3 男の嫉妬と友情@ [ 12/50 ]

休み時間、俺の真隣にある窓からバスケ部の友人が顔を覗かせ、声をかけてきた。


「柚瑠〜今日放課後みんなで勉強しようぜ。」

「え、…あーごめん、俺は…」

「また高野か?」


その友人から勉強の誘いを受け、断ろうとしたらすぐに変な空気が流れたことに気付く。

冷たい、というか、棘のあるような感じ。

特に約束をしているわけでは無いものの、テスト週間に真桜の家に行くことは当たり前のようになっている。今日は健弘も吉川を連れて真桜の家に行く、みたいな話をしていたから、俺も勿論そのつもりだった。


「柚瑠ってまじであのグループと連んでばっかだよな。」


俺にそう話しかけるのは3組のバスケ部員、良平(りょうへい)という友人で、前々から真桜のことをあまり良く思っていないような発言をしてくる奴だ。

例えば『イケメンさっさと彼女作れ』と言ったり、『モテ男はチヤホヤされていいよな』って言ったり、まあ分かりやすく僻みのような発言ばかり。


普段髪型とか結構気にしてるような奴だから、かっこいい真桜のことが羨ましいんだろうなと思っていた。


「たまには俺らの方来いよ。」

「…あー、うん。分かった。」


…別に、真桜とは約束してたわけではなかったし、誘われた方に行くべきか。と良平の言葉に頷く。


「じゃあ放課後な。」

「おう。」


ヒラリと手を振り去って行った良平に、俺の目の前に座っている吉川が「なにあいつ。」と睨み付けている。

あいつは気付いてないだろうけど、良平が言う『あのグループ』のメンバーが俺の目の前に二人座っている。


「あのグループってどのグループ?」

「え、お前らのことだと思うけど。」

「だよねぇ。普通に喧嘩売られたよね?今。」

「いや、売ってはいない。お前ら近くに居るって分かってたら多分言ってないだろ。」

「でもあたしが今聞いちゃったから。喧嘩売られたとみなす。」

「だから売ってないって。連みすぎなのはごもっともだろ。」

「連みすぎちゃダメなわけ?七宮はバスケ部のものってか!?」

「はあ?誰もそんなこと言ってないって。」


妙な会話を吉川に聞かれてしまったため、面倒なことになってしまった。つまり、なんていうか、多分、俺の人付き合いが悪かったってことだろ。


「じゃあ七宮今日真桜くんち来ないの?」

「…うん、まあ、そうなるな。」

「えーつまんなーい。」


吉川の言葉に頷くと、吉川にムッとした顔を向けられてしまった。真桜の家にはまた別の日にしょっちゅう行ってるだろうし、今日俺が行かなかっただけでそんな顔をされてもな…。



真桜には次の休み時間に今日はバスケ部の奴らと勉強するという話をすると、分かりやすく残念そうな顔をされてしまったが別に不満とかは無さそうだった。

まあその反応が普通だと思う。俺にもバスケ部の友人がいるわけで、ただ最近は自分が真桜と一緒に居たかったからバスケ部の友人からの誘いを断ることもあったけど、チームメンバーのことも大事にしないといけない。

俺からしてみれば今日の良平の態度はそれに気付かせてもらったようなもの。断るのもほどほどにしとかないとなぁ…と思った。



「柚瑠ー、今日は高野んち行かねえんだろ?」


放課後になり、タカが真桜と一緒に4組の教室までやって来た。


「おう、良平に誘われたし。お前は?」

「柚瑠がバスケ部の方行くのに俺だけ高野んち行くのも変だし同じ方行くわ。」

「確かに。」


ところでどこで勉強するんだろうと教室の外に出て待っていたら、良平を含む男バス部員が三人歩み寄ってきた。


「どこでやる?」

「とりあえずコンビニ行かね?腹減った。」


そんな会話をしながら良平たちは廊下を歩き始めたから、俺とタカは真桜に「じゃあな」と手を振って良平たちの後を追う。


実は現在男バス部員には彼女持ちが二人居るのだが、二人ともそれぞれの彼女との約束があるようで、当たり前のように勉強の誘いには乗ってこなかったらしい。


俺も同じなんだけどなぁ…と少し複雑な気持ちを抱くものの、真桜と付き合っていることを隠してる以上仕方無い。


歩きで学校の近くのコンビニへ行き、食べ物をあれこれ買っているタカたちに釣られるように俺も肉まんを買って食べながら学校に戻った。

まだ少し暑さが残る季節で、熱々の肉まんを買ったのは少し失敗したかもしれない。ハフハフと口を開閉させながら校舎を歩いていると、上の階から姫ちゃんが降りて来たところに出会す。


肉まんを間抜けな食べ方していたからかこっちを見ながらクスクスと笑われ、「こんにちは」と俺たちに向かって挨拶をしながら姫ちゃんは通り過ぎて行った。


そのすぐ後に良平に、「柚瑠姫井さんとはあれからどうなったんだ?」と問いかけられる。


「別にどうもなってないけど。」


そう答えて、肉まんの最後の一口を口の中に詰め込んだ。熱かったけど美味いから、もっと食べたくなってきてしまったな。涼しくなってくるにつれ、不思議と肉まんが食べたくなる。


「告られたりしてねえの?」

「うん。」

「てっきりお前ら付き合うのかと思ってた。」


姫ちゃんの話は今でもよく振られるが、俺は別に何も話すことも無いから、無駄にもぐもぐとゆっくり口の中の肉まんを噛み締めた。


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