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先日体育祭が終わったと思ったら、今度はもうすでに中間テストの日が迫っている。
「おーっす、真桜おはよ。」
朝からチャリを漕いで信号を渡っている真桜を見つけて近付き声をかけたのだが、真桜は鼻歌なんか歌っていてやけにご機嫌な様子だった。
「あ、タケおはよう。」
そして挨拶を返す真桜の顔には満面の笑みが浮かんでいる。
ああ?何か良いことでもあったのか?と思いながら真桜と一緒に学校へ向かっていると、「真桜ー、健弘ー、おはよう。」と後ろからチャリを漕ぐ速度がやたら速い柚瑠が現れた。
白シャツとスラックスを穿いている柚瑠は、テスト週間に突入したため多分朝練は休みなのだろう。
チャリを漕ぐ速度が速すぎて、スーッと俺たちを追い抜かしてしまった柚瑠の後を、真桜がチャリを漕ぐ速度を早めて追いかけた。
屈託のない笑顔で柚瑠を追いかける真桜の表情は晴れやかだった。ここまで明るくイキイキしている真桜を俺はあまり見たことがない。
学校に到着して、チャリを停めた後にコソッと「真桜、柚瑠となんかあった?」と問いかけると、真桜は笑顔で「ううん。」と首を振る。
いやそれ絶対嘘だろ。
俺は真桜を疑いながらも、それ以上は聞かずに2人の様子を密かに観察し続けた。
「タカ集合。」
自分のクラスの教室に入った俺は、柚瑠と同じく白シャツスラックスのタカを手招きして呼び寄せた。朝練が休みなくせに手にはあんぱんを持っている。
まあタカが大食いなのはいつものことなので突っ込まずに、俺は本題に入った。
「お前柚瑠から真桜のことでなんか聞いた?」
「ん?なんかって?別になんも?」
「あ、そう。」
…じゃあまじで何もないのか?…いや、それにしてはやたら真桜がご機嫌だったけど。
しかしあまり詮索してしまうとバレた時に柚瑠に嫌がられてしまうため、あれこれ聞くのはそこそこにして我慢する。
「あ、タカもまた真桜んちで勉強するだろ?」
「おーするする。高野んちが一番勉強しやすい。」
「だろ。俺ももうずっと真桜んちにお世話になってる。」
「いや、タケはお世話になりすぎ。」
「ハハッ、まあいいじゃん。」
タカとはそんな話をして、会話を終わらせる。
教室には先生が入ってきて、中間テストに向けての対策授業が行われた。
「タケ〜、今日放課後真桜くんも誘って一緒に勉強しようよ。」
休み時間になると、女友達が俺にそう声をかけてくる。あれから真桜は彼女とは別れたみたいだから、ここぞとばかりに真桜と距離を縮めたがる子が多い。
中学の時からの女友達であるこの子も多分もうずっと真桜に片想いしていて何度も振られているはずなのに、諦めきれないのだろう。
「真桜に聞いて。放課後は他の友達と勉強するかもだし。」
「え〜、誰とー?あたしも真桜くんと一緒に勉強したい。」
だから真桜に聞けっての。
諦めの悪い女友達を引き連れて、真桜のクラスの教室を覗けば、真桜は柚瑠を含むクラスメイトたちと楽しそうに喋っているところだった。それにしてもやっぱり機嫌が良さそうだ。
「真桜ー、今日放課後一緒に勉強しよって誘われてんだけど。」
俺は女友達を指差しながら真桜に呼び掛けると、真桜は一度チラッと柚瑠の方を見た。
けれど柚瑠からは特に何の反応もなく、真桜もそんな柚瑠を一瞬見ただけで、その後「ごめん、俺はいいや。」と断ってきた。
「え〜。」と不満そうにする女友達に「諦めろ。」と肩を叩く。
自分たちの教室に戻ろうとする前に、最後にもう一度真桜の方を見ると、「柚瑠一緒に勉強しよ?」と真桜は自分から柚瑠を誘っている。
「おう、いいよ。」と頷く柚瑠に真桜はやっぱり満面の笑みを浮かべていて、どう考えても俺の知らないところで“何かがあった”と疑わずにはいられない。
真桜め、なんでも相談しろって言ってるのに彼女作った時もなんも言わねえし、嬉しいことでも報告なしか?って、俺は何も話してくれない親友に、ほんの少しだけ拗ねた。
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