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昼休みになると七宮の席に来る真桜くんと、いつも一緒にご飯を食べている。
「誰か知らないけど七宮のこと性格悪いって言うのはウケるよね。あれが性格悪かったらあたしどうなんの?」
「デーモンじゃね?」
「は?それはひどくない?真桜くんまじ失礼。言っとくけど真桜くんもそこそこ性格悪いからね。」
「別にいいし。好きな人に良く思われてたら十分だし。」
「あーそうね。真桜くんはそういう人だわ。」
失礼なことをズケズケ言ってくる真桜くんだけど、あたしたちは言いたいことをお互い好き勝手言い合える良き友人関係を築けている。あたしにとってとても心地よい関係だ。
「…でもなんか、さっき、柚瑠ちょっと落ち込んでるように見えたな…。」
「え、そう?」
「…んん、口数少なかったっつーか…。」
「あ〜…まあちょっとね。」
休み時間に七宮や女バスのトモちゃんたちが話していたことをあたしはチラッと聞いただけだけど、女バスの1年に七宮が『性格が悪い』と言われたらしく、さっきから真桜くんと話しているのはその事だった。
「…ムカつく。」
「うわ、すんごい怒ってる。」
真桜くんは一言そう言った後、口の中にご飯を入れ、暫く無言でモグモグと口を動かし続けている。
不機嫌真桜くんはいつも以上に無口だ。
かつてあたしが七宮のことを『趣味が悪い』なんて言ってしまった時のことをふと思い出してしまった。普段自分から人に喋りかけるような人間ではない真桜くんがわざわざ突っかかってきたのだから、あの時のあたしの発言には相当頭にきたのだろう。
そんな苦い思い出に、そっと蓋をするように思い返すのをやめた。人を悪くばかり言ってると、その分自分に返ってくる。七宮が教えてくれたことだ。
これからはもっと、人の良い面を見れるよう心掛けたい。
「やっぱ可愛い子は見る目があるよな。」
「ブフッ、」
真桜くんがいきなり不機嫌そうな顔でそんなこと呟くから思わず吹き出しちゃった。
「え?なにいきなり。七宮のこと性格悪いっつってる奴のことブスって言いたいだけでしょ?」
「ブスだよ。性格の悪さは顔から滲み出るからな。」
真桜くんが口にした事はまるで自分が言われたような気になって、あたしは咄嗟に自分の顔を手で隠した。
「あははっ!大丈夫大丈夫、最近の吉川はちょっとだけ可愛い気もする。」
「え〜?ちょっとだけ〜???」
あたしを見ながら珍しく声に出して笑う真桜くんに、照れ臭くなってすぐそう言い返した。ほんとは『ちょっと』でもすごい嬉しいけどね。真桜くんに笑顔でそう言ってもらえて喜ばない女の子なんていないでしょ。
「なんかそのブスな女バスの1年どんな奴か見たくなってきちゃった。」
「下行ってみる?女バスって昼休みどこいるんだろ。」
「あらあら〜、真桜くんが気になってるのは女バスのあの可愛い子の方なんじゃないの〜?」
「…それは、まあ、ちょっとだけ。」
いつどこで七宮があの可愛い子に話しかけられているか分からない。七宮は昼休みになるとグラウンドで遊んでることが多いけど、どこかに行って姿が見えなくなる時もある。
きっと真桜くんは、あの可愛い子に七宮が好かれていることが、すごい不安なんだろうな。
「じゃあ食後の散歩がてら、ちょっと下行ってみますかぁ。」
あたしと真桜くんは昼ご飯を食べ終え、残り30分ほど残った昼休みに、教室から出て階段を降り、目的地は特にないまま適当にぷらぷらと歩いた。
L字の形をした校舎の角を曲がって、まっすぐ歩いた先に出入り口があり、外に出ると運動部の部室や体育館が近くに並んでいる。
そこへ行く途中に購買があり、ピーク時は過ぎたようで購買付近はチラホラ生徒がいるだけだった。
1階の廊下の窓からは、グラウンドでバレーボールをしている男子生徒たちの姿が見える。
「お、七宮はっけ〜ん!なにあれ、バスケ部とバレー部が一緒に遊んでんの?」
「その時によって適当に遊びたい奴らで遊んでるらしい。」
「へぇ、運動部仲良いなぁ。…あっ、」
外を見ながら廊下を歩いていると、校舎沿いでグラウンドを眺めている女子生徒の姿が二つあった。一人はチラチラと誰かを目で追いながら、楽しそうに連れの子と喋っている。そんな光景を目にして、あたしはトントンと真桜くんの肩を叩いた。
「あそこ。七宮のこと見てんじゃない?」
顎で女子生徒の方を指し、真桜くんに教えてあげると、真桜くんは「あ、ほんとだ。」と言ってその子の方を見ながら立ち止まった。
最初は無表情だったけど、その後クスッと小さく笑い出した真桜くん。
「分かる。見ちゃうよなぁ…。俺と一緒だ。」
不安な気持ちを抱いているのかと思いきや、真桜くんのあの子を見る目は妙に優しげだ。
「あれ?ムスッとしないんだ?」
「なんで?」
「あんな風に七宮が見られてんの嫌じゃない?」
「…ううん…。片想いしてる子の気持ちは、俺も分かるから…。」
真桜くんはそう言いながら困ったような顔で下を向いた。
「俺ももうちょっと近くで見よっかな。」
パッと顔を上げたと思ったら、真桜くんは明るい表情でそう言って、出入り口から校舎を出た。
来た道を引き返すように、校舎沿いを歩く。
ゆっくり、ゆっくり歩いているが、徐々に女の子たちの方へ近づいている。その距離が近くなっていくと、あたしたちの存在に気付き、チラッと二人から視線を向けられた。
『あっ!高野先輩だ!』と連れの子が真桜くんの名前を口にした気がする。
女の子たち二人の前を通過する直前、「真桜!」とグラウンドの方から真桜くんの名前を呼ばれる声がした。勿論その声は七宮だった。
声が聞こえた瞬間に、ふわりと嬉しそうに笑う真桜くん。バレーボールをしている輪から一人抜けて、七宮が駆け寄ってきた。
「なんか知ってる奴ら歩いてるなと思ったらお前らだったわ。」と言いながら、額から流れてくる汗をTシャツの袖で拭っている。
「こんなところでなにやってるんだよ。」
「え〜それ聞いちゃう〜?」
『あんたのこと見てたんでしょーが。』とあたしは七宮に耳打ちすると、「あー、はいはい。」と呆れたように笑う七宮。
そんな時、チラッと一瞬七宮の視線が近くに居るあの可愛い子の方に向く。
しかし七宮からはそれ以上の反応は無く、サッと目を逸らして真桜くんの肩に手を置いた。
「真桜もバレーやっていけよ。」
「え、無理無理。俺球技苦手だし。」
「大丈夫だって。みんな遊びでやってるだけだし。」
汗臭そうな七宮に肩を組まれ、バレーの輪の方に連れて行かれそうになってる真桜くんだけど、真桜くんはにこにこ嬉しそう。
可愛い子が近くで七宮のことを見ていたとしても、七宮は真桜くんを見つけてすぐに駆け寄ってくる。
真桜くんにとったらすごく嬉しいことだろうなぁと、あたしは二人の様子を横で眺めながらコソッと笑った。
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