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「七宮!うちらも笑い取りに行くよ!」


2組のダンスで笑い声が上がったのがクラスメイトたちに火をつけてしまったらしく、馬の被り物を頭に被せられた俺は、バシッとダンス部の女子に背中を叩かれながらそう言われた。

現在3組の出番で、4組は舞台裏で待機しているところだった。


「もうすっごいリズミカルにステップ踏みながら登場していいから!高野くんも!はい、二人でやってみな!」


まさかのギリギリになって登場の仕方を練習させられ、俺と真桜は二人で静かにその場でステップを踏む。


「ちょーノリノリでよろしくね!馬脱ぐ時は満面の笑顔!分かった!?」

「「はい。」」


有無を言わさぬ態度のダンス部女子に、俺と真桜は馬の頭でコクリと頷く。


ギリギリまで真桜と共に舞台裏でステップを踏みながら3組が終わるのを待っていると、すでに周囲のクラスメイトたちが俺たちを見てクスクスと声を堪えるように笑っている。

俺まで笑ってしまいそうになっていると、隣の真桜がすでに「ククク」と笑っている。

2組が起こした“笑い”で4組に火をつけてくれたおかげで、緊張感はすっかり吹き飛んでいた。


「それでは次は、1年4組の発表です。」


3組の生徒たちが退場を終えた後、体育館内には俺たちが踊るダンス曲が流れ出した。

まず女子数名が舞台に出て、ダンスを踊り始める。

さらに舞台下でも数人がダンスを踊り始めたところで、センターで踊る俺たちの出る番が来てしまった。


練習通りのステップで俺は舞台に顔を出すが、視界が狭くまったく観客の様子までは把握しきれない。しかし『馬出てきた!』という狙い通りの笑い声や観客席の騒がしさに、俺は馬の被り物の下でニヤリと笑った。


そしてその馬の被り物は、本格的にダンスを踊り始めると同時に、勢い良く脱ぎ捨てた。


馬の被り物を取った途端に、「高野くんだ!!」とやはりこれも女子の狙い通りの歓声が上がる。俺は真桜と一緒に居すぎて忘れかけていたが、真桜のモテっぷりは桁違いだ。

「キャー!」と言う女子の声が聞こえる中で、俺に対して「柚瑠かよ!!」というバスケ部の奴に突っ込まれる声がチラホラ聞こえてきた。先輩からも笑われている気がする。


俺ですよ。と思いながら、俺は満面の笑みをしっかり浮かべて練習通りにガシガシ踊った。ドセンターで踊るダンス部女子の勢いに負けぬよう、俺も、真桜も、周りで踊るクラスメイトたちも必死に練習通りに踊った。

やる気だけなら今のところ、どこのクラスにも負けてない気がする。観客席からの歓声と、次第にどこからともなく聞こえてきた手拍子の音を浴びながら、俺たちのクラスは大成功を収めることができたのだった。


クラスを引っ張っていたダンス部女子は、舞台裏へ退場すると感極まって泣いている。


「おつかれ。ダンスいっぱい教えてくれてありがとな。」


ポンポン、と真桜が優しくダンス部女子の頭を撫でる。他の女子からして見れば、非常に羨ましい光景だ。


「だがのぐん…こちらこそ、ありがどう…。」


真桜の優しさにグスグスと泣き始めてしまったダンス部女子に、真桜は優しく微笑んだ。


俺はそんな光景を眺めながら、この場には相応しくない、もやついた感情が微かに感じられた。

発表が大成功に終わり、晴れ晴れとした気分は確かなのに、俺以外の人間に与えられる真桜の優しさに、俺の心が敏感に反応した。


しかしそんな感情は、一瞬で身を潜める。

真桜が俺の方を見て、「柚瑠おつかれ。」と俺の肩に腕を回してきた。


「おう、ちゃんとできたな。」

「うん。よかったーミスらなくて。」


互いに安心から来る笑みを浮かべながら、観客席の方へと戻る。


「あっ次タケのクラスじゃん。」

「あーロミオな。」

「柚瑠、早く座ろ。」


真桜はそう言って、俺の手を引きながらマットの上に腰を下ろした。


真桜の隣に座りながら舞台を眺め、心の中ではモヤモヤしたことを考える。


…俺は、真桜に女子みたいに扱われたいのか?

頭をぽんぽんと優しく撫でられたいのか?

優しい言葉をかけてほしいのか?


…そんな願望、俺の中にはまったくあるはずがないのに。

真桜の手が他の人に触れるのを、どこかで嫌がっている自分がいる。

真桜の優しさが他の人に向けられると、もやついた感情が押し寄せる。


そんな自分の、微かな変化に、

気付いてしまったのだった。


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