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文化祭開始時刻となり、さっそく2年4組の教室内にも生徒が集い始めた。
「美亜来たよ〜!きゃー!美亜可愛い!!」
ピンク色のワンピースを着ていた美亜ちゃんの元に、暁人の彼女が現れた。その後ろから暁人も現れ、特にやる事も無かったから客席に座っていた俺に気付き、暁人はこっちを見て笑いながら歩み寄ってくる。
「うわ、柚瑠はホストやらないっつってなかったか?ばっちりキメてんじゃん。」
「友達が持ってきたスーツ着ろって押し付けられたんだよ。」
「えっ!柚瑠くん!?すごいかっこいい!!」
暁人の彼女にも数秒遅れで声をかけられ、どうも、と軽く会釈する。彼女の俺へのその言葉に、暁人はちょっと不満気だ。
俺が椅子から立ち上がると、暁人が俺の座っていた席に腰掛けた。向かい合って座る暁人の彼女の元に、美亜ちゃんがメニュー表を持って歩み寄ってくる。
「美亜、柚瑠くんかっこいいね。」
「…うん。」
コソッと話す二人の会話を、俺は聞こえないふりをしてその場から離れた。この格好で褒められるのは気恥ずかしいから、健弘みたいにちょっとバカにした言われ方をする方が良いかもしれない。
健弘や吉川はノリノリで教室内を盛り上げており、テンションが高いあいつらが居れば俺が居たって居なくたって気付かれないだろうと思い、こっそりと教室を出た。
2年6組の教室を覗くと、中はすでに4組の教室の倍近くの生徒が集っている。
どう見ても女子率の方が高く、キャーキャー言っている女子の視線の先には、真っ黒いチャイナ服に身を包んで杏仁豆腐をいくつかお盆に乗せて運んでいる真桜の姿があった。
…やべー、真桜かっこいいな。
確かに健弘が言っていた通り、男でも憧れるかっこよさだ。俺は廊下から真桜の姿をぼけーと眺めていると、不意にこっちを向いた真桜と目が合ってしまった。
あ、やべ。真桜に見惚れてしまっていた自分にハッとして顔を少し引っ込める。けれどチラッともう一度真桜を見た時、真桜は真っ赤な顔をしながらあんぐりと口を開け、俺の方を直視していた。
よっ、と軽く真桜に向けて手を上げると、杏仁豆腐を乗せたお盆を持ったまま真桜がこっちに来てしまった。
真桜の一挙一動を周囲から見られており、その所為で俺の方にも女子から視線を向けられてしまった。
「なにそれなにそれなにそれ、かわいい、柚瑠髪かわいい…!」
俺の服装にはまったく興味が無さそうだが、まさかの髪型に関心を持たれたようだ。まるでおしっこ漏らしそうな奴みたいに高速で足踏みしながら小声でぶつぶつと真桜に褒め言葉を向けられる。
「それ溢しそうだからジッとしてくれ。」
「あとで自由時間もらうから一緒に回ろ…?」
「うん、いいよ。またラインして。」
早くそれ配ってこい、と真桜の肩をトントンと叩いて、俺は真桜の前から立ち去った。
しかしかっこよかったなぁ…。と、俺はチャイナ服姿の真桜を思い浮かべながら自分の教室に戻った。
「あっ七宮いた!どこ行ってたのよ!」
「真桜んとこ。あいつガチでかっこよかったぞ。」
「まじ?あたしもあとで見に行こーっと。」
吉川とそんな話をしたあとは暫く自分のクラスで真面目に注文されたものを運んだりしていたが、突然女子たちの色めき立った声が聞こえて振り返ると、満面の笑みを浮かべた真桜が俺の方を見て、ふりふりと手を振りながら立っていた。
「タケ〜、柚瑠指名して良い?」
「柚瑠ご指名入りましたぁ〜っ!!」
「健弘黙ってくれ。」
健弘に真桜と同じ席に座らされた俺は、周囲の女子たちから注目されながらクレープを食べる真桜を正面から眺め続けた。
「真桜クソかっこいいな。普段からそんな格好しろよ。」
「嫌に決まってんだろ。」
健弘も真桜の姿を横から眺めており、やっぱりそのチャイナ服姿に魅了されて、そんなことを言っていた。
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