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真桜と佐伯が別れたからと言って、そんなにすぐには真桜とどうこうなろうという気にはなれなかった。

なんとなく真桜も、暗い表情の佐伯のことを少し気にしている気がして、情がわいているのだろうか?と思ったりする。

だからと言って関わる気はまったく無さそうで、一時期仲良くしていた文化祭のダンスメンバーとの関わりはぐんと減り、今では吉川や白石の方がすっかり親しい間柄になっていたりする。


笑えるくらいにここ最近で人間関係に変動が起こったよなぁ。と、俺は笑顔で会話している真桜と吉川を眺めながら一人そんなことを考えていた。

啀み合っていた者同士がこんなに仲良くなったのに、高校1年がもう半分も過ぎている。

月日が経つのは早いよなぁと思いながら、俺はこの先の真桜とのことばかりを考えていた。





テスト週間に入る前の最後の休みの日に、俺は真桜を誘って二人で近場のボウリング場に遊びに来た。


10月に入り少しは涼しくなったものの、俺はまだまだ全然半袖でも余裕で、Tシャツにバスパンというお馴染みのスタイルだが、遊びに出かけているのにこんな格好はどうなんだろうと少しくらいは思ったりする。


真桜は七分袖のベージュTシャツと黒パンツを緩く着こなしており、俺はますます自分が恥ずかしくなってしまった。

でもぶっちゃけ私服こんなんしか無いんだよなぁ、俺。しかもバスパンって楽すぎておしゃれとかより楽さを選んでしまう。

けれど真桜なら、俺はそれでいいって言ってくれそう。


「よっしゃ!ストライク!」


ボウリングを開始して三投目でストライクを出せて俺はガッツポーズをしながら喜ぶと、真桜が笑顔でパチパチと拍手をしてくれる。そのあとに真桜が投げると、よろよろと端の方に転がり、控えめに1本ピンを倒した。

どうやら真桜は球技が苦手なのかもしれない。


あまり張り合いも無いので2ゲームで終わらせて、「何か食べに行く?」と昼飯の提案をしてみた。


「うん、行こっか。柚瑠何食いたい?」

「ん〜、そうだなぁ。俺は麺類かなぁ。真桜は?」

「じゃあ俺も麺類で。」


…んー、完全に合わされた感があるなぁ。

俺に合わせるのではなく、真桜の好みも知りたかったんだけどな。と思いながら、ジト目で真桜の食べたいものを言うように促すと、真桜は少し苦笑いで「じゃあパスタ以外で…。」と口にした。


「ちゃんと苦手なもんは言えよな。」

「でも俺は、柚瑠が食いたいものがいいから。」

「はいはい、じゃあパスタ以外な。」


まじで俺がパスタが良いって言ったら何も言わずにパスタ食ってそうだな。と想像したら笑えてしまい、もっと真桜の苦手なものをこっそり探ってやろうと思った。


ボウリング場の近くに丁度ラーメン屋があったから、結局昼はラーメンを食べることにした。外は少し暑かったが店内は冷房が効いていて快適だ。


真桜はラーメンのみを注文したが、俺はラーメンと餃子も頼んでばくばく食ってしまい、今更だが食う量が多い自分が少し恥ずかしい。なんならもっと食べられるくらいだ。


「美味いな、ここのラーメン。」

「また来ようか。次は焼き飯も食いたいな。」

「まだ食べれんの?」

「…全然余裕なんだけど。」

「…俺ももっと食わなきゃなぁ。」

「え、いや、真桜はそのままで良いだろ。」


なんでそんなことを思うのか、と少し疑問に思っていたら、「柚瑠に身長抜かれたら嫌だなぁ。」と真桜はボソッと呟いた。


バスケ部員としてはもっと身長を伸ばしたいというのに、真桜の呟きには闘争心が芽生えてしまいそうになる。


「あと5センチ伸ばして真桜の身長抜かすわ。」

「え、嫌。じゃあ俺毎朝牛乳飲も。」


やたら俺に身長を抜かれるのを嫌がる真桜を挑発しながら、俺はニタニタと笑った。


こんなふうに真桜と2人で出かけるのは何気に初めてで、学校とはちょっと違った雰囲気の真桜と過ごせて、楽しくて、時間はすぐに過ぎてしまう。


「このあとどうする?どっか行きたいところある?」

「んー、…柚瑠と二人になりたいな。」


「…あ、別に変な意味はなく。」って、俺の返事を聞く前に言葉を付け足した真桜に笑った。


「変な意味はなく二人になりたいって…ほんとかなぁ。」


俺は笑いながら疑うようにそう言うと、真桜は気まずそうに前髪をいじりながら黙り込む。


「まあいいや。真桜んち行く?親いる?」

「いや…いないと思う…。」


また俺を抱きしめたがるのかなぁ、…まあ、それでもいいけど。と思いながら、俺は昼下がりの少し暑い秋空の下、真桜と並んでチャリを漕いだ。


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