまわないよう、上手く人付き合いしていきたい。
男の嫉妬と友情 おわり
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