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ギュルルル…と授業中腹が鳴った俺は、隣の席の女子に視線を向けられ、クスリと笑われた。


「なに?まだお腹減ってるの?」

「まだっつーか常に減ってる。」


次の休み時間で早弁したいところだが、まだこのあと3時間も授業が残っている状態での早弁は危険すぎる。

この授業が終わったら購買へ行ってパンを買おうと決意した俺は、授業後すぐに財布を持って教室を飛び出した。


クラスメイトに『七宮また食ってる』と言われるだろうなと思い、俺はパンを買ってすぐ袋を破り、購買を出たところにある自販機横で腰を下ろしてモグモグと食べていた。


するとそこに、高野が一人気怠げに現れた。

自販機に小銭を入れており、ボタンを押すとガコッと缶が落ちる音がする。高野が買ったのはミルクティーのようで、カッ、とプルタブを開けて自販機前でゴクゴクと飲み始めた。

俺の存在にはまったく気付いておらず、俺としてはちょっと気まずい。


モグモグモグ…と、俺は大人しくパンを食べていただけなのに、ふと高野がこっちを向いた瞬間にギクリとしてしまった。

俺がここに居たことに驚いたのか、まんまるく目を開けて俺を無言で見下ろしている。


「…うわ、恥ず…。」


『こんなところで一人でパン食ってやがる』と思われた気がして、俺は勝手に一人で恥ずかしくなってきてしまった。


モグモグモグ…、急いで食べてしまおうとしたから、「ゲホ、」と少し咽せそうになっていると、高野が自販機を指差しながらボソッと口を開いた。


「……………何か飲む?」

「…へ?…あー、いや…」


チラリと控え目な視線を向けられ、俺は咄嗟に首を振る。さらに気まずい時間が流れてしまった。


「……あ、…余ってるの飲む?」

「あー、おう。じゃあもらうわ。」


高野はミルクティーをもう飲まないみたいなので、半分ほど残ったミルクティーの缶を高野から受け取り、飲み口に口をつけた。


何故か俺がミルクティーを飲んでいる間、高野はチラチラと俺の方を見ては、落ち着きなさそうに髪を弄ったり口に手をやったりしている。


よく分からんやつだ。

高野 真桜が未知すぎる。

とりあえず、目の形がすげえ綺麗。眉もかっこよく整えられてて、あと、鼻と口も文句の付け所がない。まじイケメン、リア充。

結局のところ彼女はどいつだ?


「昨日隣座ってた子彼女?」


昨日とは、フードコートでの話だ。

世間話をするように、何気なく問いかけた言葉に、高野は「…え、」と反応に困ったような低い声を出した。


「……俺、彼女いねえけど…。」

「あ、そうなんだ、ごめん。」


………嘘だろ?


高野自身から直接聞いた話なのに、にわかには信じ難い。また気まずい時間を自ら招いてしまった。

食べ終えたパンの袋をくしゃ、と丸めて、残り僅かになったミルクティーの缶を振る。


「あとちょっとだけ残ってるけど、もういらねえの?」

「…あ、う、うん、もういい…。」


パッと見た感じだけだとちょっと怖そうな感じがするのに、実際に話してみると高野の話し方はなんだかぎこちなくて、人見知りなのだろうか?と思ってしまう。


ミルクティーを全部飲み干して空き缶をゴミ箱に捨てるまで、高野は黙って俺のことをチラチラと見ている。


「やべ、教室はやく戻ろうぜ。」


思わぬところで高野と出会してしまったから、気付けば随分時間が経ってしまっていた。


駆け足で教室に向かう俺の後を、高野が黙って着いてくる。


そういえばミルクティーのお礼を言ってなかったことを思い出し、パッと振り返ると、がっつりと高野と目が合って、高野は瞬時に俺から目を逸らし、下を向いた。


………え?

その反応は何なわけ?


重度の人見知りのような反応を見せる高野に俺は呆気に取られて、お礼を言うのを忘れてしまったのだった。


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