1 真桜と柚瑠とBL漫画@ [ 10/50 ]

「…うわ、増えてる。」

「ん?なにが?」


…真桜の部屋の本棚に並んでいるBL漫画が増えている。前は3冊くらいだったのが、7冊に増えている。

1冊本棚から抜き取ろうと手を伸ばしたら、真桜はハッとした顔をして俺の手首を掴んだ。


「…え、なにすんの?」

「え?ちょっと俺もこれどんなもんなのか覗いてみようと思って。」

「えぇ!柚瑠は読まなくていいって!」

「はぁ?いいだろ別に。」

「じゃあそれえっちなシーンあるから!読むならこっちにして!」


真桜はそう言いながら、自ら1冊手に取り俺に渡してきた。…へえ。えっちなシーンあるんだ。それ言っちゃうのか。潔いな。


真桜から漫画を受け取り、パラパラとページを捲ってはみたものの、別に真剣に読もうと思っているわけではない。

ていうか今日からテスト週間が始まり、部活動停止のため一応勉強しに真桜の家に来たのだから、漫画を読んでいる場合ではない。

そうは言ってもテスト週間初日から勉強するほど真面目でもないので、まだ勉強道具すら鞄から出さずにベタベタと俺に触ってくる真桜の好きなようにさせてやっていたところだ。


「…今なら楓ちゃん出掛けてるし、えっちしたいな、ちょっとだけ。」


俺に漫画を手渡してきたくせに、真桜は漫画をパラパラと捲っている俺に抱きつきながら、ポツリとそう口にする。


「でもいつ帰ってくるかわかんねえんだろ?」

「…うん、でも帰ってきたら音で分かるし。」


俺の腹に巻きついている真桜の手がスッとシャツの中に入ってきて、なでなでと腹を撫でられた。誘ってきているところ悪いけど、このBL漫画が結構面白そうでパラパラとページを捲る手が止まらない。


高校生の主人公が、同じ高校に通う長年の幼馴染みに片想いをしている描写から始まり、その幼馴染みにはつい最近彼女ができてしまったらしい。

主人公が失恋を一人悲しんでいるところに、突如現れたやたらイケメンに描かれた同級生の男が主人公を慰めている。この男は主人公が幼馴染みの男の事が好きって気付いていたのか。


ほー、なるほどな。恐らく主人公はこの男と恋愛するストーリーのようだ。読み進めていけば、この男は高校に入学してすぐの頃から主人公のことが好きだったと発覚する。


「…ん?」


ここで俺は、この男がふと真桜と重なってチラリと真桜に目を向けた。


「ん?」


真桜は大人しく俺に抱き着きながら、さわさわと俺の腹や下腹部を好き放題撫でている。


「あれ?真桜が俺を好きになったのはいつくらいから?」

「え、なんでいきなりそんなこと聞くの?」

「この同級生の男すっげー真桜と重なる。」

「あ、入学当初から片想いってやつ?俺もだよ。まじ自分の事かと思ってドキドキしながら漫画読んだ。」


真桜はにこにこしながらそう言って、ぎゅっと俺に抱きつく力を強めてきた。すりすりと俺の肩に頭を乗せてきてかわいい。


俺が漫画を真剣に読み始めたと気付いた真桜は、邪魔をせず静かに俺に抱き着きながら俺の手元にある漫画を一緒に眺めている。


「ほー、受験の時消しゴム忘れて主人公が貸してくれたのが好きになったきっかけか。…真桜は?」

「んー、見てたら好きになってた。」

「だからなんで見てたんだよ、って。」

「おにぎり食べてる柚瑠が可愛いかったから?」

「はあ?絶対違うだろ。」


この漫画の話に沿いながら真桜にも問いかけてみるが、真桜の気持ちは漫画の中の男の気持ちを理解するより難しいな。


早くも半分くらいまで読み進めたところで、主人公はいつまで経っても幼馴染みに気持ちがあるような描写があり、同級生の男にとって辛いシーンが描かれている。

しかし主人公も辛い片想いはさっさと終わらせようとしている最中で、頭の中では失恋を慰めてくれた同級生の男の姿を思い描いている。


二人の気持ちはなんだかすれ違いそうなシーンに入るかと思いきや、同級生の男に軽く避けられ、悲しくなった主人公が同級生の男に抱き付いた。


一気にストーリーは急展開を迎え、思いが通じ合いそうなシーンに入ろうとしたところで、一階の玄関の方からガチャ、と扉が開く音が聞こえてきた。


すぐに真桜がサッと俺から離れて、机の上に勉強道具を広げ始める。


「た〜だいま〜!誰かいるぅ!?真桜くーん!!あっ靴ある!!!タケか?」


もうすでに騒がしい真桜のお姉さんの、タッタッタッと階段を登ってくる足音が聞こえてきた。


「真桜く〜ん?ただいまぁ!!!」


そして、バン!といきなり真桜の部屋の扉を開けてきた。

…このお姉さん、まじで危険だな。ノックしないのかよ。と思いながら目が合ってぺこりと会釈すると、「あー!!!七宮くんだ!!!え〜!なんか今日雰囲気違う!あっ学生服だから!?」と俺を見て騒ぎ始めた。


「もう!楓ちゃん勝手に入ってくんな!!!せめてノックくらいしろよ!!!」


うん、俺もそう思う。

俺の妹はまだちっちゃいからいきなり部屋に入ってこられても仕方ないと思うけど、この良い年したお姉さんがこうだと真桜は大変だな。

お姉さんにキレている真桜を見て少し笑っていると、「ごめんごめん。」とお姉さんは適当に謝ったあと、俺の手元を見て「あっ!!!」と声を上げ、俺が手に持つ漫画を指差してきた。


「七宮くんもBL読むの!?」

「あ、いや、本棚にあったんでちょっと読んでみようかと。」

「え〜そうなんだぁ!どうどう!?おもしろい!?」

「まあ…良いと思います。」

「男の子同士の恋愛も良いよね!!!好きになっちゃったら性別関係ないもんね!?!?」


…お姉さん、めっちゃグイグイ話してくるな。しかも真桜思い切り冷めた目でお姉さんのこと見てるし。

なんだよその目、と真桜のお姉さんへの態度に笑いを堪えるように「そ、…そうっすね…。」と返事をすると、お姉さんはパァッと表情を明るくして「ッしェあああッ!!!」と謎の雄叫びを上げながらガッツポーズをした。

なんなんだその反応は。

人のお姉さんにこんな事を言うのもなんだが、このお姉さんはちょっとイカれた性格をしている。

真桜のお姉さんの変な雄叫びにさすがに笑いを堪えきれず、少し引き気味で笑っていると、真桜は呆れた顔をしてお姉さんの手首を引きながら部屋を出て行った。


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