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【柚瑠だけ蚊帳の外(終)】


最近、『吉川さんも一緒に喋ろうよ。』とタケくんが声をかけてくれるから、あたしの放課後の時間は真桜くんとタケくんと学校の中庭のベンチに座ってうだうだと過ごすことが増えた。


タケくんはまるで真桜くんのお兄ちゃんみたいで、男バスの練習見たさに学校内をウロウロする真桜くんに付き合ってあげていて優しい。


「走ってる柚瑠かっこいい。」


七宮が練習している姿を見て、ポツリと呟く真桜くんは、ぶっちゃけただの七宮ファンだ。


「はいはい、よかったな。抱いてもらえよ。」


真桜くんの呟きに対し、スマホをいじりながら適当に口を開いたタケくんを、真桜くんはじろっと不機嫌そうに睨み付ける。


「タケ黙れ。」

「は?なにキレてんの?」


真桜くんに睨み付けられていることに気付いたタケくんが、スマホをポケットにしまいながら聞き返した。


「タケくん、今の真桜くんの地雷なんじゃない?」

「地雷?」

「真桜くんはね、…好きな人を抱きたい方なの。」


タケくんの耳元で囁くようにそう言えば、何故かタケくんの顔が真っ赤に染まった。よく分からないタイミングで赤面され、一瞬微妙な空気が流れる。


「そ、そうだったな。真桜すまん。」


あたしの発言は真桜くんには聞こえていなかったようで、真桜くんに謝るタケくんに、真桜くんは不思議そうに首を傾げた。

薄々感じてたけど、タケくんはまだ童貞だろうな。チャラそうに見えても中身は結構ピュアな感じ。


「でも七宮はたまに逆やってみたいとか思わないのかな。」


素朴な疑問を口に出すと、真桜くんはあたしから顔を背けて無言になった。


「柚瑠意外と真桜に絆されてるとこあるからな。今のままでいいんじゃねえの?」

「この男ずるいよねー、真桜くんに甘えられたら多分誰でも言うこと聞いちゃうよ。」

「魔性の男だよ、こいつは。」


真桜くんのことをタケくんと好き勝手話していたら、真桜くんはフンとそっぽ向きながらも耳がちょっと赤くなっていた。


他愛ない話をしているだけであっという間に時間が過ぎるのはいつものことで、部活が終わった運動部がぞろぞろとあたしたちの前を通過して駐輪場へ向かっていく。


そして七宮も数人で歩いてきたと思ったら、あたしたちに気付いて歩み寄ってきた。


「柚瑠おつかれ。」

「おつかれ。最近お前ら放課後いっつもそこ居るな。」

「そりゃもう、誰かさんが帰りたくねえって駄々こねるからな。」

「言ってねえ。」


ベンチから立ち上がり、あたしたちも運動部に混じりながら駐輪場へと歩き始める。


駐輪場へ到着し、七宮が自転車のカゴの中に鞄を入れていた時、女の子が一人、七宮の元へ駆け寄ってきた。


あ…、あの可愛い女バスの子だ。


あたしもそのことに気付いたように、真桜くんもすでに気付いており、ジッと七宮の方に目を向けながらゆっくりゆっくり七宮の元へ自転車を押して近付く真桜くん。


「七宮先輩おつかれさまです!!」

「ん?おー、姫ちゃんおつかれ。」

「先輩聞いてください!先輩の話聞いてあたし家で筋トレするようになったんですよ!」

「まじ?えらいえらい。」


女の子はイキイキとした表情で七宮に話しかけていた。どう見たって好きって分かるけど、七宮はその好意に気付かないのかしら。


「あの、それで…、もっと先輩とバスケの話したいんですけど、ライン教えてもらえませんか…?」

「え?ライン?」


七宮が女の子に聞き返した時、七宮の側に真桜くんが到着したところだった。


「柚瑠、帰ろ。」

「あ、うん。ごめん姫ちゃん、また今度でもいい?」

「あっはい!すみません!いつでも大丈夫です!」


おー、真桜くん阻止したわね。

少し離れて七宮たちの様子を眺めていたあたしは、パチパチと小さく拍手した。

しかしあの子攻めるなぁ。真桜くんの焦る気持ちが手に取るように分かる。


「やば、めっちゃグイグイいってんな。」


あたしがそう感じたように、あたしの横に立って今の様子を見ていたタケくんもあたしと似たような感想を口にする。


「ごめんな、おつかれー。」

「いえ!おつかれさまです!」


自転車に跨がりヒラリと手を振った七宮に向かって、女の子は可愛い笑みを浮かべてぺこりとお辞儀をした。


「うわー、ああいうタイプやばいわ。ぶっちゃけタケくんだったらあんな子にあんな態度取られたら期待しちゃわない?」

「えっ…やっ、…俺は…別に。」


あら?そうでも無さそう?

顔を引き攣らせて首を振ってきたタケくんに、それ以上は聞かずにあたしたちも自転車に乗り、七宮と真桜くんの元へ向かった。


真桜くんがちょっと不機嫌になっていたからか、二人の間には沈黙の時間が流れていた。


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