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【高野真桜という前例】


「ちょっと柚瑠〜!昨日1年に性格悪いとか冷たいとか言われてたけどあんたなにしたの!?」


休み時間、真桜も聞いている場でトモが俺にそんな話をしてきた。そして真桜目当てでトモの元へ遊びに来ていた隣のクラスの女バスの友人も、トモと一緒になってうんうんと頷いている。


「はぁ?別に何もしてねえよ。…ねちっこい奴だな。」


後輩ってあの子らのことだろ?ほんの少し愛想の無い態度を取っただけで性格悪い認定をされるのか。と、思い当たる女バス1年二人組の顔が思い浮かべ、ぼそっと口から愚痴が漏れる。


「ねちっこいって…まじで何やったんよ?」


別に俺はそんなにねちねち言われるようなことをしたつもりはないから、馬鹿馬鹿しくなってトモたちの問いかけには返事せずに黙って机に肘をついて壁に凭れ掛かった時、俺たちの会話を側で静かに聞いていた真桜が、やたら不満げに口を開いた。


「影で人の悪口言ってる奴の方が性格悪いだろ。」


真桜ありがとう、俺もそう思う。


「…えっ!あっうん、そうだよねぇ!」

「うんっ私もそれは思ってたんだよ!!」


…そしてこいつらも、真桜が喋ったらコロッと態度変えやがった。


「1年の分際で生意気なんだよ。


…って女バスの1年に言ってこいよ吉川。」

「へ?あたしぃ???」


俺の前の席で鏡を見ながら睫毛をいじっていた吉川が急に真桜に話を振られて、間抜けな顔で振り向いた。


「うわ、吉川睫毛ズレてるぞ。」

「だから今直してたんでしょーが!」


「も〜真桜くん最近あたしへの無茶振り多くない?」と文句を言いながら、再び鏡を見て睫毛を触り始める。


「無茶振りそんなされてるか?」

「うん、この前七宮のかの、ッゲホ!ゴホ!んんっなんでもな〜い。」

「は?なんなんだよ。」


まずいことを言いそうになったのか、急に噎せたフリをし出した吉川にトモたちが不思議そうな顔を向けている。


「まあ別に言ってやってもいいけどね。そのクソ1年どいつ?真桜くん一緒にシメに行こっか。」


物騒なことを言っている吉川に、真桜は無表情でコクリと頷く。本気なのか冗談なのかこいつらちょっと分かりにくすぎるぞ。


「わー!わー!待って!大丈夫!」

「私らがちゃんと注意しときます!!」


不穏な空気を感じさせる吉川と真桜の態度に焦ったトモたちが慌てて止めに入り、吉川は「あっそう?じゃあしっかりね〜。」とどうでも良さそうに言ってまた鏡と向き合い出した。


『注意しとく』って言われてもな。

先輩の悪口言うなって?

ガキじゃあるまいし、そんなこと注意しても反感買いそうな気がするけど。


そりゃあんな奴らが居たら女バスの雰囲気が悪くなるのも納得だ。





「リサちゃんあのさぁ、ちょっといい?」


部活が始まる前、キャプテンに人目の無い場所へ呼び出された。


「なんですか?」

「チラッと話聞いたんだけど、柚瑠のこと性格悪いとか周りに言いふらしてるってほんと?」

「…え?別に言いふらしてませんけど…。」


え、なにそれ?私が呼び出されたのそんなことが聞きたかったから?

確かに性格悪いとは言ったけど、人聞きが悪い。私は事実を話していただけなのに、それを『言いふらしてる』なんて、さも私が悪いことをしたみたいにわざわざ呼び出されるとは驚きだ。


「誰がそんなこと言ってたんですか?」

「誰がとかそういうことじゃなくてさ、」


いや、聞かなくても分かる。絶対千春だ。私が話していたのを聞いてて先輩に告げ口したんだ。


「言いふらす気がなかったとしても誰かにそういうこと話してたらすぐ広まっちゃったりするからね。」

「分かりました。気を付けます。」


キャプテンの前だから素直に頷いたが、キャプテンはまだ何か言いたそうにしている。


「…あの、まだ何かありますか?」

「ん〜…それから、この前の練習で姫ちゃんの頭にわざと肘ぶつけたよね…?」

「えっ?…そんなこと、するわけないじゃないですか。」

「でもそう思われても仕方ないラフプレーだったのは事実だよね?」


キャプテンに言われたことに、何も言い返せずに黙り込んだ。バスケでは絶対に千春に負けたくなくて、ボールを取られそうになりプレーが荒っぽくなったのは事実だ。


「あと、姫ちゃんの好きな人の話とか、さ…。リサちゃんが広めたって…、それで二人が仲悪いって聞いたんだけど、」

「…はっ?そんなの!私広めたつもりとかないんですけど!!」


キャプテンは続けて、少し言いづらそうに私にそんな話を振ってきた。

姫ちゃん姫ちゃんって、先輩はみんな千春の味方ばっかりだ。ちょっと千春が被害者ぶったら先輩にも守ってもらえていいね、ってまた千春のことが憎くなってきた。


「そのつもりは無くても、そうなっちゃうことってあると思うから。これからは気を付けて?チームワークが大事なんだから仲良くしなきゃダメだよ。」

「……分かりました。気を付けます。」


全然納得いかないけど、渋々返事をすると話は以上だというように私に背を向けるキャプテン。キャプテンに私はそういう見方をされていたなんて。

注意されてしまったことに、私はプライドを傷付けられた気分になった。


全部、全部、千春の所為。

千春がいるから、部活も恋も上手くいかない。



千春には、あの性格の悪い先輩がお似合いだ。

千春の恋が実るのはムカつくけど、さっさと二人が付き合ってくれたほうがせいせいするかもしれない。


部活のウォーミングアップ中、私の少し前を走る千春を横目に私はそんなことばかり考える。


「リサさっきキャプテンに呼び出されてたよね?なんだった?」

「えー、なんかラフプレー気をつけろって。」

「あーこの前のあれかぁ。たまたま当たっちゃっただけだよねぇ?」

「うん、そうだけど絶対千春が大袈裟に騒いで先輩味方につけてるよね。」

「先輩みんな千春には甘いもんねー。」

「だよねー、まじ鬱陶しいわ。」


友達と千春の悪口を言うのは、今となっては私の日常になっていた。


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