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友達に、嘲笑われている気がする。
陰で絶対何か悪口を言われている。

ここ最近、そんな空気を感じていた。

文化祭の時はみんな私を慕っていてくれてたのに、私が真桜くんと付き合ったから、嫉妬?最初はそんなふうに思った。

けれど違う。嫉妬じゃない。

真桜くんが私に気持ちなんてないって、すでに気付かれているからだ。


あまりに早かった。私は真桜くんの七宮への気持ちを侮っていたのかもしれない。

七宮を好きなままで良いから付き合おうなんて、そんな関係で、上手くいくはずがなかった。


せめて1ヶ月くらい、真桜くんとちゃんと付き合ってみたかった。

『キスした?』『デートした?』『どこまでいった?』って、友達からの質問攻めに答えられるような付き合いをしたかった。もっと自慢したかった。


もうこんな関係を続けるのは無理だって自分が一番分かってるけれど、ここで真桜くんを手放したら、私には一生手が届かない人になってしまう。

そんなことを考えたら、私は何としてでも真桜くんと別れるのを阻止したかった。


体育祭中のグラウンドでは現在綱引きが行われており、その途中にクラス対抗リレーの召集のアナウンスが流れた。

私も女子の代表で出ることになっていたから、召集場所へ向かいクラスメイトが来るのを待っていると、七宮もこっちに向かってくる姿が見えた。


七宮さえ居なかったら。

私は最近、七宮を見るたびにそんなことを思ってしまうようになった。けれど真桜くんが七宮を好きだったから、私が真桜くんと付き合えたという事実があるのが辛い。

七宮が羨ましい。嫉妬心を剥き出しにした目で七宮のことを見てしまう。そんな私の視線に気付いてか、七宮が険しい顔で私を見ていた。

すぐにその顔はフイと背けられたけど、私から一番離れた位置に七宮は腰を下ろす。


「七宮部活対抗リレーも出てたよな。おつかれ。」

「あー、どっちかっつーとクラスリレー先が良かったな。もう足疲れたわ。」

「ははっ、次も頑張って。」


クラスメイトとそんな会話をしている七宮。

七宮はいつも男女共に親しげに絡まれている。あの扱いづらい吉川さんにまで。私だって以前まではそうだったのに。自分の今の環境を不遇に感じ、また七宮のことを羨んでしまう。

憎い。七宮が真桜くんの気持ちに気付いて、とっとと彼を突き放してしまえばいい。



それから暫くして、長かった綱引きの時間がようやく終わり、クラス対抗リレーで待機していた私たちは全員グラウンドの中央へ移動した。


体育祭の最終種目で、最も注目されている種目でもある。クラスメイトと話し合った結果、私は女子の中のアンカーで、男子のアンカーは七宮だ。


「俺よりお前の方が速いんじゃねえの?」

「え〜でもアンカーって走る距離長いし。俺第一走者で頑張るわ。」


野球部の男子とそんな会話をしながら仕方なさそうに笑っている七宮。お人好しそうな性格が以前までは良かったけど、今はただただ憎たらしい。


走る順番で並ばされ、私の後ろには七宮が並んだ。


足をゆらゆらと片足ずつ揺らしてリレーが始まるのを待っている。もしかして部活対抗リレーも走ってたから足がすでにキツイのかも。


第一走者が白線の前に立ち、ピストル音で一斉にスタートした。4組の順位はまずまずだ。陸上部が居ないからどっちかというと不利な方で、クラスの中ではまだ走るのが速い方だった体操部の女子が必死に順位を下げないように、と下位争いをしている。


私の中で、すでにやる気はまったく無くなっていた。精々自分が抜かれなきゃいいや、って思いながらバトンが回ってくるのを待つ。以前までの自分は何だってやる気満々だったのにな…。


けれど最悪なことに、私にバトンが回ってきた時、4位争いの最中だった。私にバトンが回ってすぐに抜かれてしまい、5位となる。つまり私が抜かされたらビリだ。

チラリと後ろを見ると、6位の女子が私を追いかけている。まだ少し距離が空いていた。

あと少し、というところで、七宮が白線の向こう側に立った。私からのバトンをジッとこっちを見て待っている。


私は憎くて、投げ遣りになって、七宮へいい加減にバトンを渡した。七宮の手にバトンがいく前に、手を離したのだ。


「あっ!ちょっ…!」


七宮が地面に落っこちたバトンを拾おうとしているところで、スタートライン付近に居た生徒とぶつかり、地面に膝と手をつく。

ハーフパンツが砂埃に塗れ、七宮の手はどろどろだ。それでもバトンを必死に拾って、すぐに駆け出した七宮。


バトンは落としたものの順位に変動は無く、6位の人に追いかけられながらも七宮は必死に走っている。


「柚瑠ー!がんばれー!!」

「七宮いけー!!!」


クラスの応援席からは、真桜くんと吉川さんの応援する声が聞こえてきた。


私はそんな声を聞きながら、何やってんだろう…って自分のことが嫌いになりそうになった。


数秒前の自分には、確実に悪意があった。

七宮が恥をかいたらいいのに。っていう思いが私の中にあったのだ。


けれど実際は、いくらバトンでミスをしても、必死に走っている七宮をみんな応援している。


そんな七宮のことが、私はやっぱり憎くて、羨ましいと思ってしまった。


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