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体育祭午前の部は、玉入れと騎馬戦が行われた後終了となった。騎馬戦には真桜とタカが出ていたから、健弘と一緒に応援した。


真桜もタカも背が高い方だったから真ん中でクラスメイトを担ぐ役割をしていたが、戦闘でもみくちゃにされていてちょっと可哀想だったのを健弘と爆笑してしまった。

騎馬戦が終わり、げっそりした顔で戻ってきた真桜の額に巻かれていたハチマキは、結び目が緩くなって顔からずり落ち、首回りに落っこちる。


「真桜おつかれ。ハチマキ取れてるし。」

「敵に頭蹴られて死ぬかと思った…。」


乱れた髪に、ぐったりした顔でハーフパンツに付いた砂を叩いている真桜を、俺は無意識にジッと眺める。真桜はどんな身なりをしていてもかっこいいな。


昼休みは真桜と健弘とは別行動で、俺はタカを含むバスケ部の友人たちと部室の近くに集まる。


「柚瑠部活対抗リレー出るんだって?頑張れよ。」

「おう、俺ユニホームに着替えてくる。」

「いってら。」


昼飯を食べた後、部室に入るとすでに先輩が何人か着替えている。上下白地に青のラインが入ったユニホームで、まだ数回しか来たことが無かったのにまさか体育祭で着ることになるとは。


「おー柚瑠、お前俺より速いし頑張ってくれよ?」

「いや、俺短距離そんなになんですけど。」

「まあ陸上、サッカー、野球部あたりが速そうだし、その次くらい目標だなー。」


すでに先輩は半分諦めモードで、そんな目標を俺に話してきた。先輩がこの調子なら、俺もまあそこそこ抜かれない程度に頑張ろうと思いながら、クラスTシャツを脱ぎ、ユニホームに着替えた。


部室を出ると、そこら中にいろんな部活のユニホームを着た奴らが準備をしている。陸上部の人なんかはストレッチや屈伸をしたりして、速いのが目に見えている。


「走る順番ジャンケンで決めようぜ。」


てっきり走る順番くらいもう決めているのかと思っていたけど、先輩たちは今更そんなことを言い出して、「じゃんけんポン」とジャンケンをしながら、グラウンドへ向かった。


昼休み終了の5分前には、すでに応援席で午後の部がはじまるのを待っている生徒たちの視線を浴びながら、部活対抗リレーの出場者はグラウンドの中央に召集させられた。


辺りを見渡してみると、他のクラスのサッカー部や野球部、バレー部を見かけて、同じ1年が居ることに少しホッとする。


『それでは、これより部活対抗リレーを始めます。第一走者の方は、位置についてください。』


いよいよ体育祭午後の部の開始時刻となり、アナウンスの声に従い、さまざまな部活動の格好をした第一走者の人がスタートラインに立った。


『よーい、ドン』の合図で駆け出したその勢いは凄まじかった。自分が一走者目じゃなくて良かった。弾き飛ばされて転けてたかも。

現にバスケ部の先輩は、スタートで遅れを取り、後ろから3番目を走っている。やっぱり先輩の予想通り、陸上、サッカー、野球が1位、2位、3位と続いていた。


すでに勝敗がついている気がする。

俺にバトンが回ってきた頃には、1位の陸上部とはかなり差が付いている。せめて前を走っている野球部に追いつきたいなと思って、俺は懸命に足を動かした。



「はぁ…はぁ…、あーしんど。」


結果は見事に先輩が目標にしていた4位だ。

前を走っていた野球部の奴は俺とそう変わりないスピードで走っていたから、全然追いつけなかった。


この後クラス対抗リレーもあると言うのに、そこそこ体力を使ってしまい、息を整えながらグラウンドの端に移動する。


クラス対抗リレーまでにユニホームを脱がなくてはいけないから、女子の部活対抗リレーが行われている間にとっとと着替えてしまおうか。と思って歩いていると、向かっていた先でジーとこっちをひたすら見つめてくる真桜の姿を見つけてしまった。


リレー中の大盛り上がりなグラウンドの端で、真桜の側まで行くが、それでも真桜はなにも言わずにジーと俺を見つめてきた。


なんか喋れよと思って真桜を見返していると、突然真桜は、両手を広げてポツリと口を開く。


「…柚瑠のこと抱きしめたいな。」


「……え。」


俺は、あまりに唐突すぎて、固まってしまった。


徐々に自分でも顔が赤くなっている自覚があるほど頭が熱くなってきた。何も返さずに俺は部室の方へ足を動かすと、無言でそんな俺の後をついてくる真桜。


「…どこまでだったら嫌じゃない?」


背後からぽつりと、問いかけられる。
声を聞くだけで、真桜の不安そうな気持ちが伝わった。


「…どこまでだったら平気?」


もう一度そう問いかけてくる真桜の声を聞いたあと、俺はまだグラウンドの大盛り上がりな歓声が聞こえてくるのを確認し、真桜を部室の中へ招き入れた。


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