4 男の嫉妬と友情A [ 13/50 ]

適当に空いてる教室で勉強するか、ということになり、2年の階まで戻ってきて6組から順に教室の中を覗くが、同じ考えの生徒がすでに教室に残って勉強を始めている。

4組の教室まで来ると、まさかのもう家に帰ったと思っていた真桜が俺の席に座り、健弘や吉川、それに樹や大輝たちと勉強をすることもなく喋っていた。


そんな真桜たちを横目にさっさと4組の教室を通過する良平。


「あれ?高野まだ居たんだ?」

「うん、タカたちはどこで勉強するんだ?」

「さあ?…あ、3組の教室入ってったわ。じゃあな。」


真桜に声をかけたタカの後に、俺も真桜に手を振って良平たちの後を追い3組の教室に入る。


良平は迷うことなく自分の席に座り、俺たちは良平の近くの席をくっつけて向き合って席に座った。


とりあえず俺は、一番やばめの化学の勉強をしようとテスト対策プリントとノートを取り出したが、タカたちはコンビニで買ったものを食べ始めており勉強を始める素振りを見せない。


「てか柚瑠とタカがあの軍団と仲良いのがまじで謎。」


良平は菓子パンを齧りながら、またそんなことを言ってきた。何回言うんだよ、ってくらいそれ聞いた気がするぞ。

タカも同じことを思ったようで、「だから1年の時同じクラスで仲良かったからだって。何回言うんだよ。」と突っ込んでいる。


「えぇ、あんなチャラチャラした奴らと?」


やっぱりこいつの言い方は、棘があるように感じる。

確かに初めの頃は俺も真桜たちにそんなイメージを持ってしまっていたから良平がそう言いたい気持ちも分かるが、なにもそんな蔑むような言い方しなくても。


「高野もタケも全然チャラチャラしてねえぞ?なあ柚瑠?」

「え、あ…うん。」


俺がずっと黙っていたからタカが代わりに庇うようなことを言ってくれて、俺もそれに頷いた。


「でもこの前高野女連れてたじゃん。」

「あー!あのギャルな!しかも当たり前のように美人連れてるし。」

「なんか見せつけられた感じだよな。」

「分かる。」


良平の発言に、他の二人が乗っかるように口を開く。…いつまで続くんだろう、この話題。

あれは真桜のお姉さんだし、別に真桜は見せつけてるわけでもなんでもない。それを友人たちにも分かってほしいのに、上手く言い出せなくてもどかしい。


「チャラチャラ女連れてるやつが、高野くんかっこい〜!とか言われてんのまじでうざくね?言ってる女もバカだけど。」


多少棘のある言い方をされても我慢してたけど、俺と仲良いと分かってるくせに俺の前で真桜のことをそんな言い方されるのにはさすがに腹が立って、咄嗟に手元にあったノートをバシンと机の上に叩きつけながら良平に言い返していた。


「チャラチャラしてねえつってんだろ!ろくに真桜のこと知らない奴が悪く言ってんなよ!」


頭の中でプツッといった自覚があるが、ちょっと言い過ぎてしまったことに言った後気付く。

良平たちは口元を引き攣らせながら黙り込み、まだ3組の教室に少しだけ残っていた生徒も驚いた顔をして俺に視線を向けてきた。


その場を取り繕うように「まあまあまあまあ。」と言ってきたタカに少し救われる。


自らが招いてしまった最悪な空気の中で、後方の扉から真桜や健弘が3組の教室を覗いてきた。

最悪だ、隣の教室まで声が聞こえてしまっていたらしい。カッとなって怒鳴りつけてしまうのは俺のダメなところだ。迂闊に大声を出してしまったことに反省する。

でも空気を悪くしたのは俺の所為だけど、元はといえば俺の友達を悪く言った良平が悪い。自分でも制御できないくらい腹が立って、良平を睨み付けていると、「柚瑠?」と真桜が控え目に名前を呼んできた。


自分が真桜のことを悪く言ったくせに、良平は真桜の登場で気まずそうに顔を引き攣らせている。


「柚瑠どうした?」


真桜を押し退けて、教室の中に入ってきた健弘が平然とした顔で問いかけてきた。俺はこの時、健弘の存在に驚くほど安堵するように肩の力が抜けた。


「真桜のことチャラチャラしててうざいとかこいつが言うから…。」


俺はボソッと小声で健弘に言うと、健弘はチラッと良平に目を向ける。


「え、チャラチャラしてる?髪か?ピアス?俺が校則自由だしやろうぜって真桜を誘ったんだけどダメだった?」

「…え、別にダメでは…。」

「すげー似合ってね?どこがうざかった?あいつこっちから話しかけねーとまじ誰とも喋んねーくらい静かで大人しいけど。」


健弘のマシンガントークに、良平は少し引き気味で口を閉じた。


「…は?俺の話?」


そして健弘のそんな言葉に、自分の話をされていると気付いた真桜がおどおどしながら歩み寄ってきた。


「高野がこの前一緒に居た女の人で誤解生んじまってるからあの人が誰か教えてやってくんねえ?」

「この前…?誰それ。」

「放課後一緒に居た人いるだろ。」

「誰?…あっ楓ちゃん?…えぇ、なんで?言いたくねえんだけど…。」

「高野が女の人連れてたから、チャラチャラ女連れやがってってこいつらが僻んでんだよ。」

「は!?別に俺は僻んでねー!!!」


タカの発言に、ギョッとしながら男バスの友人の一人が言い返した。


俺が悪くしてしまった空気だが、健弘とタカのおかげでそんな空気も緩和され、頼もしい友人の存在にありがたみを感じる。


真桜はあまりよく話が分かってなさそうで困惑しながらも、「女の人って…、普通に俺の姉なんだけど…。」とボソボソと事実を口にした。


「え!?まじかよ!?」

「あの美人高野のねーちゃんなの!?」

「…え、……うん。」


頷きたくなさそうに躊躇いがちに頷いた真桜に、俺は申し訳ないが少し笑ってしまいそうになった。


「なんだよ!じゃあさっさとそう言えよ!柚瑠がちゃんと言わねえからこうなったんだろ!?」

「は!?俺のせいかよ!?てか言えるわけねえだろ!あれ真桜のお姉さんのJKのフリしたコスプレなんだぞ!?」

「は!?」

「え、どゆこと?」


もうここまで話が拗れたら言ってやるわ、と本当のことを口にすると、真桜の顔が赤面した。


「…柚瑠それ言うのやめて、まじ身内の恥…。」


顔面を両手で押さえてへなへなと腰を落とした真桜に、健弘が爆笑している。


さすがにあの姿が真桜のお姉さんのJKのフリしたコスプレだと思いもしなかったのは当然だが、良平はポカンと口を開けて唖然とした顔で真桜を見下ろしていた。


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