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「あー疲れた。真桜癒して。」
部活後、今日もさっさとバスケ部員たちと別れて真桜の家に来た。
男バスの後輩と姫ちゃんの喧嘩らしきものを止めて以来、何故かその後輩の態度は少しよそよそしく、なんとなく部活がやり辛い。もしかしたら女子と喧嘩してるところを先輩に見られてしまったのが恥ずかしいのかな。
しかし先輩である俺がこう思ってるくらいなのだから、よそよそしい態度の後輩はもっとやり辛いだろうなと思い、俺はそんな後輩のことは気にしないことにした。
「俺も癒やして。匂い嗅がせて。」
「は?それは嫌。」
匂い嗅がせてって、運動後の身体の匂いを嗅がれたい奴なんているわけがない。しかし俺の返事もお構い無しに俺の首筋に鼻をくっつけてスンスンと息を吸ってくる真桜の頭を引っ叩いた。
「今日俺古典の予習やったら帰る。」
絨毯の上に座り、鞄の中から筆記用具を取り出している俺にベタベタと触れる真桜をそのままに、机の上にノートと教科書を広げた。
真桜はそんな俺の邪魔をするように顔を近付けてきた。
「チューさせて。」
「ん。」
1回だけチューしてやると、俺の身体に腕を巻き付け、ギュッとくっつかれているままではあるが大人しくしている真桜。
「柚瑠好き。」
「知ってるよ。なんだよいきなり。」
静かな部屋の中で、ポツリと呟かれる真桜の声。
「世界で一番俺が柚瑠のこと好き。」
「うん、じゃあ俺も。」
ポエムのような恥ずかしいことを言ってくる真桜の言葉に返事をすると、真桜の俺を抱きしめてくる力が強くなった。
「俺も、なに?」
「は?」
「俺も、の続きは?」
「…世界で一番真桜のことが好き…?」
同じように恥ずかしいことを言わせてきた真桜のお望み通り言ってやると、真桜はガッツリと深くキスをしながら身体を押し倒してきた。
「…なんなんだ今日は。」
「…柚瑠の気持ちが俺から離れてかないか、定期的に不安になる。」
「離れてたらわざわざ部活帰りに家来ないと思うけどな。」
「可愛い子に告られても絶対気持ち揺れないでね。」
「なんだそれ。揺れねーよ。」
ふっ、と笑いながら言うと、真桜は安心するように笑みを浮かべて、また唇を重ねてきた。
「…触りたくなってきちゃった。」
「ごめん今日はまじ無理、今予習やんねーと俺家帰ったら絶対寝る。」
さわさわと俺の腹を撫でてきた真桜の手を掴んで起き上がった。
再び古典の予習を始めようとしている俺の隣で、真桜は唇を尖らせて今度はムスッとしている。
「世界で一番真桜のこと好きだから今日は我慢して。」
そう言ってチュッと唇にキスしてやると、真桜の機嫌はすぐに良くなった。単純すぎる。そんな真桜が可愛いくて好きだ。しかしこんな恥ずかしいことは二度と言いたくない。
「そう言えばこの前バスケ部の1年の子柚瑠のクラスに来てたよな。名前なんだっけ。」
「ん?あー、姫ちゃん?」
「…姫ちゃん…、」
なんだ、まだその子のこと覚えてたんだ。
真桜はオウム返しのように姫ちゃんの名前を口にする。
「姫井…、だから、姫ちゃん?」
「え?ヒメイ?」
「…ううん、…やっぱいい。」
やたら姫ちゃんのことを聞いてくる真桜だが、何が聞きたいのか分からなくて首を傾げていると真桜はそれ以上は何も聞いてこなかった。
なんだかよく分からないが、女子に関心を示す真桜を、少しだけ不審に思った。
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