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「千春ってまじで柚瑠先輩好きなの?意味分かんなくない?」

「うん、わかんなーい。今日話しかけた時の柚瑠先輩めっちゃ冷たかったよね。」

「え、そうなの?」

「なんかすごいめんどくさそうな顔された。あ、でも近くで見た高野先輩はめっちゃクールでかっこよかったぁ!」

「じゃあやっぱさー、高野先輩に近付くためなんじゃない?柚瑠先輩と先に仲良くなってから徐々に高野先輩との距離詰めるって感じ。」

「だよねーそれ思うー。あいつ策士だな。」


部室の中から話し声が聞こえてきた。

はっきり名前は聞き取れなかったけど、なんとなくあたしのことを言われてる気がする。ガチャ、と扉を開けた瞬間にシーンと静かになったのがその証拠だ。


練習前に言い争いするのも疲れるから、何も言わずに鞄を置いてさっさと練習着に着替え始める。


「ね〜、千春って柚瑠先輩のどこが好きなの?」


友人の一人があたしに話しかけてきたと思ったら、『それ聞いてどうするの?』って言いたくなるようなことを聞いてくる。


「話のネタにされるし言いたくない。」


顔も見ずに吐き捨てるように返事をすると、「うーわ冷たっ。ある意味柚瑠先輩とお似合いだよ〜。」と言ってクスクスと笑われた。

は?お似合い?誰と誰が?それどういう意味で言った?なんだかバカにしたような言われ方をした気がするんだけど。


てかそんな話ばっかりしてないでさっさと着替えた奴から準備しに行けよ。って言ってもどうせ影で偉そうとか上から目線とか言われるだろうから、無言でさっさと着替えを終えてあたしが先に部室を出てやった。


今日は学校生活の中であたしが一番楽しみにしている男バスが体育館の隣のコートで練習する日だ。


「姫井〜今日女バスも中練なんだぁ良かったな〜。」

「うるさい喋りかけんな!」

「うわっやめろって!」


体育館で同じ学年の男バスの奴がすれ違いざまに余計な一言を言ってきた。

イラっとしてそいつの足を狙って蹴ってやろうとしていたところで、体育館に入ってきた七宮先輩の姿が視界の端に映る。


先輩にガサツな女だと思われるのは嫌で、男の足を蹴ろうとしていた寸前で動作を止めると、男バスのそいつはチラッと七宮先輩を見てニヤニヤし始めた。


「お前健太に喧嘩売ってるとこ先輩に見られたんだろ?まじその性格気をつけた方がいいって。」


七宮先輩に会ったら絶対挨拶するのが毎日の目標なのに、せっかく近くに七宮先輩が居るところでニヤニヤムカつく態度であたしに絡んでくるのはやめてほしい。


「それはあいつがうざかったのが悪い。」


さっさとこいつから離れようと雑に返事をしながら歩き始めたところで、七宮先輩が体育館倉庫に入っていったことに気付き、その後を追う。


あたしは偶然を装うように体育館倉庫へ練習に必要な物を取りに行くと、七宮先輩はカラーコーンを出しているところだった。


「あっ…、七宮先輩こんにちは!」

「ん?おー、今日女バス隣か。」

「はいっ!」


よしっ、今日も目標達成!

もっと話を続けたくて、「先輩のシュートフォームって綺麗ですよね。」とずっと思っていたことを言ってみると、先輩は「あ、まじで?」とちょっと照れるような笑みを浮かべる。

目を細めて、チラリと歯が見せて笑う七宮先輩に、心臓がドキドキした。


「はいっ、どうしたらそんな綺麗なフォームでシュート打てるんですか?」

「えっ、…んー、身体ブレないように体幹鍛える…とか?」

「あー…確かに体幹は鍛えなきゃですよね。でも筋トレあんまり好きじゃなくて…。」

「まあな。普通にシュート連してる方が楽しいよな。」


先輩と会話が続いていることに嬉しい気持ちになっていた時、さっき部室で喋りながらだらだらと着替えていた子達が揃って準備をしに来たみたいで、体育館倉庫で鉢合わせになってしまった。

あたしは七宮先輩に話しかけていたところを見られたのが気まずくて、その子達から目を逸らしながら練習で使うスポーツタイマーを手に取る。

体育館倉庫を出る七宮先輩に続いてあたしも外に出ると、背後からヒソヒソと声が聞こえてきた。


「見た?今の。千春には態度違ったよね。なんか笑ってたし。」

「見たー。面食いなんじゃない?あの先輩性格わるっ!」


聞こえてないと思ってんのか知らないけど、明らかに七宮先輩のことを言っているような会話が聞こえてきて、あたしはカッとなって彼女たちを睨みつけながら振り向いた。


どこをどうみたら先輩が性格悪く見えたのか理解できず、なにか一言文句を言ってやらなきゃ気が済まなくて、『ちょっと!』と背後から肩を掴んでやろうとしたその前に、あたしが七宮先輩にカラーコーンを持っていない方の手でグイッと腕を掴まれる。


「おいおい、姫ちゃんってかなり喧嘩っ早いだろ。」


さらに痛いところを先輩に突かれてしまい、何も口に出すことができず黙り込んだ。恥ずかしい、もうすでにガサツな性格なのがバレバレだ。


「気を付けろよ、部員同士で揉めると練習しにくくなるだろ。」


先輩はそう話しながら、そっとあたしの腕から手を離し、体育館倉庫に背を向け歩き始める。


「あ…、はい…。」

「てか俺またなんか言われた?

…まあ、面食いなのはその通りかもな…。」


…え、どういう意味で言ってるんだろう。ぼやくようにぼそぼそと話す先輩は、その後ため息混じりでクスッと笑いながら、あたしの肩を軽くポンポンと叩いた。

伏し目がちだったあたしの視線が上を向くと、爽やかににこりと笑みを浮かべた先輩と目が合う。


「姫ちゃんもあんまり周りのことは気にせず、練習頑張ろうな。」


最後にあたしにそう言って、男バスのコートの方へ歩いてゆく七宮先輩。


「あっはい!…頑張ります!」


ちょっと返事遅かった?ちゃんと聞こえたかな。

…てかやっば、どうしよう。

腕を掴まれた。ポンポンと肩を叩かれた。

それだけのことで嬉しくて興奮してる。

遠ざかって行くその背中に、抱きつきに行けたらいいのにな。


さっきは友人にムカついてしまったけど、そのおかげで先輩といっぱい喋れたから、見事に浮かれて顔がにやにやしてしまう。


先輩と話せば話すほど、やっぱりこの気持ちは恋なのだと、あたしは七宮先輩のことが好きなのだと、その都度自覚する。


なんか、言いたくなってきたな、『好きです』って。

七宮先輩に告白したい。


無意識にギュッと力が入っていた手を強く握りしめながら、あたしはその時決意した。


七宮先輩に、いつか絶対告白しよう。


姫ちゃんの片想い おわり


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