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女バス部員同士の関係が、最近少しドロドロし始めてしまった。

昨年、私たちと先輩の間でもいざこざがあったことはあるが、その原因は練習態度だ。怖い先輩たちと、気が緩んでいた後輩の私たち。今の雰囲気からしたら、昨年のいざこざなんて可愛いものに感じてしまう。

何故なら今のこのドロドロした雰囲気は、1年の色恋沙汰が原因だったからだ。色恋沙汰なんて、バスケにまったく関係ない。怒るのも面倒なので、2年の私たちはただただ呆れている。


物事の中心に居るのが姫ちゃんだ。可愛くて、男子に人気があるのは周知の事実。そんな姫ちゃんの好きな人が柚瑠だということが、実は女バス1年の間では皆が知っていたらしい。


そこまでは平和だったのだが、誰かが男バス部員にそれを言いふらしたようだ。

女バス1年の子が密かに好きだった男バス1年の子は、姫ちゃんのことが好きだったからだという三角関係が原因でもある。


それに怒った姫ちゃんが、言いふらした子に冷たく当たっている。私たち2年には決して見せない冷淡な顔をしているから、もしかしたらこっちが姫ちゃんの本性なのかもしれない。


そんなことはどうでもいい。姫ちゃんは礼儀正しくて、部活中も真面目で、私たちからすれば姫ちゃんの欠点は見当たらない。


しかし2年の私たち先輩からも可愛がられているというのが、これまた1年の子たちにとって気に食わないようだ。影でコソコソ姫ちゃんの悪口を言ってる後輩たちに、どうしたもんかな。と困らされていた。


そんな女バスの揉め事などまったく知りもしないであろう柚瑠は、今日も呑気に休み時間に早弁している。

勝手に姫ちゃんの好きな人を言いふらされてしまったのがあまりに可哀想で、せめて柚瑠本人には知られないようにしてあげてと男バスの2年にも最近話をしたばかりだ。



「あ〜タカ発見〜。キャッ高野くんも…!」


トイレに行った帰り道、移動教室から帰ってきたのか教科書と筆記用具を持ったタカと高野くんと出会した。トイレの前でなんて恥ずかしい…!


「あ、そうだ。あの話柚瑠に気付かれてないよね?」

「あっ!シッやめろって!」

「え?」


柚瑠と一番仲が良いタカに、姫ちゃんのこと気付かれてないか聞こうとしたら慌ててタカに止められた。


「あの話って?」


そこで、高野くんがタカに問いかける。


「なんでもねーよ。」

「言えって、なんの話だよ。」


高野くんはタカの頬を抓りながらタカに詰め寄っている。グイグイと頬を抓られているタカが面白い。


「バスケ部の話だよ、高野は関係ねー!」

「無くても気になるだろ、なに?教えて?」


タカがなかなか話さないから、高野くんが今度は私に迫ってきた。かつて無いほどの近さで高野くんが私に話しかけてくる。


こんなの私は耐えられない、かっこいい…超かっこいい…。


「バスケ部で今揉めてる子が柚瑠のこと好きで、それを柚瑠には知られないようにしてあげようって話だよ。」


やだ私ったらお喋りっ!キャッだって私の間近で高野くんが聞いてくるんだもん!かっこいい!


「ふぅん。」


でも高野くんに言ったからといって全然問題は無いだろう。実際それを聞いた後もすごく興味無さそうだ。


「…あっ柚瑠には内緒だよ?」

「もちろん。」


キャァ!かっこいい!

一応高野くんにも口止めしておくとにっこりと笑顔で頷かれ、私は昇天しそうになった。


「教えてくれてありがとう。」と私に向かってお礼を言いながら、高野くんはタカと共に6組の教室に入っていった。私はデレデレニヤニヤが治らない顔を手で隠しながら、4組の教室へ戻ったのだった。





トモめ、あいつ余計なことしやがったな。と、6組の教室に入った後の俺は、高野と喋れて嬉しそうにヘラヘラしながら去っていたトモに向かって心の中で毒を吐いた。


高野はトモから聞いた話に、いつもわりと無表情が多いけど無表情を通り越して不機嫌そうな顔をしている。


「え、めっちゃ俺のこと睨んでくんじゃん。」


言っとくけど俺は部外者だ。
バスケ部が揉めてるって言っても女バスの、しかも1年の話で男バスは巻き込まれたようなもの。


「…バスケ部の誰?どの子?」

「高野がそこまで知らなくてもいいだろ。」

「知っときたいんだから別にいいだろ、教えろよぉ!!!」

「ああぁぁぁ分かった!分かったから!!!」


いつもクソ大人しいくせに、俺の肩を掴んでガクガクと揺さぶりながら聞いてくる高野を止めるのが大変だった。

おまけに普段大人しい分、荒ぶる高野に何事だと注目を集めてしまっている。


「1年の子だよ。高野知らないだろうけど姫井っていう結構可愛い子。」


そこまで話して、高野はとうとう泣くんじゃないかと思うくらいベソをかいた。そんな顔を教室で見せるんじゃないよ!


「…モテないわけがないよな。」


そして少し声を震わせてぼやく高野。

モテまくりの高野が、恋人がたかが一人に好かれてるくらいでなにうじうじしてんだ。


「お前が言うか。」って鼻で笑ってやれば、ムッとした顔をする高野がペシッと俺の頬にビンタしてくる。


「ほっぺたぷにぷにしやがってよぉ!」

「えっなにその悪口地味に刺さる!」

「進展あったら報告しろよ!」

「めっちゃ偉そう。報告してください、だろ。」

「何か言ったかよ、ぷにぷに。」


開き直りやがったな、高野このやろうめ…。

柚瑠の前では絶対に見せないような性悪な一面を見せてくる高野にムカッとして、俺はそのイケメンな顔の肉を引っ張り返して反撃してやった。

イケメンこのっ!
肌すべすべしやがって!
ニキビ生えてこい!


こう見えて一応、高野とはクラスで一番仲良しである。


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