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初戦はなんとか勝つことができたが、二回戦は負け確定と部員たちが初めから諦めていたくらい格が違う相手校との試合で、そこで俺たちの春の公式戦は残念ながら途切れてしまった。
悔しいけど、上にはもっといっぱい上手い人がゴロゴロ居るので、俺ももっと上手くならなければいけない。
それでも試合を見に来てくれていた真桜、健弘、吉川が俺をかっこよかった、凄かった、と褒めてくれて、照れ臭い気持ちともっともっと頑張ろう、という気持ちを抱いた。
気温も随分高くなってきて、季節は夏を迎えようとしている。バスケ部の先輩たちも引退してしまい、俺たち2年が後輩を引っ張っていく番だ。
そして学校では、進級して初めての学校行事、球技大会が行われた。外でバレーボール、体育館でバスケットボールの二種目となっており、俺は勿論バスケットボールを選択していた。
「へい、柚瑠!」
「ホイ、柚瑠!」
「いっけー!柚瑠そのままシュートしろ!」
俺は健弘たちとチームを組んでバスケの試合に挑んだのだが、笑えるくらいみんな下手くそで俺任せ。
仕方なしに自分でドリブルしてシュートを決めに行ったり、ここぞとばかりにスリーポイントシュートを見せつけて点を稼いで試合に勝った。
「おつかれ〜七宮まじうまいね〜。」
「サンキュー、お前もちゃんとやれよ。」
男女別に前半後半に分かれて試合が行われるルールとなっているのだが、俺と入れ違いに次に吉川がコートに入り、そんな言葉を交わした。
女子は女バスの友達を中心として頑張っているが、その中には美亜ちゃんの姿もあった。不慣れな感じだがなんとかパスを回そうと頑張っている。
相手にガードされ、困っていたところで、コート上にポツンと立っていた吉川にボールが回った。
「キャァ!」
「いやキャァじゃねえ、吉川ドリブルドリブル!」
俺は思わず吉川に向かってドリブルのジェスチャーをする。すると、ダン、ダン、ダン、とゆっくりボールをつきはじめた吉川が、その後「エイ!」と下手くそなシュートを打った。
そのボールはゴールに届くことなく、相手チームに奪われてしまったがまあいいだろう。吉川の頑張りに意味がある。
「吉川どんまい!」
笑ってそう声をかけると、吉川はおちゃめにペロッと舌を出した。そんな吉川に笑っている俺の横で、陽キャな友達たちが俺を見て不思議そうに問いかける。
「柚瑠ってまじで吉川さんと付き合ってねえの?」
「お前ら実は付き合ってんじゃね?って言われてるぞ?」
「え、まじで付き合ってない。」
聞かれたのは初めてでは無く、その都度否定している。けれどまだ疑われているらしい。その会話を聞いていた健弘が、何も言わずに笑っていた。
男女というだけで仲良くしているとすぐに付き合っているのを疑われるのに、俺と真桜が付き合ってるだなんて誰も疑いすらしないんだろうな。
「おつ〜、次真桜くんのクラスと試合だね〜。」
試合が終わってルンルンとスキップしながら近付いてきた吉川が、俺の隣に座った。
「柚瑠俺対真桜タカだな。」
「健弘トラベリングまじ気を付けろよ?」
「うははっわかったわかった。」
先程の試合でまるでドリブルという存在を忘れたのかと思うくらい、普通にボールを持って歩いていた健弘を思い出したら少し笑えてしまう。
笑い混じりに健弘に注意していたところで、真桜とタカが俺たちの元へ歩み寄ってきた。
「よお、次柚瑠んとことだなぁ。」
「おう、そっちのクラスどうなんだよ?」
「身長だけは高いの揃えた。」
「まじか。俺んとこは正直微妙。」
「おい!こっち見て言うな。」
