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5月に入ってすぐのゴールデンウィークは部活の練習だらけで終わり、早くも今日は5月中旬、公式戦の1試合目の日だった。
勝てば明日も試合があるが、負けたらそこで終了。

その試合を最後に3年の先輩で早い人はもうバスケ部引退となる、大事な試合だ。


朝練に行く日と同じくらいの時間に目覚め、朝ご飯を食べ、鞄の中にユニホームや予備の着替え、飲み物や補食などを詰め込み、家を出た。


朝早くに真桜から【 柚瑠頑張れ、応援も行くけど 】という淡白なラインが届いていた。勿論ラインも応援に来てくれるのも嬉しいが、もう起きてくれてるんだ、っていう些細なことにも嬉しくなった。



試合会場となっている体育館には何校もの学校の生徒で溢れかえっているため、応援に来てくれる真桜の姿を探すのは難しそうだ。

せめて少しくらい、顔を見れたら良いんだけど。





「あ!暁人〜!頑張ってね〜!」


バスケ部の試合前、コートの近くで待機していた暁人くんの姿を見つけた友達が、できるだけ近くに移動して手を振りながら暁人くんに声をかけた。


彼女は堂々と声をかけられて羨ましい。

私はその近くに居た柚瑠くんに声をかけたかったものの、ただのクラスメイトの私がわざわざ柚瑠くんに声をかけるのは少し気が引けてしまった。


せめて目が合ったりして、柚瑠くんから何か反応してくれたら…、なんて淡い期待を抱きながら柚瑠くんの方を見ていると、私が立っていた場所のすぐ近くから「あ、七宮いた〜!お〜い七宮〜!」という女の人の柚瑠くんを呼ぶ声が聞こえてきた。


私は思わず振り向き、声の持ち主の姿を確認すると、同じクラスの吉川さんが満面の笑みを浮かべて柚瑠くんに手を振っている。


「がんばってね〜!」という応援に対し、「おう、サンキュー。」と柚瑠くんは笑みを返しながら返事をした。


私と一緒に応援に来ていた友達が、怪しむような目で吉川さんを横目に見る。


「あの人よく柚瑠くんと一緒にいるよね。どういう関係なわけ…?」

「…さぁ、わかんない…。」


私もいつも思っていることだった。
吉川さんはいつも親しげに柚瑠くんと喋っていて、クラスの女子の中では一番仲が良くて、柚瑠くんによくくっついている。

暁人くんから聞いた話では『彼女では無いらしい』とのことだけど、正直疑いの目を向けてしまう。今日だって応援に来てるし。


「あっ高野くんも来てる!柚瑠くんと仲良いな〜。」


友達は吉川さんの次に、高野くんも応援に来ていることに気付いて目を向けた。


「柚瑠!」


高野くんの声が賑やかな体育館の中でもはっきり聞こえて、柚瑠くんはその声に引き寄せられるように高野くんに視線を向け、にっこりと満面の笑みを見せた。


「柚瑠がんばれよ〜」ともう一人、同じクラスの富岡くんも応援に来ている。3人で来たのかな。


ひょっとして吉川さんは、高野くんか富岡くんの彼女では?…なんて、私は自分に都合良く考えたくて、心からバスケの試合の応援をしたいのにそんなことばかり考えてしまってしょうがなかった。



柚瑠くんのポジションはシューティングガードだ。

ボールを上手く周りにパスしつつ、チャンスが来たらそれを逃さず、スリーポイントラインから足を軽く曲げ、両手でボールを持って腕を伸ばし、綺麗なフォームで柚瑠くんの手からボールが放たれる。

ストン、とボールがゴールに吸い込まれると、わっとその場が盛り上がる。


「すごいすごい!七宮超かっこいい!!」


吉川さんのそんな興奮している声も聞こえてくる。柚瑠くんがシュートを決める度、「キャー!!」と手を叩いて喜んでいて、私はとても複雑な気持ちになった。


かっこいい。すごくかっこいい。私だってそう思う。けれど、堂々とそれを言葉に出し、喜んでいる吉川さんに、私は嫉妬していた。


「やべえ、…柚瑠かっこいいな。」

「…真桜、足ジタバタするのやめろ。」


しかし私は今もまだ知らない。

嫉妬するべき相手は、吉川さんではないことを。



初戦から接戦ではあったが、なんとか柚瑠くんたちは勝利を収め、2回戦に進むことになった。


シュートが決まった時の、グッと小さくガッツポーズをしている柚瑠くんの姿が、とてもかっこよかった。


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