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「「柚瑠先輩こんにちはー!」」

「えっ?あー…ちわー。」


休み時間中、自販機前でサンドイッチを食べながら真桜がミルクティーを飲み終わるのを待っていると、偶然居合わせた女バスの1年生っぽい女子二人組に挨拶をされた。


「あ、私たち女バスの1年なんですけど、よく先輩の話聞いてるんですよ〜。」

「あの、高野先輩ですよねっ!お二人って仲良いですよね〜!」


あーはいはい…、“高野先輩”目当てな、了解。

今まで話したことも無かったのに、急にバスケ部の後輩ぶって話しかけてくる彼女たちは少し不愉快で、適当に話を聞き流した。ちなみに言うと、真桜は完全に彼女たちを無視している。


「…あ…じゃあ、失礼しまぁす…。」


会話を弾ませるような態度を俺が取らなかったため、気まずそうに女バスの1年はすぐにその場を去っていく。

ゴクッとミルクティーを飲み干し、真桜がゴミ箱に空き缶を捨てているのを見ていた尻目に、そんな彼女たちの姿を確認する。

コソコソと「柚瑠先輩めっちゃ感じ悪くない?」と言われる声が聞こえてきて、おいおい聞こえてるぞ。って思わず苦笑した。


「俺感じ悪かった?」

「ううん、なんで?」

「感じ悪いって言われたっぽい。」


去っていく二人組の背中を指差しながら真桜に愚痴ると、その背中に冷ややかな目を向ける真桜。


「てか勝手に柚瑠って呼んでんなよ。」

「え、そこ?」


真桜は不満そうに唇を尖らせて、静かにキレている。確かに『柚瑠先輩』って呼ばれたけどそれは単純に男バスの後輩や女バスの2年からそう呼ばれてるからだと思うけど。


「俺だって最初七宮って呼んでたのに。」

「ハハッなんだそれ、しょうもな。」


ちっちゃいことでキレる真桜を見ていたら、『感じ悪い』とか言われることなんかどうでも良くなって、グシャグシャと真桜の髪を雑に撫でながら階段を登った。


…まあ確かに、さっきの俺の態度は感じ悪かったかも。でもそうと分かってもらえたら、もう真桜目当てで俺が話しかけられることは無いだろうとプラスに考えることにした。


「…最近女バスの1年によく話しかけられてるよな…。」

「ん?…そうか?」


…あ、でも真桜から見たらそうかもな。

むすっと不貞腐れたような態度の真桜にちょっと笑って、「真桜目当ての奴らだろ。」と正直に言ってやった。


「はい?」

「ハハッ!いや『はい?』じゃねえわ。真桜と俺が仲良いから真桜に近付くためにまず俺が絡まれるんだって。」


真桜は俺の発言にポカンと口を開け、眉間には皺を寄せて心底理解できない、と言いたげな顔で俺を見つめる。


「…じゃあ、あの姫ちゃんって子も…?」

「あ〜、姫ちゃんはどうだろ。あの子はそんな回りくどいことしないかもな。」


なんとなくだけど姫ちゃんは、思ったことを直接本人にはっきり言える子なんじゃないかと思う。

気が強そうな一面を見てしまったのも理由の一つだが、昨日の部活後、自分でも忘れかけていた“俺が声をかけたこと”に対してわざわざお礼を言いに来てくれたのが何より大きい。


だからもし、姫ちゃんが真桜に近付きたかったら、いちいち俺を通さず直接真桜本人へ向かっていきそうだ。


「…なんでそう思うの?」

「ん?…まあただの勘?」


思うことは多々あるものの断言はできないので、真桜には適当にそう返事した。


「…ふぅん。」と頷く真桜は、まだなんか聞きたそうな顔をしながらも何も言わずに黙って階段を登る。


なんだよそのちょっと不安そうな顔。

俺の真桜への愛がまだまだ足りないか?

それとももっともっと欲しくて仕方ない?

あー…そうか。この前セックス断ったからな。

真桜くんさては欲求不満だな。


「はいはい、分かった分かった。次はしような。」

「……?」


6組の教室前まで到着し、ポンポンと真桜の背中を叩きながらそう言ったあと、ヒラヒラと手を振り4組の教室へ向かう俺の背中を、真桜が不思議そうに首を傾げて眺めていたことなど俺が知るはずもなく。

自分がめちゃくちゃズレたことを言っていることにも、勿論気付くことはなかった。


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