ペシッと健弘に頭を叩かれた俺を見てクスリと笑う真桜。俺はそんな真桜を見上げて、ニッと笑った。
「真桜よそ見してんなよ?」
つまり何が言いたいかというと、試合中俺の方ばっか見てるなよ?ってことなのだが。
真桜は一瞬キョトンとした顔をしたあと、ちょっと照れ臭そうに「するかも。」と言って俺からそっぽ向いた。
「いや高野、まじでよそ見してんなよ?」
そしてその会話を聞いていたタカが、真面目に真桜を注意していて笑ってしまった。
『ピーッ』とホイッスルの音で真桜とタカのクラスとの試合が始まり、俺とタカとのジャンプボールで俺が弾いたボールがスポッとクラスメイトの手に落ちた。
「オッケオッケ!!パスパス!!」
俺は自分からパスを貰いに行き、シュートを打つ。先取点を取り、次に相手クラスの生徒がタカにパスを投げた。
タカはドリブルをつきながらゴールを目指そうとするが、「へいへいへい」「ヨォヨォ」と陽キャ軍団がタカを取り囲み、タカは鬱陶しそうにしながらも笑って健弘の近くで突っ立っていた真桜にパスを投げた。
ダムダム、とドリブルをついた真桜がゴールを目指すが、健弘がボールを奪おうと手を出している。
それに俺も参戦し、真桜の顔を見つめながら手を出した途端、呆気なくボールが取れてしまった。
「おい高野ぉ!!」
タカが真桜に怒っている声を聞きながら、俺はスリーポイントラインの前で止まり、シュートを放つ。
「お〜」と聞こえる歓声に気を良くしながらチラリと真桜の方を見ると、あいつまで「お〜」と口を開けてパチパチと拍手をしていた。
「高野まじでちゃんとやれって!!」
「や、ごめん、柚瑠すげえなと思って。」
「ちゃんと俺にパスくれたら俺もすごいから!」
真桜に自分からそんなことを言っているタカが周囲に笑われている。しかしその後、タカにパスが集まり出し、タカは順調にドリブルをしてシュートを決めている。
タカはドリブルに勢いがあるから、健弘たちにタカを止めるのは難しいと思う。
それでも陽キャ軍団たちは諦めずみんなで力を合わせて「ヘイヘイ!」「オラオラ!」とタカに向かっていくから、タカはやっぱり鬱陶しそうに笑って足を止めさせられている。
タカがゴールへ放ったシュートはリバウンドし、そのボールをキャッチした俺は、またスリーポイントラインまでドリブルをして、そこからシュートを放った。
最近は俺の特技だと言えるくらい、シュートに自信がついてきたところだった。
ポスッと綺麗に入ってくれたシュートに、やっぱり真桜は俺の近くで、にこにこと笑って、「やっぱ柚瑠すごいな〜」と拍手をしてくれている。
日々頑張っていることを、真桜に『すごい』と言ってもらえるのがなにより嬉しくて、自信に繋がり、俺は今後ももっと練習を頑張れそう。
「もうまじで高野さ〜、高野のお前まじさ〜、も〜。まじ高野も〜。」
試合が終わった後、タカがチクチクと真桜に文句を言っている。真桜がほぼやる気なかった上に俺がシュートを決めると拍手しているから、まあタカの立場になってみれば文句を言いたい気持ちもよく分かる。
「ウケるよな、真桜まじどっちの味方だよ。」
「柚瑠のシュートに魅了されすぎ。」
「俺が見た時こいつ満面の笑みで拍手してたぞ!」
タカに文句を言われている真桜を見て、周囲の陽キャ友達まで真桜を指差しながら笑っている。
あんまり人前で俺ににこにこした顔を向けるな、とは思うものの、向けられたらまあ嬉しい。
隠しているつもりでも、あまり隠せてない真桜にちょっとヒヤヒヤしたりするけど、まあ疑われてないなら良いや。
…って、最近では隠す気が随分薄れてしまった俺たちだった。
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