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真桜の家に上がらせてもらうと、真桜は落ち着きなさそうにガシガシと頭をいじりながら台所の方へ消えていった。

俺はリビングのカーペットの上で座って真桜を待っていると、コップに入ったお茶を机の上に置いてくれる。

お礼を言ってお茶を飲み始めると、ストンと俺の隣に腰を下ろして胡座をかいだ真桜は、前髪をいじりながらチラ、と俺のことを見てきた。


「真桜パスタ以外に嫌いなものなに?」


多分、気恥ずかしいのはお互い様で、お茶を半分くらい飲んでからコップを机の上に戻し、カーペットの上に両手をついて両足を伸ばしながら俺は何気ない雰囲気を装って真桜に問いかける。


「…ざるそば。」

「麺類ばっかだな。他には?」

「んー…、グリンピースとか。」

「あー分かる、それは俺もだな。」


パスタ、ざるそば、ときて次にグリンピースってことはあとのものはだいたい食えんのかな。

ミルクティーが好きそうだし、好きな食べ物はなんなんだろう。聞かなくても見てたらそのうち分かってくるかな。


「じゃあ真桜と飯行く時はパスタとざるそば以外だな。」

「柚瑠の嫌いなのは?」

「俺?大体のものは食えるから特に嫌いとかはないな。」

「ふぅん、…えらいな。」


真桜は俺を見ることもなく、下を向いて相槌を打った。

直視してくると思いきや、目を逸らしたりして、どんだけ落ち着きが無いんだ。二人になりたいって言ったのは真桜だろ?って、俺は真桜を見ているとついつい笑いそうになる。


「なあ知ってる?俺ら仲良くなってまだ3ヶ月ちょいしか経ってねえんだぜ?」

「…あ、まだそんなもんなんだ。」

「真桜は最初すげーチャラい奴かと思ってたらこれだもんなー。最近ようやく真桜のことをちゃんと理解してきたところだよ。」


笑い混じりにそう話す俺の言葉に、真桜は恥ずかしそうにしながらそっぽ向いた。


そんな真桜に向かって、俺は握手を求めるように片手を差し出す。けれど真桜は不思議そうに俺の片手を眺めるだけだから、自分から真桜の胡座の上に置かれていた手を取って、握った。


「まだまだ俺ら知らないこといっぱいあると思うしさ、お互い。俺は真桜のこと、これからもっと知っていきたいって思ってる。」


俺が知ってる真桜のことなんて、まだまだほんの一部だけだ。きっと健弘なら俺の何十倍も、真桜のことを知ってて、理解もしてると思う。


「俺もさ、真桜との接し方とか、これからどうしようかなって考えたら、正直ちょっと怖気付く。真桜と一緒に居られなくなるの嫌なんだよ。せっかく仲良くなったところなのに。」


そう話しながら、ぎゅっと真桜の手を握る力を強めると、真桜は眉を寄せて、また泣き出しそうな顔になった。

真桜は内気で、多分、泣き虫だ。決して真桜を泣かせたくて言っているわけではないのに、真桜はすぐに俺を見ながら不安そうな顔になる。


「真桜は俺に嫌われるの嫌だっつっていっつもビクビクしてるけどさ、俺は真桜のこと、全然嫌じゃねえんだわ。」


俺はそこで、真桜を安心させたくて、へらりと間抜けな笑みを浮かべた。


真桜の手を離して、軽く両手を広げてみると、真桜は困惑するように首を傾げて俺を見る。


「“どこまでだったら嫌じゃない?”って聞いてただろ?俺真桜とハグなんか余裕なんだけど?」


俺はふっと笑いながら、困り顔の真桜に言ってやると、やっぱり真桜は泣きそうな顔になりながら、ゆるゆると俺の方に両手を伸ばして、俺の背に腕を回し、ギュッと俺を抱きしめた。


「ヒッ」って、なんか嗚咽するような、鼻を啜ったような声が俺の肩口から聞こえてきたと思ったら、真桜は俺の肩に顔を押し付けて、微かに身体を震わせる。


なんだよ、やっぱり泣くのか?って、俺はポンポンと真桜の髪を撫でてやった。

すると、より一層抱きしめる力を強めてきた真桜に「イテテ」と笑う。


暫くして涙はもう引っ込んだのか、チラリと俺を見上げてきた真桜が、何か言いたそうにジッと俺の顔を見つめてきた。


「ん?」と首を傾げると、真桜は苦悶するような表情で、「…キスは嫌?」と聞いてくる。


「ううん?寧ろそうくると思ってた。」


もう想定済みな真桜の感情に、俺は目を閉じて唇を少し突き出す。


その後、そっと合わさった真桜の唇は、あったかくて、柔らかくて、初めてのキスという感触に照れ臭い気持ちとか、なんか変な感情がいろいろと溢れてしまった。



優しく柔らかな真桜のキスは、数秒間でそっと離され、真桜は頬を赤らめて俺から顔を離し、下を向く。


耳まで赤くして照れている真桜を見て、俺は心穏やかな気持ちになれたのだった。


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